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赤の残滓

来ていただいてありがとうございます!




まだ終わってない……だが今は……








暖炉の薪がパチッとはぜた。窓の外はまた雪が降り始めていて、根雪になりそう。白の王国っていうくらいだから、雪の季節は長いんだよね。


私は暖炉の前にふかふかマットを敷いて精霊のローズちゃんとお菓子とお茶を楽しんでる。今日のお菓子は前世にもあったスノーボールクッキーみたいなの。それから小さな四角いケーキ。

「あら、このケーキ美味しいわねぇ。木の実の味がするわ」

王都の街のお菓子屋さんには、名前は違うけどフィナンシェみたいなケーキが普通に売ってるんだ。アーモンドパウダーにそっくりな粉が素材屋さんにあるみたい。ほんと、この世界どうなってるの?

「うん。しっとりしてて美味しいよねぇ」

熱い紅茶に暖炉の炎でほてったほっぺ。あったかくて、美味しくて、幸せ……。


「でね、リンジー様のドレスのデザインを手伝わせてもらったんだけど、今回は深紅のバラ色なの!とっても綺麗だったんだよ!」

「ルミリエは自分のドレスのデザインには興味無いくせに、どうしてそう他人のドレスには気合が入るのかしらねぇ……」

「えへへ、楽しいんだよねぇ、こういうのって」

前世で妹の衣装作りをしてた時から服のデザインとかに興味があった。誰か(主に女の子)を着飾らせてもらうのってすっごく楽しい!それに自分が着るドレスに興味が無いわけじゃない。ノエル君が毎回見立ててくれるから、必要に迫られないだけなんだ。


雪灯祭を控えて貴族令嬢様方のドレスの発注がピークを迎えてる。雪灯祭の最終日には王城で舞踏会が催されるから、クロスご夫妻のアトリエや工房も大忙しなんだ。私の仕事はデザインのお手伝いだから、今はひと段落。後は雪灯祭を待つだけ……なんだけど……。


「ノエル君、最近学園に来ないね……」

「……仕事、忙しいんでしょ」

「うん。でもノエル君もまだ学生なのにね……」

ノエル君だけじゃない。ベルナール殿下もそれにメイベルさんも学園に来てないんだ。寂しいっていうか、置いてきぼりにされてるみたい。仲間外れ?ああ、こういう風に思うのって良くないよね!ダメダメ!でも、魔物と戦うのなら私も少しは役に立てると思うんだけどな……。


「あれ?あれなんだろう?白いウサギ……?」

風が吹いて窓枠がカタカタ音を立ててる。吹雪になったのかなって気になって窓に近づいて外を見た。中庭に面した部屋からは雪が積もった木々が見える。その合間に動く白いもの……。

「ウサギ?こんな街中にそんなのいるかしら?あ、ちょっと待ってなさい。見てくるわ!」

「え?ちょっと?ローズちゃん?!……行っちゃった……」

ローズちゃんは窓をすり抜けて動く白いものを追いかけて行っちゃった。あっという間に中庭を抜けて屋敷の外へ。


「あーあ、ローズちゃんまで……。置いていかないで欲しいな……」







⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆⋆





ベルナール視点



灰の王国との国境にある森で、おかしなことが起こっている。モーネ王国騎士団魔術師特別部隊へそんな報告が上がって来ていた。


「ベルナール殿下、僕達はまだ学生なんだけど?」

不機嫌なノエル・サフィーリエ公爵令息の声が私の耳に届いた。この国の第二王子である私に対してはやや不敬な物言いだけれど、彼とは幼馴染だから気にはならない。城の中とはいえ、ここには今我々だけしかいないから特に問題は無いだろう。


ちなみに私にはもう一人の幼馴染がいる。シモン・マルクール侯爵令息。私とノエル、シモンは幼い頃からとても気の合う仲の良い友人だ。今ここにはいないシモンは隣国に留学中でこの春に帰国予定だ。彼が戻ればこの魔術師特別部隊の貴重な戦力になってくれると期待している。


「学生の本文は学業だと思うけど?」

ノエルは書類に目を通して整理しながらブツブツと文句を言ってくる。愛しい婚約者に会えない日が続いており、かなり不機嫌になっている。ノエルに今頼んでいるのは隊員の選考に関する書類の整理だ。


灰の王国での魔物騒ぎはその周辺各国の緊張を高めた。


各国では急遽、魔物に対する対策を急ぎ始め、我が国でも必要な人材の確保に急いでいる。そのために情報を集め、魔術の才能があるものを募集、スカウトしている所なのだ。


「この人なんか良さそうですよね」

金髪碧眼の青年がノエルが見ていた書類を指さす。

「勝手に見ないでください」

ノエルが眉をひそめている。彼は同じ部隊で働く仲間のオスカー・グレイ。実は灰の王国の元第二王子だ。件の魔物騒ぎの中心にいた人物で、色々あって我が国に滞在している。

「書類から強い魔力を感じますよ」

「……分かるんですか?」

ノエルはやや訝しむように尋ねた。

「ええ、何となくですけどね」

オスカーは一枚の書類を(くう)にかざすように取り上げ、遠くを見るようにそれを見透かした。


どうやら、オスカーにはそれなりに強い魔力があるようだ。魔力の残滓を感じ取れるのだろうか。ノエルは少し考えた後に自分の抱えている書類の半分をオスカーに渡した。使える人材が増えるのはとても好ましいことだ。


本音を言えば、ノエルの婚約者のルミリエ・ネージュ伯爵令嬢にもここに所属して欲しいと考えているのだが、ノエルは自分の婚約者が魔術の戦いに関わることを許さない。どう見てもルミリエ・ネージュ伯爵令嬢は魔術の戦闘のセンスが我々の誰よりもあるというのにだ。勿体ないと思う。ただ、ルミリエ嬢は幼い頃より体が弱く、つい先だっての灰の王国での魔物との戦闘の後、少しの間昏睡状態に陥ってしまったのだ。だから私としても強くは言えない。とても、とても残念だ。



「それで?国境の森で何が起こってるんですか?ベルナール殿下」

そう尋ねてきたのは聖魔術使いのメイベル・クロフォード嬢だ。彼女は魔物を浄化できる稀有な能力者だ。治癒魔術にも長けており、メイリリー学園の卒業後はこのモーネ王国騎士団魔術師特別部隊に所属することが決まっている。

「動物が減っているらしい」

森で動物を狩って生計を立てている森人達の間では、ここ最近そういった噂がたっているそうだ。

「動物が?」

書類から顔を上げたノエルが更に眉をひそめ、厳しい表情を見せた。

「他にも、枯死した木々や植物などが発見されている」

「枯死……ですか?」

メイベル嬢の顔にも緊張が浮かぶ。

「怪しいですね」

「限りなく……」

オスカーも書類から顔を上げて頷いた。

「はあ、面倒な……」

ノエルはとんでもなく嫌そうな顔をした。


「調査に出向かないといけないようだね」

雪が降り始めた王都を見ながら私はため息をついた。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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