魔術大会の後
来ていただいてありがとうございます!
後半ノエル視点が入ります
「じゃあ、雨粒に紛れさせたのか!」
「そう。僕の方が早かったと思ったけれど、相打ちとはね。今年も優勝をルミリエに捧げるつもりだったのに」
「私だって婚約したんだ。愛しいリンジーに勝利を捧げるつもりだったんだよ」
「ベルナール殿下……!それはとても嬉しいですけど、無理はなさらないでください……」
いつもは明るくて朗らかなリンジー様のベルナール殿下を見つめる瞳はまだ潤んだままだ。恋する乙女って感じでかわいい……。
戦闘大会の後、回復したものの一応学園の救護室でノエル君とベルナール殿下は経過を診てもらうことになった。雨が上がったグラウンドでは騎士団と魔術師特別部隊の人達が調査をしていて、リンジー様やメイベルさん、そして私も聞き取り調査を受けることになって一緒に救護室に残ってる。調査が無くても心配だからノエル君についているつもりだったけどね。
「それにしても、あの黒い靄は一体何だったんだ?」
ベルナール殿下はベッドの上に座って腕を組んでる。
「……おそらく魔物でしょうね」
ノエル君は私と一緒に壁際の長椅子に座って外を眺めた。あの靄が出てきた場所で何かの機械を使って調べている人達がいる。あの時、私の指先にもあの黒い靄が出てたんだよね。
「そういえば、もう指、冷たくない……」
私は自分の手を見つめた。指先が冷たかったのって今朝からだよね?そういえば今朝は変な夢を見たっけ……。
「ルミリエ……?」
「集めた生命力は何処へ行ってるんだろう。大きな影って、今日の黒い靄と一緒?魔物の一部……」
ローズちゃんはそう言ってたっけ。
「本体がある……?」
あの夢の魔物のように?あの時は魔物が小さな分身を操っていたけど、今回は?
「それとも、あの靄が集まって一つになるとか?」
物語とかゲームとかだと、分裂しているモンスターが合体して真の姿に!とかよくあるよね?
「あはは、まさかね。ってあれ?」
いつの間にかノエル君とベルナール殿下の会話が止まってる。しんとした部屋の中、みんなが私の方を見ていた。
「生命力を集めている?ルミリエ嬢、どういう事だ?」
ベルナール殿下が厳しい顔をしてる。
「全部声に出してたわよ……」
ローズちゃんが小声で教えてくれた。うわ、今までの声に出てたんだ。ど、どうしよう……。ただの夢の話なのに。
「えっと、今朝そんな夢を見て……。影に生命力が集まって更に大きくなって……ていう……。でもただの夢なので……」
「夢……いや、あのブレスレットは……だとすると、僕達以外にも……」
「ノエル君?」
焦ったようなノエル君の顔に私も不安になってきた。
「失礼いたします!ベルナール殿下!!」
突然ノックの音が響いた。
「入れ」
「報告いたします!欠席者の元へ派遣されていた騎士達から報告が来ております!生徒達の体が黒い靄に包まれた、と」
「何だと?!」
救護室の中は緊張に包まれた。
「これは靄どころではないですね……」
メイベルさんが絶句した。ジョゼさんの体がベッドの上で黒い水晶のような結晶に閉じ込められてしまっている。
「ジョゼさん……」
震える手で口を押えた。
「ルミリエ、泣いてる場合じゃないわよ」
ローズちゃんの叱咤に歯を食いしばった。そうだ。泣いてる場合じゃない。早く助けなきゃ!
騎士様の報告の後、メイベルさんと私はベルナール殿下に頼まれて、ブレスレットの影響で体調不良だった生徒達の家を回ることになった。ジョゼさんはブレスレットを身に付けてはいなかったけれど、黒い靄に包まれてしまったと家人から学園とお城に報告があった。ジョゼさんのお屋敷は比較的学園に近い場所にあったから、最初にここへ来ることができたんだ。
「眠っているお嬢様の体を突然黒い煙のようなものが覆ったんです……。振り払ったのですが、すぐにこんな状態に……」
ジョゼさんのお屋敷で働いている女の人が泣きはらした目で説明してくれた。
「サフィーリエ様とベルナール殿下の時と同じですね。お二人もそのままにしていたら、こんなふうになっていたんですね」
「ジョゼさん、大丈夫ですよね?生きてますよね?」
私の問いかけにはローズちゃんが答えてくれた。
「たぶんね。でもこのままの状態が続けば……いずれすべて吸い取られると思うわ」
「い、急がないと……!」
「そうですね、ルミリエ様。始めましょう!」
メイベルさんと私はジョゼちゃんの体に手をかざした。白金色の光と虹色の光が黒水晶を包み込んだ。
✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧
「時間、かかってるわね」
ローズがルミリエから離れて廊下に立っている僕の所へ飛んできた。さすがに女性の寝室へ立ち入る訳にはいかないから、エマリー男爵家の人間に一通りの話を聞いてからずっと僕はここに待機している。
「そうだな。僕やベルナール殿下の時はこんなに時間がかからなかったのに」
「あの黒い石のせいね……。それにしてもあの娘達凄いじゃない!ルミリエは言うに及ばずだけど、あのメイベルって娘の力は……」
「聖なる魔術。または神魔術とも言われるものだ」
「気づいていたのね、ノエル」
「ああ、クロフォードはどうやら単なる治癒魔術師じゃないみたいだ。とても貴重な能力だって聞いたことがあるよ。それから……あの時オスカー王子の目の色が変わってたな……まだ諦めていないみたいだ」
「オスカーも残ってたのね。ねえ、それってメイベルにだけ?」
ローズが嫌そうに尋ねてきた。
「…………いや」
ルミリエとクロフォードがベルナール殿下を癒したあの時、オスカーの目はルミリエを見ていたように思われた。
「相手にされてないのにしつこい男は嫌よねぇ」
「全くだ」
この時の僕は平静を装っていたが内心焦っていた。ベルナール殿下の命がかかっていたとはいえ、あんなに大勢の前でルミリエの力を見せることになってしまったからだ。特にあの男、オスカーに見られてしまったのは痛恨の極みだ。ルミリエを守りたいのに、逆に助けてもらっていることにも。
しっかりしろ!
僕は唇をかみしめた。
虹色の光が白金の光と一緒に黒い石をほどいていく。あの温かな光を守るんだ。絶対に。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




