ドレスのデザイン
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真っ白いドレスを広々とした応接室に出現させた。ドレスそのものが光を放つようにその場に存在してる。
「これは!素晴らしいですわね!!光の魔術の応用ですか?」
クロス夫人は目を輝かせてる。
「今までにあまり見たことが無いデザインですね……でも前に確か一度……」
主に縫製を担当するクロスさんも魔術で出現させたドレスをまじまじを見つめてる。
メイリリー学園の冬休み中、年が明けてすぐに私はまたサフィーリエ公爵家に呼ばれたんだ。
ノエル君が結婚式用のドレスの為にデザイナーさんを呼んでくれた。王都にアトリエを持ってるクロス夫妻。四十代くらいの仲良しの明るいご夫婦で主に奥様のクロス夫人がデザインを担当してる。クロスご夫妻のお店は王都でも一位二位を争う程の人気ドレス店なんだって!
結婚式は来年の春だし少し気が早いかもって思ったけど、今年はアマーリエ王女殿下の結婚式があるからドレス工房はどこも大忙しなんだって。ノエル君はもう一年以上も前からデザイナーさんとドレス工房を押さえてくれてたの。知らなかった……。
ノエル君と私は時間短縮の意味もあって、予めノエル君と話し合って大体のデザインを決めておいたんだ。それを今日、私の幻影の魔術(本当は魔法)でプレゼンしてみた。ノエル君の方がノリノリでドレスのデザインを考えてくれたのがちょっと意外だった。
「ここはもう少し胸元を露出した方が……」
「いえ!露出はなるべく少なくお願いします」
さっそく映し出したドレスについてクロス夫人とノエル君が意見を交わし合う中、私は魔術を調整してドレスを変化させていく。
「白一色でも、様々な素材で変化を付けた方がいいですわね」
言いながらクロス夫人はスケッチしていく。
「宝飾品に少々色を入れて」
うんうんと言いながらクロスさんの意見をクロス夫人がメモする。
「空色がいいですわ!極薄い色の!」
「それは嬉しいですね」
ノエル君の瞳の色と同じだ。
「お式は春ですものね!春の空の色がよろしいですわね!」
じゃあ、もう少しくすんだ感じかな?
こんな感じでドレスのデザインが決まって行った。
「お嬢様の魔術は素晴らしいですわ!デザインも少し既存のものとは違っていて新鮮でした!」
「縫製についても知識がおありのようですね」
クロス夫妻はお互いに顔を見合わせて頷いた。照れちゃうけど、私のは前世の誰かのデザインを真似して考えてるだけだから、ちょっとズルをしてる罪悪感がある。あ、もちろんこの世界のドレスのデザインから逸脱しないようには注意してる。
「ルミリエはアマーリエ王女殿下のドレスのデザインも考案したことがあるんですよ」
ノエル君がニコニコしてる。今日はとてもご機嫌がいいみたいでなんだか楽しそう。もしかしてノエル君もドレスのデザインを考えるのが好きなのかな?
「ああ!どうりで珍しいのに既視感があると思いましたわ!」
「もしかして昨年の雪灯祭の舞踏会のドレスですか?!」
クロス夫妻が勢いよく私に向き直った。
「っあ、はい。少しお手伝いをさせていただきました」
ちょっと二人の迫力がありすぎて驚いちゃったよ。
「…………」
「…………」
「?」
クロス夫妻は顔を見合わせたまましばらく黙っちゃった。どうしたんだろう?
ちょっとよくわからない間があったりしたけど、ドレスのデザインは無事に決まってクロス夫妻は帰って行った。
「とりあえず、第一段階は終わったね。後は仮縫いと修正と微調整を重ねていこう」
「ええ、ありがとうございます。ノエル様」
クロス夫妻が帰っても私は貴族令嬢の態度のまま。その理由は……。
「ルミリエお姉様すごーい!」
「あれってお姉様の魔術なの?」
エルシーちゃんとルイーザちゃんがいるから。二人は大人しくしてることを条件にこのお部屋にいることをノエル君に許可してもらってたんだ。
「ええ。そうなんです。光の魔術の応用で幻影の魔術っていうんですよ」
エルシーちゃんとルイーザちゃんが私にしがみついてきた。
「私もああいうの着てみたい!」
「私も……!」
「それじゃあ、着てみますか?」
私は双子ちゃん達のドレスをちょっとだけ私の趣味の入った白いワンピースドレスに変化させてみた。うーん!可愛い!!やっぱり女の子っていいなぁ……。可愛いドレスが似合うもの!
「わあ!!」
「素敵……」
エルシーちゃんもルイーザちゃんもとっても喜んでくれたみたいで私も嬉しい。っていうか私の方が嬉しい!
「仕方ないな……。僕は少し用事を済ませてくるよ」
ノエル君はため息をつきながら笑って部屋を出て行った。これは!しばらく二人と遊んでていいってことだよね?やった!それから可愛い二人の双子ちゃんの着せ替えごっこを楽しませてもらっちゃった。ああ、幸せ……!
「ああ、楽しかったなぁ……」
ネージュ伯爵家に帰った後もぼんやり今日の事を思い返してた。
「なんか、幸せそうな顔をしてるわね」
「あ、ローズちゃん!お帰り。うん!今日すっごく楽しかったんだ!」
今日あったことをローズちゃんに話すとちょっと呆れられちゃった。
「自分が着飾るよりも楽しいなんて、変わってるわね」
「そうかな?かわいい女の子が可愛い服を着てるのって見てて楽しいじゃない」
「そう?」
「うん。できればローズちゃんにもドレス着せたい!」
「私?」
「やってみてもいい?」
「うーん、また今度ね」
「えー。残念。ローズちゃんすっごくかわいいのに……」
ローズちゃんはピンク色のオーガンジーみたいなワンピース姿なんだけどシンプルなデザインなんだよね。それはそれで可愛いんだけど、もうちょっと変化させてみたいんだけどなぁ。また今度って言ってくれたからそれを楽しみにしておこう。
「そんなことより、自分のドレスの心配をなさいよ。母親とノエルの母親ともドレスを選びに行くんでしょ?」
「うん。そうなんだ」
お母様には結婚式の後の披露宴用のドレス。ノエル君のお母様にはフランシス様とアマーリエ王女殿下との結婚式用のドレスをそれぞれ選んでもらうことになってて、二人とも張り切ってる。謎なんだけど。
「でも自分用のドレスってあんまり気合が入らないんだよね……」
私は自室の机の上で頬杖をついた。結婚式用のドレスのこともノエル君の方が張り切っていたし。あのドレス私に似合うかな?ノエル君とクロス夫人が決めてくれたんだから、大丈夫だって思うんだけどいまいち自信がないや。
「それより誰かを着せ替え人形にして色々考える方が楽しいな」
「そうなのね。確かにルミリエの魔法はそういうのに向いてるわね。いっそデザイナーになっちゃったら?」
「え?デザイナー?無理無理!そんなの私には無理だよ!とても難しいお仕事だもん、きっと」
「そういうものかしらねぇ」
そんな会話をしていた後日、私にクロスご夫妻からすっごい依頼が来ちゃった……。クロスご夫妻のアトリエで働いて欲しいって!
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