オスカー
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「貴方は誰だ?」
ノエル君は一人、前に進み出た。ノエル君にかけた変身魔法は解いてある。
「おかしなことを聞くね?ノエル・サフィーリエ。私はオスカー・ガル・グラオ。この灰の王国の第二王子だよ」
真っ黒な靄がオスカー王子の体からどんどん噴き出してくる。禍々しい気配が増した。左胸の辺りに赤黒い星のような光が浮かんでるように見える。
「ルミリエ様、あれ見えてますか?」
「ええ、メイベルさん。あの赤黒い光ですよね」
「何?何か見えるの?」
私はメイベルさん、シモン様と小声で話し合った。
「そうか。多分あれが魔物の本体だね」
シモン様は目を細めてオスカー王子を見てる。シモン様にも見えたみたい。その間もノエル君とオスカー王子の話は続いてる。
「僕は自分がどこか他の人間と違うと感じていた。魔力も他の人間よりも多く、様々な魔術も使えた。そしてこの国には精霊が見える人間はいない。赤の王国に行った時、僕は愕然としたよ。優秀な魔術師達、進んだ魔術道具の技術。それらを輩出、開発する魔術の研究機関。そして精霊魔術まで!自分の国とは全く違った。本当に焦ったよ」
「それで?力を得ようと、白の王国にいらしたのですか?」
「ああ、魔物騒ぎの件を聞いてね。魔術師団を結成する動きもあると聞いて参考にしたくてね」
「それで、彼女達に目を付けられたと……」
「ああ。本当は魔物を倒したというノエル・サフィーリエ殿に興味があったのだが、メイベル・クロフォード嬢の力が素晴らしかったね。ただ、治癒魔術師だったから、とりあえずキープできないものかと思っていたのだ。失礼ながら女性なら、王子の僕が口説けばすぐに落ちると思ってたよ。失敗したけどね」
「ほんと、失礼ね……」
そのオスカー様の言葉を聞いてメイベルさんは心底不快そうな顔をしてた。
「でも、本命はそのどちらでもなかった。白の王国にこんな宝が眠っていたなんて……」
オスカー王子がこちらを見た。
「ルミリエ・ネージュ伯爵令嬢。君は一体何者だ?」
ノエル君がその視線を遮るように私とオスカー王子の間に移動した。
「精霊を従える能力。その気配。異世界からの渡り人とも異なる力。虹色の……。私はその力が欲しい……!私に近しい力!」
異世界?渡り人?なんだか聞いたことが無い言葉が出てきた。あとでシモン様に聞いてみよう。私はある魔法をかけながらオスカー王子の様子を窺ってた。気付いた様子は無いみたい。
「言いたいことはそれだけ?はあ?ルミリエがお前なんかに近いしいものか!ふざけないでもらおうか」
ノエル君、滅茶苦茶怒ってる……。
「そうですよ!私だけならともかくルミリ様まで狙ってくるなんて!ああ、今思えば私の治癒魔術で助けてもらいたかったんですか?分かりました!あなたごと存在を消してあげましょう」
メ、メイベルさん……結構過激だったんだね。
「うーん。これが本で読んだ魔物に憑依された人間かぁ。少しは理性が残ってるんだね。記録記録」
シモン様……こんな時に手帳に書き込まないでくださいっ。
みんなそんなに魔物を煽ってどうするの?ハラハラしながらやり取りを見守る。そしてある仕掛けが発動するのを待っていた。
実はオスカー王子に黒い靄が見えた時、みんなで話し合っていたんだ。
「とりあえずオスカーはどうでもいい」
「え?」
ノエル君の言葉に驚いた。
「オスカーはこの国の王子だから、最悪この国の人間がどうにかするさ。下手に僕達が手を出したら外交問題になる」
「僕達の目的はあくまでローズの意思を確認することだ。でもあいつの狙いはルミリエだから、ルミリエ以外の前ではローズを出してこないだろう」
「そこで!ルミリエ嬢にノエルの姿を変えてもらって、オスカー王子が接触してくるのを待つんだ」
「え?ノエル様を私の姿に?」
シモン様の言葉に更に驚く。
「そう!ルミリエ嬢ならできるよね?」
「はい。大丈夫だと思うんですけど、どうせドレス姿になるなら私よりノエル様のままの方が……」
「ルミリエ……?」
「わわっ!ご、ごめんなさいっ」
つい本音が……。ノエル君の視線が痛い……。シモン様もメイベルさんも不思議そうな顔をしてる。ああ、こんなに深刻な状況なのに、反省だ。
それにしてもオスカー王子殿下はどうして私をここへ呼び寄せたんだろう?理由も聞けるかな?メイベルさんにも興味を示していたから、やっぱり力のある魔術師を手に入れたいと思ってるの?とにかく、ローズちゃんの無事を確かめるのが先だよね!
こんな感じで色々と事前に作戦を話し合ってたんだ。わざと私に化けたノエル君を一人きりにして、透明になる魔術道具でついて行くこととかね。まさかオスカー様が魔物の本体を持ってたなんて。私ってばそんなのよく小説とかアニメであった展開なのに、全然気が付かなかった……。ちょっと悔しい。
あとは仕掛けた魔術道具が発動するのを待つだけだ。お願い、上手くいって!!
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