メイベル
来ていただいてありがとうございます!
「言いつけるって……ええと、気になるっていうのはあのジョゼット・エマリーさんの事なんだけど、メイベルさん知ってる?」
メイベルさんは私の背後にピッタリくっついて一緒に教室を覗き込んだ。なんか距離が近いような?まあいっか、女の子同士だしね。
「ああ、一年生の時同じクラスでした。あら?何だか険悪な雰囲気ですね……あの四人は仲が良かったと思ってましたけど」
「やっぱり、メイベルさんにもそう見える?うーん……あ、あの三人……」
「あのブレスレットをつけてるみたいね」
私の髪の中に隠れていたローズちゃんがそっとささやいた。
「うん」
良く見たら、このクラスの中にはあのブレスレットをつけてる人が結構いるみたい。でも前よりも見えづらい?気がする。
「どうかしましたか?ルミリエ様」
「あ、ううん。何でもないよ」
「もういいでしょ?」
「貴女には分からないわよ」
「そうよね」
そんな言葉が聞こえてきて、ジョゼットさんのお友達は怒ったように教室を出て行ってしまった。
「待って!」
ジョゼットさんの声は三人には届かないみたいだった。一人で残されたジョゼットさんはすごく悲しそう。
「今日もサフィーリエ様はいらっしゃらないんですね」
あの後、ジョゼちゃんはすぐに帰ってしまって声をかけられなかった。そういう雰囲気でもなかったし。私はメイベルさんに誘われて学園のカフェテリアでお茶を飲むことになった。
明るい光が差し込むカフェテリアでは何組かの生徒達が楽しそうに話をしてる。ノエル君、リンジー様、シモン様と放課後のお茶会が懐かしいな……。みんな自分の道を進んで忙しくしてる。私、このままでいいのかな。でも自分の道なんて何をしたらいいのか分からないや。
「ええ、ノエル様は最近少し忙しいみたいで」
ノエル君に相談してみようかな。でも忙しいみたいだしやめた方がいいのかな?そういえばローズちゃんはまた散歩に行っちゃった。いつもどこに行ってるんだろう?
「ルミリエ様はどうやってサフィーリエ様と婚約を?」
メイベルさんはお茶を飲みながら少し上目遣いで探るように私を見てる。
「え?えっと、どうやって?」
こんな質問をされるのは久しぶりだ。入学したての頃はご令嬢様方によく聞かれたんだよね……。敵意のこもった視線が怖かったなぁ。
「サフィーリエ様はモテるのに全く女性に興味が無かったと伺ってます。でも今はルミリエ様をものすっごく溺愛なさってますよね」
「で、溺愛っ?!」
ものすっごく?そんな風に見えるのかな?思わず頬を押さえてしまう。
「ふふ、ルミリエ様、可愛らしいです。ルミリエ様もサフィーリエ様のことを愛してらっしゃるんですね」
「そ、それはもちろん!私はノエル様が大好きです!!」
「……そうですか……。そうですよね。婚約もなさってるんですものね。仕方ないですよね」
メイベルさんは切なそうにため息をついた。ああ、やっぱりメイベルさんもノエル君の事好きなんだ……。でもノエル君の事は誰にも譲れないから。
「あの、メイベルさん……私は」
私は意を決して口を開いた。お友達になれそうな人を失ってしまうかもしれないけど……。
「仕方ないので、ルミリエ様の事はサフィーリエ様にお任せします……はあ……」
ん?
「せっかくお近づきになれたのに、いつもサフィーリエ様がくっついてて……夏休みだって……」
あれ?
「オスカー殿下が邪魔だったし……よりにもよってルミリエ様まで口説こうとかしてきて鬱陶しいったら……」
メイベルさんのこめかみに青筋が……。
「あ、あの、メイベルさん?一体何を?」
混乱してる私と心なしかうっとりとした顔のメイベルさん。彼女の次の言葉に心底驚いた。
「私、ルミリエ様の大ファンなんです!」
「…………はい?」
頭の中真っ白なんですが。
メイベルさんは昨年の冬の魔物騒ぎの一部始終を見てたんだって。
「つまり、私の事も?」
「はい!全部見てました!」
「私、あの時校舎二階の資料室に閉じ込められてたんです」
「ええ?どうして?…………もしかして……」
「はい。いじめですね。寒いしどうしようかなって思ってて、二階だったから窓から飛び降りようかなって思ってた所でした」
「そんな……」
資料室なんて暖房も入ってないような所に閉じ込めるなんて酷い。下手をしたら凍死してしまう。白の王国の冬は厳しいのに。
「私が治癒魔術を使えるのが生意気だとか言ってました。あの騒ぎの時に我先に逃げようとする醜い姿を見て心底貴族というものに幻滅してしまって。こんな学校辞めてやるって思いました」
メイベルさん笑ってるけど、目が笑ってない。それはそうだ。私だってそんなことをされたら、そんな目に合わされたら……。
「ごめんなさい……」
私もこの世界では貴族の娘だ。
「ルミリエ様が謝ることなんて何もないです!!」
「でも……」
「私、魔物なんて初めて見ました。あんな恐ろしいもの……。サフィーリエ様やベルナール殿下達が立ち向かっていくのを見て、素直に凄いって思ったんです」
うん。ノエル君達は他の生徒を守るために頑張ってたもんね。リンジー様もシモン様もアマーリエ王女殿下も逃げずに頑張ってた。
「でも、それよりもなによりも!ルミリエ様がまるで天の使いのように舞い降りて来られて!!魔物を倒してしまわれました!!!」
メイベルさん、凄く興奮してるみたい……。
「でもあの時魔物を倒したのはノエルく、様で……」
「あ、まあサフィーリエ様も凄かったですけど、ルミリエ様は女神様みたいでした!皆さんを守って、サフィーリエ様にお力を貸していらしたのはルミリエ様でしたもの!あの虹色の光……私、分かります!!」
上気した頬を押さえて、メイベルさんはほぅっと息をついた。
「その時の活躍を見てずっと憧れてたんです。でもルミリエ様は伯爵家のご令嬢だから……。まさか、こんなふうにお話しできるようになるなんて!私……とっても嬉しいんです!」
いろいろびっくりしすぎちゃって何も言えなかった……
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