招待状
来ていただいてありがとうございます!
「え?招待状?私にですか?」
私は受け取った豪華な仕様の手紙をしげしげと眺めた。銀の縁取り、灰の王国の紋章が描かれた立派な手紙。
ベルナール殿下に呼ばれてノエル君と一緒にお城へ行ったら、灰の王国からの収穫祭と王家主催の「秋の恵みを祝う舞踏会」への招待状が届いていた。何故かノエル君と私宛に。
「毎年、姉上や僕、公爵家の人間など、王家に連なる人間が少人数だけど招待されるんだよ」
お茶を飲みながらベルナール殿下が説明してくれる。
「ノエルや僕やリンジーも招待されたことがあるよ」
シモン様も行ったことがあるんだ。そうだよね、マルク―ル侯爵家は王家と縁戚関係があるものね。
「それで、何故ルミリエに招待状が来るんです?」
ノエル君はすっごく不機嫌だ。理由は分かってる。この招待状はたぶんオスカー王子のくれたものだから。
「ルミリエ嬢だけじゃない。メイベル・クロフォード嬢にも届いているんだ。「お世話になったから」というのが理由だそうだよ」
ベルナール殿下が苦笑いしてる。
「…………ふん」
ノエル君はそれきり黙ってしまった。オスカー王子の差し金とはいえ、招待状は正式なもので無下にはできないみたい。
うーん、私ってまたメイベルさんのおまけかな?メイベルさんはきっと心細いだろうし、一緒に行った方がいいのかな?でも外国でのマナーなんて心細いのは私も一緒だし……。うーん。
「ひとまず、あの黒い魔物の騒ぎは落ち着いているし、観光がてら行って来たらどうかな?こちらからは今年は姉上とフランシス殿も招待されている。ノエルもいるし、あちらでのことは姉上に聞けば問題ないだろう」
ベルナール殿下にそんな風に言われたけど、ならなおさらメイベルさんはアマーリエ王女殿下にお任せすればいいのでは?
「ルミリエは体が弱いのに今回もかなり無理をさせてしまいました。今は少し休ませてやりたいのですが」
ノエル君がベルナール殿下に冷たい視線を送っている。
「わかってるよ、ノエル。でもあちらから是非にとの希望なんだよ」
「視察のお礼ということなら、こちらの王国も断りづらいのでは?」
シモン様も心配そうに私達を見てる。
あの黒い魔物騒ぎの後、ブレスレットは神殿の奥深くに封印された。そしてメイベルさんと私は残った黒い結晶に囚われた人達を解放した。それから街の中にも被害者が見つかって、その人達の所へも行ったんだ。そう。まだあの黒い魔物は滅びずにどこかに潜んでる。今は表向き何も起こっていないだけ。……でも魔物も気になるけど、何より今はもっと気になることがある。
ローズちゃん……。あれから帰ってきてない……。もう五日も経つのに。
お祭りや舞踏会なんて気分になれないよ。私はここにいてローズちゃんが帰って来るのを待ちたい。そう思いながら私は招待状を開いた。『収穫祭、そして王国主催の舞踏会へご招待いたします。是非おいで下さい』そんな文字が目に入って来る。
「!」
最後の一文を見て思わず立ち上がった。
「っ!ローズちゃん?!」
そこには薄紅色のインクで書かれた一文。
『追伸 君の大切なお友達は僕の国にいるよ』
「ルミリエ?突然どうしたの?」
ノエル君が立ち上がって私の肩に触れた。
「ローズちゃんが灰の王国にいるの!」
「ルミリエ、落ち着いて!」
ノエル君も私が渡した招待状を見て驚き、それをシモン様とベルナール殿下に渡した。
「ローズちゃん……ずっと帰ってきてなかった。灰の王国にいたなんて。どうして……」
「ローズは精霊だ。誘拐されるなんてことは無いと思う。でもルミリエに黙ってどこかへ行くなんてことはもっと考えられない」
「誘拐か……。あり得るかも」
シモン様が何かを思い出すように考え込んでる。
「どういうことだ?シモン」
「うん。前に精霊魔法の事を話しただろ?覚えてる?」
「ああ、何となく。確か精霊と契約してより大きな魔力を得るとか……」
「そう!それ!精霊との契約はかなり魔力を強化できるんだけど、契約できるかどうかは精霊の気持ち次第なんだ」
「それって……もしかして、精霊を無理やり契約させる方法もあるってことですか?」
私の頭には最悪なシナリオが浮かんでいた。だってそういう話は前世でも物語とかにあった気がする。
「凄いね!ルミリエ嬢は。そうなんだ。そういう研究がされていた記録があるんだよ!」
「されていた……。今現在は無いってこと?」
「うん。そうなんだよ、ノエル。精霊の世界では精霊王っていう存在がいてね。自然を操るような大きな力を持っている。その精霊王が精霊達を守護しているから滅多なことはできないんだ。ただ……」
「ローズちゃんには……精霊王の守護が無い……?」
私は絶望的な気持ちになる。私は自分の事ばかりだった。ローズちゃんにもっと話を聞いておけばよかった。
「うん。だから、もしそのオスカー王子が何らかの手段でその方法を知っていたとしたら、ローズが逆らえなくなってる可能性もある」
シモン様は厳しい表情をした。
「私、行きます!もしローズちゃんの意思でオスカー様の所にいるなら仕方ないけど、そうでないなら助けたい。とにかく確かめたいです!」
私の肩を抱くノエル君の腕の力が強まった。
「行こう。そもそも僕はオスカーが気に入らないからね」
「おいおい、外交問題にはしないでくれよ?」
ベルナール殿下が青い顔をしてる。
「分かってますよ。僕を誰だと思ってるんです?」
「大丈夫ですよ、殿下。僕もこっそりついて行きますから」
ノエル君とシモン様の言葉に、ベルナール殿下は諦めたようにため息をついた。
「分かった。ブレスレットと魔物の件は私に任せて行っておいで。くれぐれも無事に帰って来てくれよ?」
「ありがとうございます!ベルナール殿下」
ローズちゃん、待っててね。すぐに会いに行くから……!
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




