深闇
来ていただいてありがとうございます!
「ルミリエ様!ご無事ですか?!」
ノックの音と一緒に聞こえてきたのは焦ったようなメイベルさんの声だった。
「メイベルさん?どうなさったんですか?」
「ああ!良かった!サフィーリエ様も御一緒でしたのね!安心しました」
メイベルさんはホッとしたような表情を浮かべた。
「どうしたの?何かあった?」
「黒いんです!」
人差し指を立てて真面目な顔のメイベルさん。全く分からないや。でもたぶん……。
「お部屋に戻ったら誰もいませんでした。それに外が真っ黒なんです」
メイベルさんのお部屋も同じだったんだ。
「真っ黒?真っ暗じゃなくてですか?」
「そうなんですよ!ルミリエ様!」
「本当だ。さっきより闇が濃くなってる」
窓の外を見に行ったノエル君が険しい表情をしてる。
「それだけじゃないんです。お城の中もほら、心なしか廊下も黒く見えませんか?」
「あ、本当なんだか靄がかかって……まさか……」
「良かった!!みんないるんだね?」
シモン様が部屋から出て走って来た。ドアは開きっぱなしだったからそのまま部屋へ入って来た。
「シモン!無事だったか」
「うん。なんか空気が重かったから、休んでられなくて。これってまさか、あの魔術道具が効かなかったってことかな」
シモン様はショックそう。
「それにしても、こんな……。こんな短時間でこんな風になってしまうものでしょうか」
メイベルさんは不安そうに自分の体を抱き締めてる。
「もしかしてもうオスカーはかなり前から理性を失っていたのかもしれない」
ノエル君の言葉にシモン様が答える。
「自国の人達にも呪いをかけて力を奪い始めてたってこと?」
「ああ、恐らく」
バタバタバタっと廊下を走る音がする。みんなで一瞬体をこわばらせた。
「大変だ!大広間で皆が!」
「王太子殿下?」
黒い闇から現れたのは灰の王国の王太子殿下だった。
「頼む!助けて欲しい。このままではこの国が……」
王太子殿下が苦しそうに胸を押さえてその場に膝をついた。
「殿下?!どうなさったのですか?うわっ」
シモン様が駆け寄ろうとして弾かれた。
王太子殿下の背中から黒い羽根が生えたように見えた。次の瞬間、王太子殿下が黒い結晶に包まれてしまった。
「これは……」
「同じだわ」
見覚えのある光景にノエル君とメイベルさんが声を上げる。
「王太子殿下を助けないと……!」
魔法で解呪しようとした私をノエル君が止めた。
「待ってルミリエ!今は状況確認が先だ」
「ノエル君、でも……」
「王太子殿下を今救っても戦力にならないかもしれない」
「うん。最悪僕達だけでも脱出すべきだと思う」
シモン様は魔術道具が効かなかったことに相当ショックを受けたのか顔が青ざめて見える。
「ひとまず、大広間へ向かってみよう。どちらにしても外に出るには大広間の近くを通らなければならない……」
ノエル君がいつになく厳しい顔をしてる。それほど状況はひっ迫してるんだ……。そうだよね。今まで二回魔物と対峙してきたけど、ここまでの圧迫感は無かった。夢の魔物も壺の魔物も怖かったけど何とかなった。でも今回は……。
暗い廊下を四人で走る。
「そういえば灯もついて無いのに前が見えますね。シモン様の魔術道具ですか?」
「…………」
「ルミリエ様、気づいてないんですか?」
「ルミリエが光ってるんだよ」
「え?」
思わず自分を見た。
「あれ?なんで光ってるの?いつからっ?」
そういえばポケットの辺りが温かい。ポケットに入ってるのは虹色のロケットとローズちゃんの石。その両方を取り出す。
「光ってる……。守ってくれてるんだね。ありがとうローズちゃん」
私はロケットを首から下げて、ローズちゃんの石をもう一度ポケットにしまった。ローズちゃんはずっと沈黙したままだったけど、ちゃんと生きてる。石の温かさが伝えてくれてる。
「さあ、ここからは静かに行こう。大広間が近い。まあ、あまり意味は無いかもしれないけどね」
ノエル君の言葉に息を呑んだ。
そっと覗き込んだ大広間は惨憺たる状態だった。そこここに人の大きさの黒い結晶が転がっている。
「酷い……こんな……。こんなの私達だけじゃ対処できないわ……」
メイベルさんが口を押えて呟いた。
「無理だ……。ここまでの事をする相手に僕達の力と装備じゃ……。機関に連絡を取らないと」
シモン様の眼鏡を押さえる手が震えてる。
「脱出するよ。思った以上に酷い状況だ。兵士達まで相手にならなかったようだ」
近くにある黒い結晶の中には甲冑を着た人が閉じ込められてる。
ノエル君が私の手を引いて走ろうとしたその時、足元から黒い触手のような靄が湧きだしてきて私達をお広間の方へ突き飛ばした。
床に転んだ私達の後ろで大広間の大きな扉が閉まる重い音がする。
「しまった、閉じ込められた!」
「ようこそ、私の王国へ。隠れずに出てきたらどうかな?」
大広間の玉座に座ったオスカー王子殿下、ううん、魔人が冷たい笑顔で私達を待っていた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




