一時帰国
来ていただいてありがとうございます!
後半ノエル視点です
11/16 後半部分がちょっと説明不足だったので大幅に書き足しました。ご迷惑をおかけしますが、よろしければご一読をお願いしたします。
「疲れましたね……」
メイベルさんは長い溜息をついて瞳を閉じた。黒い結晶に呑まれた生徒を一人開放して、そのお屋敷を出た時だった。そのまま座り込んでしまいそう。私もすっごく疲れてた。
「そうですね。ここからだとうちの屋敷が近いから、一休みして次の場所に向かいましょう」
「え?ルミリエ様のお屋敷に?!いいんですかっ?」
ぱっと瞳を開いて嬉しそうに笑うメイベルさん。良かった、大丈夫そう。
「ええ。ノエル様からも言われてるから」
なるべく外に出ないように。自宅とお城、そしてサフィーリエ公爵家以外には行かないようにって。そこには警護の騎士様達が常駐してくれている。もちろんこの馬車にも騎士様と魔術師様が一人ずつついていてくれてる。
メイベルさんと私は馬車に乗って私の家に向かった。あの魔術大会から三日が過ぎた。私達はあの黒い靄の被害に遭った生徒達の家を回って黒い結晶を消していった。でも、思ったよりも時間がかかってしまう。一日に二人か三人が限度でそれ以上は自分達の方が倒れそうになってしまうのだ。お城からも治癒魔術師の人達が派遣されているけれど、結晶を消すことは出来ないでいる。それでもローズちゃんに言わせれば延命にはなっているそうだ。
「王都の様子はいつもと変わりがないように見えますね」
馬車の窓から見える街は普通に人も歩いていてお店も開いてる。
「でもどこかに魔物が潜んでいるかもしれないと思うとちょっと怖いですね」
メイベルさんは体を震わせ自分を抱き締めた。
無事にネージュ伯爵家に辿り着いて、柔らかなソファに座れてやっと落ち着くことが出来た。熱いお茶を淹れてもらって指先をカップで温めて、さらにホッとする。
「学園の再開はいつになるんでしょう」
向かい側に座ったメイベルさんもお茶を飲みながら、疲れたような様子を見せた。騒ぎを受けてメイリリー学園は休校になってしまった。
「今回は建物に被害があった訳じゃないからすぐですよ」
メイリリー学園は昨年の冬にも魔物に襲われてる。うーん、目をつけられやすい学校なのかな?嫌だなぁ。
「そうですね。それにしてもジョゼット様は目が覚めて良かったです」
「ええ、本当に!」
そう!ジョゼちゃんは今朝目が覚めたそうだ。今メイベルさんはお城に滞在していて、今日出かける前にその連絡が入ったんだって。
「きっと、他の人達も目を覚ましてくれますよね!」
「そうですね。私達はとにかく頑張って結晶を消していきましょう!」
私達は温かいお茶と甘いお菓子で気力と体力を回復してもう一度街へ出て行った。
✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧
「ノエル!!久しぶり!」
「シモン!半年ぶりか……。よく帰って来てくれた」
僕はモーネ王国最大の港に来ていた。隣国に留学していたシモンが一時帰国することになったので迎えに来たんだ。僕達は久々の再会を喜び、握手を交わし、一緒に馬車に乗り込んだ。
馬車の中でここ数日にあった出来事を説明した。本来なら自宅であるマルクール侯爵家へ送るべきだけど、事態は切迫している。このまま城へ向かうことをシモンに了承してもらった。
「当然だよ!僕はそのために帰って来たんだからね。それにしても、ここまでの事になってるとは……正直予想してなかったよ」
「ああ。すぐに君に帰国を要請しておいて良かった」
「ちょっと間に合わなかった気もするけれど、それでもここから挽回は可能だよ!!」
力強く笑うシモンの表情からは、隣国への留学が彼にとても良い影響を与えたことが窺えた。
「頼もしいよ」
僕は心の底からそう思っていた。
城に着くなり、鞄を開け放ったシモンは得意げに魔術道具を取り出してみせた。
「ほら!これ!見てよ!これはね、魔物探査機だ!!」
「これは一体……?」
得体の知れない道具を目の前に突き付けられてベルナール殿下は困惑している。
「魔術の研究機関から借り受けてきたんだよ!今回の件に必要だと思ってね!」
「魔物の位置を探れる魔術道具か?」
僕はシモンの手にある魔術道具をじっと見つめた。円形の黒い物体に赤いボタンがいくつかついたような片手に収まる大きさの魔術道具だった。
「そう!ここをこう押すとね……」
「光が灯った?」
ベルナール殿下が驚いて少し身を引いた。正確には円形の表面に光の点がいくつか現れたのだ。
「ん?反応が近いぞ?この真下にいるのか?」
シモンの顔が青くなる。
「この真下というと、あのブレスレットがある地下か?」
僕は思い当って言ってみた。
「ああ、そういうことか!あれは魔物の一部を使ってあるから反応したんだね。驚いたよ……」
「魔術の研究機関とは凄いところだな。こんなものまであるのか」
ベルナール殿下が感心したようにシモンの手の中にある魔術道具を見つめた。
「確かに……。これがあれば潜んでいる魔物を見つけることが出来る!」
僕は一筋の光明を見た気がしていた。
そしてブレスレットに関するシモンと魔術の研究機関の見解をシモンは説明し始めた。
「あのブレスレット装着し続けるとやがて死に至るだろう」
「!」
推測はしていた。だがはっきりと言葉にされてしまうと寒気がした。
「それだけじゃない。ブレスレット所持しているだけでも危険だ」
「ああ。今回ジョゼット・エマリー男爵令嬢は自宅の机の引き出しにしまっておいただけで被害にあっている」
ベルナール殿下の言葉に僕は唇をかみしめた。こんなにも危険な物だとは考えておらず、ルミリエまで危険な目に合わせることになってしまった。
「僕達やそしてルミリエのようにほんの少し触っただけでも、あの黒い靄に囚われそうになったのは何故だ?」
「これは僕の考えだけど、たぶん目印のようなものが付いたんだと思う。黒い靄から蔓のようなものがのびてきたんだろう?おそらくそれがその魔物の性質なんだろう。捕食する相手と自分を繋いで生命力を吸い取ろうとしたんだと思う」
「ルミリエが断ち切ってくれなかったら、僕もベルと同じ目に合っていたんだね」
あのブレスレットは生命力と引き換えに魔力を上げる魔術道具ではなく、魔物が命を吸い取るための呪術道具に近いものだったようだ。僕とベルナール殿下は回収時に結構な間ブレスレットに触ってしまっていた。回収に携わっていた城の役人も一人黒い結晶に閉じ込められてしまった。ルミリエとクロフォードが結晶を消してくれたが未だ目覚めてはいない。
「ルミリエ嬢は凄いね。予備知識無しで機関の職員達と同じ見解に至ってたんだ」
「じゃあ……」
「うん。いると思うよ。魔物の本体がこの王国に。今までは何らかの理由で弱っていて動くことができなかったけれど、もう十分生命力を吸い取って自由に動けるようになってるんじゃないかな?ノエル達の前に現れたのがその証拠だと思うよ」
シモンの言葉に僕達は息を呑んだ。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




