接触
来ていただいてありがとうございます!
ああ、ビックリした……。
ノエル君が帰る時、お父様がじぃっと木の陰で見てるんだもの。ノエル君には見えてなかったみたいで良かった。本当に最近どうしたんだろう。思い切ってお母様に聞いてみたら、
「やっと元気になったと思ったらサフィーリエ様にあなたを取られたみたいで寂しいのよ」
なんて言われたんだ。
子どもの頃から体調を崩してばかりいた私はお父様とはあまり交流できてなかった。お母様はよく看病してくれたけど、お父様のお顔を見るのなんて年に数回程度だった。ずっと伯爵家のお荷物だと思われてると思ってた……。
今夜は思い切って夕食の席でお父様に
「お父様、今度の魔術大会は是非見に来てください」
って言ったら、
「都合が合えば伺おう」
って無表情で返されたんだけど……???特に喜んでもらえてなかったみたい。寂しいなんて本当かな?お母様やメイドさん達はにこにこしてたけど、これってどうなんだろう?
「んー、お父様ってよくわかんないなぁ……。それにあのブレスレットのことも。私って見えてないもの多すぎる……」
夕食後、お部屋に戻って着替えを済ませてベッドに寝転がりながら考えた。あ、ローズちゃんには別で夕食を用意したよ。
勉強とかドレスのデザインとか(あ、メイベルさんとオスカー王子の事も)色々あって、ブレスレットのことは頭から抜けてた……。ノエル君はちゃんと気が付いてたのに。ああ、私って駄目だなぁ。自分の事ばっかりだ。
「ルミリエ、ノエルを許してあげなさいよ」
食事を終えたローズちゃんが枕元に飛んで来た。
「え?何のこと?私?ノエル君を許すって、何?」
「え?ブレスレットの事をルミリエに内緒で調べてた事、怒ってるんでしょ?」
「ううん?怒ってないよ?だって私、全然ブレスレットの事なんて気にしてなかったし。あれからブレスレットなんか見かけなかったし」
「まあ、ノエル達が必死で回収してたからねぇ」
「そっかぁ、ノエル君頑張ってたんだね。それにしても久しぶりに見たよね、あのブレスレット」
「そうね。一体どこから手に入れたのかしら……」
「あまり良くないって、どんな風に悪いんだろう?魔力が上がるってだけならそんなに悪くないような気がするよね?」
「うーん、そうね。でも不自然な気がするのよね。力の流れが」
「そうなんだ。ローズちゃんが言うならきっと間違いないよね。私もこれからは気を付けてみるようにしてみる」
「まあ、それはノエルに任せて、ルミリエは魔術大会だっけ?それに集中した方がいいんじゃない?もうすぐなんでしょう?」
「そうだった!今年は一人だから、早く準備始めないといけないんだった!どうしよう」
私はベッドから下りて机の上に「魔術大会参加計画書」って書いてある紙を広げた。
秋も本格的になって来た頃、クラスにぽつぽつと空席が出るようになった。涼しくなってきたから風邪でも流行ってるのかな?
「もうすぐ外でご飯を食べるのも辛くなるね」
「そう?それなら、温室があったから今度からそっちへ行きましょう。いっぱいお花が咲いてて綺麗よ」
「そうだね。それはいい考えだねぇ」
ローズちゃんと二人でお昼ご飯を食べながらそんな話をしていた。
あ、向こうのベンチに……。ジョゼちゃんだ!今日も一人でいる。声をかけてみようかな。
「あの……こんにちは!」
びくりと震えて立ち上がったジョゼちゃん。
「こんにちは……」
「私、ルミリエ・ネージュと申します」
「……ジョゼット・エマリーでございます。お目にかかれて光栄です。先日は大変失礼な態度を……」
「いえ、いいんです!私こそ突然声をかけてしまってごめんなさい。元気が無いみたいだったので気になってしまって。ご迷惑だったら申し訳ありません」
それに精霊がくっついているのもすごく気になってる。今もオレンジ色の光がジョゼちゃんの周りを飛び回ってる。
「見えてないみたいねえ」
ローズちゃんもジョゼちゃんの目の前を飛び回ってるけど、ジョゼちゃんには反応が無い。
「…………何だかお聞きしていた印象と随分違うんですね」
ジョゼちゃんはふわりと笑った。
「女性嫌いなノエル・サフィーリエ公爵令息を惑わした黒髪の魔女ってお聞きしていて……」
「ええーっ!魔女?!何ですかそれ!」
魔術師と魔女と魔法使いの違いってそもそも何?
「も、申し訳ございませんっ」
「気にしないでください。黒髪ってこの国では珍しいですよね」
そんな風に言われてたんだ……。どおりで友達できないはずだよねぇ。
「確かにルミリエはノエルを骨抜きにしてるわね。魔女か……どっちかっていうと魔性の女かしら?」
魔性って、ローズちゃん、後でほっぺた引っ張ってやるぅ……。
私達は一緒にベンチに座ってお話した。ジョゼちゃんがふうっとため息をついた。
「あの、大丈夫ですか?やっぱりどこか具合が……」
「あ、いえ、そうではないんです。ちょっと友人たちと意見が合わなくて……これの事で」
ジョゼちゃんがポケットから取り出したのはハンカチに包んだあのブレスレットだった。
「それって!それ一体どこで?!ジョゼちゃん!」
「ジョゼちゃん……?」
「あ、ごめんなさい……」
しまったぁ、心の声が出ちゃった……。私は口を押えた。
「ジョゼでいいですよ。ネージュ様」
「あ、私の事もルミリエでいいです!それでそのブレスレットって」
「友人のケイト様がくれたんです。魔力が上がるお守りだって。でも私は身につけるのはあまり気が進まなくて。嫌な感じがするんです。それでみんなにもやめるように言ったんですけど、聞いてもらえなくて……」
ジョゼちゃんのお友達は魔術の授業の成績を上げるためにこのブレスレットを付け始めた。効果があったからお友達にも薦めて、つけるのを嫌がったジョゼちゃんと喧嘩になってしまったそうだ。
「ちょっと見せてもらってもいい?」
「え、ええどうぞ」
「ありがとう」
「ちょっと!ルミリエ!」
大丈夫。つけたりはしないから。ちょっと見せてもらうだけ。目線でローズちゃんにそう訴えて私はブレスレットを手に取った。
針がチクって刺されるような…………吸い取られる…………おぞましい感覚…………何?これ?
「いやっ!!」
思わず私はブレスレットを投げ捨てていた。
「ルミリエ様?どうなさったのですか?」
「それに触っちゃダメ!」
ブレスレットを拾おうとしたジョゼちゃんを慌てて止めた。
「ルミリエ……?」
ローズちゃんが心配そうに私を見てる。
「うん。見てただけでは分からなかったけど……これは良くないもの……ううん、絶対悪いものだわ」
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