魔術大会 二年生 乱
来ていただいてありがとうございます!
「なかなか白熱してるわね」
「そうだね、ローズちゃん。ノエル君!頑張って!!」
曇天の中始まった決勝戦。ノエル君とベルナール殿下の力は拮抗していた。大勢の生徒達やアマーリエ王女殿下やオスカー王子殿下が観戦してる。私もできるだけ大きな声で応援したよ。
途中でぽつぽつ雨が降り出してきて、中止になっちゃうかなって思った。
「降ってきてしまいましたね」
メイベルさんが空を見上げて呟いた。
その時ノエル君の光の刃がベルナール殿下の胸の花を散らそうとしたんだ。
「去年と同じ手は食わないよ」
ベルナール殿下はにっこり笑ってる。胸の花を狙った刃は何かに弾かれた。きっとベルナール殿下が魔術で防御したんだと思う。
「地面からっ?!」
驚くノエル君の足元の地面から、魔術の刃が飛び出してきた。ノエル君の胸の花にベルナール殿下の魔術が当たり、花は散ってしまった。
「そんなっ……。ノエル君!」
負けちゃったの?
「なにっ?!」
ベルナール殿下の顔に驚きが浮かぶ。ベルナール殿下の胸の花も散ってしまってる。
「この勝負っ引き分けっ!!」
審判の先生の判定が下りて、歓声が上がる。
「やられたよ。今年は勝てたと思ってたのにね」
ベルナール殿下が苦笑する。ノエル君も何だか少し悔しそう。ベルナール殿下はリンジー様の所へ、ノエル君は私の方へ向かって歩いて来た。でも、ふらっと二人同時によろめいて膝をついてしまった。
「ノエル君?」
私はノエル君に駆け寄った。変だ……。私も少し体が重い気がする。
「あれ、何だろう?」
「…………!」
ノエル君の後ろ、グラウンドの中央に黒い小さな靄が現れた。
「ルミリエっ!今すぐアレから離れて!!」
ローズちゃんの声が聞こえた瞬間、指先にまたあの冷たい感触。物凄く嫌な感じ。指に黒い靄がかかってる?指先に全神経を集中してそれを振り払った。黒い靄は消えたけど、体力と魔力の消耗が激しい。ふらつく足を必死で抑えてノエル君の方へ走った。ノエル君の右手を黒い靄が包んでる。助けなきゃ!
「ノエル君!!」
「ルミリエ……来るな」
ノエル君が苦しそう。グラウンドの黒い靄から蔓のようなものが伸びてきてノエル君に触れた。ノエル君の全身を黒いものが包み、ノエル君は倒れこんでしまった。
「何っ?!あれっ!」
異変を察知して逃げ始める生徒達が視界の端に映る。
「駄目っ!!!」
虹色のロケットが光を放つ。手のひらから放たれた魔力が大きな剣の形になって蔓を断ち切り、本体の靄を消滅させた。
「殿下っ!!」
リンジー様の悲痛な声が響く。激しい雨が降り始め、グラウンドに残っていた生徒達も校舎の中に避難した。
「ノエル君!大丈夫?しっかりして!!」
ぐったりしたノエル君を抱き起して抱きしめた。魔法を使ったのは無意識だった。
「ルミリエ、その虹色の光って……」
ローズちゃんの陶然とした声が聞こえる。
「…………ルミリエ……」
小さな声が聞こえてノエル君から少し体を離した。
「ノエル君っ!大丈夫?」
「うん……ごめん。心配かけて……。ちょっと頭がクラクラするけど、何とか立てそうだ」
「ノエル君、無理しないで!」
「もう大丈夫だよ。それよりあの黒いものは一体……」
「魔物、だと思うわよ、アレ」
ローズちゃんの言葉に眉をひそめるノエル君。私は立ち上がったノエル君を支えた。
「正確にはその一部かしら」
魔物の一部……?どうしてそんなものがこんな所に?
「ベルナールっ!しっかりして!」
リンジー様の泣き声が聞こえる。ベルナール殿下もノエル君と同じように黒い靄にまだ囚われてぐったりとしていた。救護室の先生方とメイベルさんが周りを取り囲んでいる。
「ベル……」
ノエル君が呆然と呟く。
「私には無理だわ……」
治癒魔術を使っていた先生が力なく呟いた。でも、メイベルさんは諦めない。集中を続けてる。メイベルさんがかざした手から白い光が放たれてる。その光に次第に金色の粒がまざり始めてる。
「綺麗……。あ、靄が薄れてく……!」
でもメイベルさん苦しそう。
「ノエル君、私も!」
私はノエル君を見上げた。一瞬、苦し気にノエル君のスカイブルーの瞳がゆがんだ。
「……ああ、頼む……!」
私はベルナール殿下そばに座り込んだ。メイベルさんと一緒に魔法をかける。
黒い靄なんて、消えてしまえっ
私の虹色の光とメイベルさんの白金の光がまざり合い、ベルナール殿下の体を包み込んだ。
「ああ、ベルナール……」
黒い靄は完全に消えて、ベルナール殿下が薄く目を開いて、リンジー様に微笑みかけた。
「良かった……」
リンジー様はベルナール殿下を抱きしめた。
気がついたら雨は止んでいて、嵐のような決勝戦は幕を閉じたのだった。
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