秋が近づく
来ていただいてありがとうございます!
白の王国の短い夏は駆け足で過ぎていく。
メイリリー学園の夏休みが終わって授業が始まった。最近はメイベルさんとそのお友達と一緒にランチを食べさせてもらってるんだけど、今日はローズちゃんのリクエストで外でランチを一緒に食べてた。
「ここは生徒があんまりいなくて静かだね」
校舎と校舎の間の木立の間のちょっとした花壇の前のベンチ。ベンチはいくつかあって、話し声が聞こえないくらいの間隔で配置されてる。私の左隣には仲良さそうな男女二人組。恋人同士か婚約者同士かな。右隣には女の子が一人で座って本を読んでる。
「そうね。次はそのお魚のフライが食べたいわ」
「はい、どうぞ」
ロースちゃんのためにお魚を小さくカットして口元へ運んだ。お魚と衣を一緒に小さく切るのがちょっと難しい。
「うーん!美味しい!けど、口の周りに油がつくわ」
「ふふっ精霊も人間も同じだね」
私はハンカチを差し出した。
「ありがと」
「もう風が涼しくなってきたね」
私はローズちゃんと食事しながら考えてた。
今年の魔術大会はどうしよう?
メイリリー学園では秋に魔術大会というものがある。基本全員参加で、魔術を使って何かしらの発表をするんだ。昨年はリンジー様とお友達の方々と一緒にファッションショーみたいなものをやって好評だった。でも今年はリンジー様(王子妃教育で免除)もノエル君(魔術の戦闘大会出場。去年の優勝者で出場は必須)も忙しい。
ノエル君は一緒に何かしようって言ってくれたけど、ただでさえ忙しいのにこれ以上負担はかけられないって思ってる。
メイベルさんは治癒魔術師だから、街での治癒実習のレポート提出で免除されるみたい。昨年は救護室のお手伝いをしてたんだって。わりと大がかりな魔術もあるから怪我人も出るみたいで忙しいらしい。つまりメイベルさんは一緒に魔術大会に参加できない。
今のところクラスでよく話すのはメイベルさんくらい。時々話すくらいのクラスメイトくらいならいるんだけど……。一緒に何かしよう!って誘えそうな人はいない。どうしよう……。お昼ご飯を食べ終わって、ぽけっと空を眺めてたら、
この前見た星空、綺麗だったな
なんて思い出して思いついた。
「そうだ!プラネタリウムをやってみようかな。幻影の魔術で」
他にも海の中とか色々な景色を投影してみたりとか?人間投影機?これなら一人できるもの。魔術大会はグループっでの発表が多いけど、個人で参加してる人も何人もいるし。
「プラネタリウムって何?」
「うーん、星空を部屋の中に映し出す機械……でいいのかな?」
「部屋の中に空?良く分からないけどすごいわね。でもそんなことしてどうするの?」
「えっと、綺麗かなって思って」
「そうね。面白そうかもね」
ローズちゃんもそんな風に言ってくれた。
「よーし、午後の授業中にちょっと考えてみよう!」
「授業中は駄目でしょ」
「あはは、冗談だよ、ローズちゃん」
私は笑って誤魔化した。
「あら、あの子も面白いことしてるわ」
ローズちゃんが見ている方にいるのは、さっき本を読んでた右隣の女の子。濃い茶色の髪のショートのボブがかっこいい。切れ長の緑の瞳も。とても綺麗な人だ。見たことがあるからたぶん同じ学年の人だ。小さな光の球で遊んでる?…………あれはそう!ジャグリングだ!
「すごい!魔術の光の球のジャグリング!お手玉かな!」
「あ、ルミリエ?どこ行くの?」
私は思わず立ち上がって、その子に近づいて行った。
「あの!その魔術、すごいですね!」
「……っ!」
「あっ!」
行っちゃった……。走って校舎に入って行っちゃった。私不審者?同じ学生なのに……。ちょっと傷付いた。きっと急に話しかけたから驚かれただけだよね。
「人見知りのすごい子ね」
「うん」
「やだ、涙目にならないでよ、ルミリエったら」
「だって……どうしたの?ローズちゃん」
ローズちゃんはじっと女の子が走り去った方を見てる。
「あの子、精霊がついてるわ」
「え?!」
ローズちゃんの言葉に驚いてあの子が入って行った校舎をしばらく見ていたら、小さなオレンジ色の光が明滅しながら同じように校舎の中へ飛んでいくのが見えた。
「本当だ!」
「お昼に一人なんてもしかして友達がいない子かもしれない」
「そうね、ルミリエみたいにね」
「私にはローズちゃんがいるよ」
「…………そうね。そういうことにしといてあげるわ」
実際にはそんなことは無いと思うけど、なんだか表情が硬かったみたいなのが気になっちゃったんだ。興味が湧いてしまったので、放課後に他のクラスをそっと見に行った。
「あ、いた!あの子だ」
隣の隣のクラスの子だった。クラスの人に尋ねたら名前はジョゼット・エマリー様。男爵令嬢だった。でもなんだか、クラスで孤立してるみたいに見える。周りに誰もいないみたい。
「本当に友達がいないのかな?」
「そろそろ帰った方がいいんじゃない?ノエルが心配するわよ?」
「うーん、ローズちゃんあと少しだけ。あ!ジョゼちゃんがクラスの子に話しかけてる」
「なんでいきなり愛称呼びなのよ……まったく、仕方ないわねぇ」
見ていたら、ジョゼちゃんはクラスの女の子何人かに話しかけている。でもことごとく冷たくされてしまってるみたいだった。
「大丈夫かなぁ」
「何が大丈夫なんですか?」
「うーん、ジョゼちゃ……、わぁっ!メイベルさん?!いつからそこに?」
振り向くとメイベルさんが私の後ろに立っていた。
「ついさっきからです。ルミリエ様。どうなさったのです?」
「えっと、ちょっと気になる子がいて……」
「あら!聞き捨てならないですね。サフィーリエ様に言いつけちゃいますよ?」
メイベルさんはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
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