魔術大会 二年生 幕間
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ノエル視点です
ちょっとだけルミリエ
「本日よりここにモーネ王国騎士団魔術師特別部隊を結成する」
ベルナール殿下の声に一斉に礼を取る魔術師達。白のローブを着用した一団その数総勢三十名が膝をついた。僕はホールの後ろの方でそれを見ていた。今はメイリリー学園で魔術大会の初日が行われているはずだ。本当ならば僕はルミリエの発表を二回とも見る予定だったのに。
「ノエルも実働部隊の方に名を連ねてもらいたかったのだが」
「まだ、そんなことを仰っておられるのですか?」
結成式の後、話しかけてきたベルナール殿下の人懐こい笑顔にほだされそうになるけど、そういう訳にはいかない。
「表立って僕が部隊に参加することはありませんよ。そういう約束で協力してきたでしょう?」
「分かってる。分かっているからそんなに睨まないでくれ」
「いざとなれば、僕も戦闘に参加します。しかし僕が表立って戦うようなことがあればルミリエを巻き込んでしまう可能性が高いんです」
そう、きっと彼女は僕と共に戦いたがる。そしてその力を持っている。
「ルミリエ嬢か…………」
ベルナール殿下の呟きに不吉なものを感じた僕は更に厳しく殿下を睨みつけた。
「ルミリエが何か?」
「い、いや、彼女は不思議な人だなと思ってね」
ベルナール殿下が考えていたのはきっとルミリエをこの部隊に協力させることだっただろう。でも、そんなことは僕が許さない。ルミリエを関わらせない代わりに僕が協力してきた。これからもそうするつもりだ。彼女にはもう二度と危険な目に合わせない。
「不思議……そうですね。他にはいません。類稀な存在です」
「…………ノエルにそんな顔をさせるだけでも、凄いのにね」
僕はルミリエの事を想うと自然と笑顔になるらしい。最近そう指摘されることが多くなった。どうやらいつも機嫌悪そうにしてたらしい僕は最近随分ととっつきやすくなったそうだ。
「とにかく、ルミリエにはこの魔術師部隊にもあのブレスレットの件にも絶対に関わらせません」
僕は毅然と言い放った。相手がこの国の王子だろうと関係ない。
「分かっているよ。ルミリエ嬢を連れてこの国を出るとまで言われてしまっては、無理を通す気もない。貴重な人材を二人もなくす訳にはいかないからね」
ベルナール殿下は笑っているけれど、彼だって一国の王子だ。国の利益が絡めば今の言葉を翻す可能性は十分にある。だから僕はルミリエと一緒に国を出奔する覚悟も出来ている。もちろんそうならない為に動いていくつもりだけれど、ルミリエと一緒に世界を旅して回るのも楽しそうだ、なんて考えてしまっている。
ああ、僕はルミリエがいれば他は何も無くていいのかもしれない…………
家族や友人も大切だ。そう思っているつもりだ。自分でも不思議なんだ。あの月明かりの中で初めて出会った「君」の幻。あの時から僕の心は君に囚われてしまった。こんな自分はたぶん、はたから見ればおかしい人間なんだろう。でも存外今の自分を気に入ってるんだ。
「わかっていただけていればいいんです」
僕は静かに目を閉じた。
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うーん。ぞわぞわする。おなかの中からそわそわって。とても嫌な感じ。
集めた生命力はどこへ行くんだろう?大きな影?
そんなことを思いながら目が覚めた。
「?…………なんか嫌な夢だった……?」
魔術大会三日目の朝、目覚めは良くなかった。少し体がだるいみたい。変な夢を見たような気がする。魔術大会の発表が終わって気が抜けちゃったのかな?それとも昨日の二日目、楽しすぎてはしゃぎすぎた?
右手の指先がほんの少しだけ冷たい……。
やだ。まだ十六歳なのに冷え性?そんな呑気なことを考えながら私はベッドから下りた。
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