準備
来ていただいてありがとうございます!
放課後の教室で私はごそごそと魔術大会に向けて準備を始めていた。
あれから急いで計画書を書いて担任の先生に提出して教室を一つ使う許可を貰った。プラネタリウムの案は私の魔術の担当の先生も面白いって言ってくれたんだ。今は使われてない棟の一階の小さな教室で、あまり人も来なさそう。でも、評価の為に先生方が何人かは見に来てくれるみたいだから頑張ろう。
この世界の星の動きとかは分からないから、星空とか色々な空を飛ぶ鳥になったみたいに空を飛び回るような映像を映すことにしようかな。あくまで私の空想というか想像というか。某テーマパークのアトラクションみたいな感じで。
「音楽とかも流せたらいいけどできるかな」
ドームを作れたら良かったんだけどもう時間が無いし、一人で骨組みとか作れない。白いカーテンを天井から吊り下げてテントみたいにすることにした。窓には暗幕。奥まった一階の教室だからこれで十分暗くなった。
「文化祭みたい。一人だとちょっと怖いかなぁ。とりあえずちょっとやってみようかな」
暗くした部屋の中に星空を映し出す。ノエル君と一緒に見たあの星空。
「夜だから光の鳥を飛ばしてみようかな」
夜空の教室内に小さな光の鳥を飛ばしてみた。うん。綺麗かも。それと音楽を流してみようかな。どんなのが良いだろう?ここはあの名曲が良いかな?なんて考えてたら教室の入り口に人の気配がした。
「わあっ綺麗ですね!ルミリエ様」
メイベルさんとジョゼちゃんがドアから顔を覗かせている。
「凄いですね。これが幻影の魔術ですか。光の魔術の応用とうかがっていますが、こんなに鮮明なものだったなんて……」
ジョゼちゃんが凄く驚いてる。
「そうですね。父が扱ってる魔術道具にも人の姿を映し出すような小さなものがありますけど、部屋全体にっていうのは無いですね」
メイベルさんも何か考え込んでる。
「やっぱり、ルミリエ様って女神?」
「やっぱり、ルミリエ様って魔女?」
二人同時にこっち見ないで欲しい……。分かった。やりすぎは良くないよね。うん。ノエル君も目立つのはまずいって言ってたし。光の鳥とか増やして音楽も流そうかなーなんて思ってたけど、それは止めとこう。
「ちょっと実験してたんですけど、さすがに光の鳥までは維持できそうに無いから、やっぱりやめようかなって思ってて。音楽なども流そうと思ってたけど体力的に厳しいみたいです」
一応体弱いアピールもしておこう。
「え?そうなんですか?」
「それはちょっと残念ですね」
二人は顔を見合わせた後、同時に言った。
「良かったら、私にもお手伝いさせてください」
「良かったら、私も一緒にやらせてください」
何だか仲良しだね。二人とも。
私の話を聞いてジョゼちゃんとメイベルさんが協力してくれることになった。ジョゼちゃんが炎の鳥を飛ばしてくれる。そしてメイベルさんが魔術道具のオルゴールみたいなものを持ってきてくれるって。
「いいのですか?ありがとうございます!」
「一人で炎の魔術を使った何かをやろうと思ってたので、ご一緒させていただけると助かります」
とジョゼちゃん。
「私は当日はケガ人が出ない限りは暇ですから!」
張り切るメイベルさん。
こうして私達は三人で魔術大会に参加することになったんだ。一人ぼっちだと思ってたから凄く嬉しい。ノエル君に話したいな。そういえばノエル君と二日も会えてない。ちょっと寂しい。けどノエル君も頑張ってるんだから私も頑張らないと。みんなに置いて行かれちゃう。ただでさえ、私は今まで何もできてなかったんだし。私は気合を入れた。
私達の発表は魔術大会の初日の午前と午後に一回ずつ。お父様とお母様も招待しよう。最初の上映に先生が見に来てくれる。最終日は魔術の戦闘大会があるからノエル君の応援に行こう。よーし、頑張るぞ。
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モーネ王国王城
「針で刺すように吸い取られる。触らない方がいい、か。シモンから送られてきた調査結果も同じような内容だったよ。少し触れただけでそこまで分かったのか。凄いな、ルミリエ嬢は」
ベルナール殿下がシモンから送られてきた手紙に目を通しながら感嘆の声を上げた。
ジョゼット・エマリー男爵令嬢が持っていたというブレスレットはメイリリー学園の教師が厳重に封をして城へ持って来てくれた。今は回収した他のブレスレットと共に城の地下に保管してある。
僕はすぐにでもルミリエの元へ駆けつけたかったけど、状況がそれを許してくれなかった。新たに別ルートで出回ったブレスレットの調査回収に追われていたからだ。とりあえず無事だと聞いて胸を撫で下ろした。
「最初からネージュ伯爵令嬢に調べていただければ早かったのでは?」
「流石はあの壺の魔物に対抗し得た方ですね」
同じ部屋、城に設置された魔術・魔物対策室(仮)の中で一緒に働いている文官達もルミリエを褒めそやす。正直悪い気はしないけれど、ルミリエを当てにされるのは困る。
「ルミリエは病弱な深窓の令嬢です。負担をかけるようなことはできません」
「分かってるよ、ノエル。ルミリエ嬢には迷惑をかけないようにするから、そんなに怖い顔をしないでよ」
ベルナール殿下が苦笑しながら僕を見ている。
シモンから送られてきた手紙には、ブレスレットが危険なものであると結論付けられていた。触れた人間の生命力を吸い取るモノだったらしい。
「まさか魔物の一部を使った魔術道具だったとは」
「どういう原理なのかは分からないが、装着者に体調不良者が出ているようです」
「では今学園を休んでいる生徒達は……」
「ああ。恐らく回収後に出回ったブレスレットを入手した者達だろう」
「魔力が上がるというのは、魔物が影響しているのでしょうか?」
「ルミリエは元気に魔術大会の計画書を作ってたわよ」
「そう、良かった」
文官とベルナール殿下が話し合ってる横で僕はローズの話を聞いていた。ちなみに一応ベルナール殿下にはローズの存在を知らせてある。でも残念ながら彼には精霊は見えないそうだ。
「そういえば夢の魔物みたいって言ってたけど、ノエルは分かる?」
「ああ」
夢の魔物。ルミリエと初めて会った時に戦った魔物。魔法少女のことはあまり思い出したくないけれど、それもまあルミリエとの良い思い出だ。あの魔物は憑りついた人間の夢という名の想いを食べて力にしていた。今回のブレスレットは生命そのものを奪っているようだ。どちらにしても人間にとっては碌な結果にならない。
「生命力と引き換えに魔力を貰うのか。嫌なギブアンドテイクね」
「そうだね」
ルミリエにそんな危険なものと接触させてしまった……。僕は拳を握り締めた。
「ちょっと!血が出てるわよ。そんなんじゃルミリエが心配するわ」
「あ、ああ」
ルミリエ……。もう二日も会えてない。
「心配……してくれるかな」
ルミリエに何も話さずに動いていたことを後悔はしてない。危険に巻き込みたくなかったし、これ以上王国に目を付けられたくなかったから。でもルミリエのあの悲しそうな顔は僕の胸を痛めつけ続けていた。
「……はあ。面倒だから教えてあげる。ルミリエは全然怒ってないわよ?」
「え?」
でもあの夜に僕を拒絶して……。
「気になるならさっさと会いに行って確かめなさいよね」
ローズは心底面倒くさそうにため息をついた。
僕は意を決して立ち上がった。
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