魔術大会 二年生 ③
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前半ローズ視点です
「ん?ルミリエちょっと調子悪い……?」
ここ数日秋晴れが続いていたのに今朝はどんよりとした曇り空。そのせいではないと思うけれど、ルミリエの顔色が悪いみたい。
「あ、わかる?ローズちゃん。そうなの!実は変な夢を見ちゃって。起きた時、体がだるかったんだ」
「ここ最近、発表の練習とかで魔力を使いすぎた、のかしらねぇ?」
私はルミリエの顔を覗き込んだ。
ネージュ伯爵邸のルミリエの部屋はたぶん他の貴族の屋敷より装飾が控えめでこじんまりしているような気がする。これはきっとルミリエの好みが反映されていると思う。ルミリエはドレスのデザインとか言って、他人を飾り立てるのは好きだけど、自分の事にはあんまり興味が無いみたい。宝石やアクセサリーを綺麗だと喜んで見るけれど、自分では進んで身につけようとはしない。そんなルミリエが大切にしてるのはブルーダイヤモンドのネックレスと虹色のロケットだ。
「なんにせよ、ノエルに言っておいた方がいいわね」
ノエルはこのルミリエの婚約者だ。将来一緒に暮らす相手。今は恋人で将来は夫婦になる。ルミリエにそう言ったら真っ赤になって照れてて面白かったわ。ブルーダイヤモンドはノエルからのプレゼントなんですって。
「待って!朝ごはん食べたら大分良くなったし、今日はノエル君試合があるし、集中させてあげたいんだ!私なら大丈夫だから!」
「うーん……」
このルミリエがほんの一、二年前までは病弱で寝込んでばかりいたって聞いて凄く驚いたものだわ。今はとても元気でとてもそうは見えないのよね。でも家族もそして誰よりもノエルがとても気にかけていて、神経をとがらせているの。
「ノエルには伝えた方がいいと思うけれど」
「お願い!ローズちゃん。本当にもう大丈夫だし、体調が悪くなったらすぐに帰るから。私もノエル君の応援に行きたいの!」
ノエルはルミリエを溺愛してるけど、ルミリエもノエルの事大好きだものね。今日はノエルとシモンから厄介ごとを頼まれてないし、ずっとこの子と一緒にいられる。私が見ててあげられるからまあいいか。
「仕方ないわね」
「ありがとう!ローズちゃん!」
嬉しそうに笑う「ともだち」のルミリエ。精霊達の力を利用しようとする人間が多いのにこの子には全くそういう所がないの。そういえばノエルもシモンもそうね。精霊を使役しようという気が全くないわ。それどころが仕事に対する対価をくれる。
「ほんと、面白い子達だわ」
「ん?なにが面白いの?ローズちゃん」
着替えを終えて髪を梳かし終わったルミリエの肩に飛び乗った。
「何でもないわ。さあ、行きましょ」
「うん。ローズちゃん。楽しみだね」
ルミリエが笑うと私も気分がいいわ。なんだか不思議な気分。
「そうね。かぶりつきで見るなら急がないとね」
「かぶりつきって。ローズちゃんほんとにどこでそんな言葉覚えてくるの……?」
ルミリエと私は楽しくおしゃべりしながら学園へ向かった。
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今日は魔術大会の最終日。学園のグラウンドでは魔術の戦闘大会が開催されていて、とっても盛り上がってる。ノエル君は順調に勝ち進んであっという間に決勝戦。対戦相手は昨年と同じベルナール殿下になった。
「ノエル君強いなぁ。あっという間に勝っちゃった」
今朝起きた時の体のだるさは今は消えてる。でも魔力を使いすぎたのかな?少し疲れやすい。
「ルミリエ?大丈夫?あなたなんか変じゃない?」
私の肩にのってるローズちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ん、大丈夫だと思う。でもちょっと疲れたかなぁ。不思議。座ってただけなのにね」
「え?ジョゼさん、今日はお休みなの?」
メイベルさんに言われて驚いた。
「昨日の帰り際には少し体調が悪かったみたいです」
メイベルさんは心配そうに頬に手を当てている。
「そうなんだ……。大丈夫かな?」
午後からの決勝戦の前に学園の食堂で昼食をみんなでとることにしたんだ。でもジョゼさんの姿を朝から見てなかったから、メイベルさんは見かけたか聞いたらそいう事だった。救護室にいた先生の所には欠席者のリストが回って来たんだって。
「最近になって体調不良で休んでる生徒達もまだ学園に来れていないようですし、なんだかおかしいことになってるみたいですね」
「そんな……あのブレスレットは回収されたのに、まだ回復してないなんて……」
メイベルさんの言葉にまた驚いてしまった。魔術大会の事で忙しくて気にしてなかったけれど、そういえばジョゼちゃんのお友達も学校へ来たって話は聞いてなかったと思う。
「どうしたの?」
食堂にノエル君とベルナール殿下、そしてリンジー様が現れると、周囲から小さな歓声が上がった。
「ルミリエ!今年の発表、良かったみたいね!先生方から好評だったでお聞きしたわよ!やるじゃない!私も見たかったわ!」
「リンジー様、ありがとうございます」
リンジー様は私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「僕のルミリエにくっつかないでくれる?」
ノエル君に腕を引かれた。
「ちょっとくらいいいじゃないですか!ノエル様のケチ」
リンジー様が可愛く頬を膨らませた。ベルナール殿下はそんなリンジー様を優しい笑顔で見つめてる。お二人はとても仲が良いんだなぁ。婚約なさるくらいだもの当り前だよね。
婚約が決まってから、ベルナール殿下は以前のように女の子達に気軽に声をかけるようなことはしていない。優しいのは変わらないけれど、どこか一線を引いて接してるみたいに見える。リンジー様をとても大切に想ってるんだろうなぁ……。素敵。
「駄目です。で、どうしたの?……ルミリエ?少し顔色が良くないんじゃない?」
ああ、ノエル君鋭い……。
「あ、あの今朝ちょっと変な夢を見ちゃって、少し疲れてるみたいです。でももう大丈夫ですから!」
「何だって?!それなら、すぐに帰った方がいい……」
近づいてくるノエル君の耳元でローズちゃんがささやいた。
「どうしてもノエルのかっこいいところ見たいんだって」
「……………………」
ふうっと息をついたノエル君は、少し赤くなりながら試合観戦を認めてくれた。
「いい?無理だと思ったらすぐに僕に言う事!試合中でも構わないからね」
「ノエル様……、それはちょっと無理があります。本当に大丈夫ですから」
「あとは?どこか具合が悪いところは無い?」
ああ、やっぱり心配させちゃった……。
「だ、大丈夫です!あとはちょっと指先が冷たいくらいで……」
「指先……ああ、最近ちょっと気温が下がってきたからね」
ノエル君は私の両手を握ると口元に持っていった。食堂の中に小さな悲鳴がいくつか起こった。
「!」
あったかいけど、恥ずかしいっ!
「イチャイチャしちゃって余裕だね、ノエル。ほらほら、僕らはさっさと食事をとらなきゃだろ?続きは試合の後にするといいよ」
ベルナール殿下がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「今年は私が勝つからね。試合後にルミリエ嬢になぐさめてもらうといい」
「残念ながら僕も負ける気は全くありませんよ」
うわぁ、バチバチだ……。今年の決勝戦も凄いことになりそう。
「楽しみですね、ルミリエ様。ジョゼット様は心配ですけど」
「メイベルさん……、そうですね。家に帰ったら手紙を書いてお見舞いをお送りすることにしますね」
貴族のお屋敷には学校帰りに気軽にお見舞いに行ったりはできないんだよね。心配だけどそのくらいしかできないんだ。早く良くなってくれるといいな……。
雨粒が落ちてきそうな空模様の中、魔術大会の一番の山場、戦闘大会の決勝戦が始まる。
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