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遠くの空

来ていただいてありがとうございます!



「ああ、やっと解放されたよ!」


伸びをしたノエル君はずいぶん元気になったみたいに見える。あれからノエル君と私は王家の領地で十日ほど過ごして帰って来た。何故かオスカー王子殿下は夏休みが終わる前に予定を早めて灰の王国へ帰って行ったそう。急ぎの用でもできたのかもしれない。


膝枕(あれ)、効き目があったのかな?物凄く恥ずかしかったから、しばらくノエル君の顔がまともに見られなかったんだよね。まあ、ノエル君の顔色がいいからどっちでもいいかな。



夏休みの残りの期間はサフィーリエ公爵家の領地へ遊びに行った。今年はそんなにあちこち挨拶回りに行くことは無くて、招待されたいくつかのお茶会と、一度だけ小規模の舞踏会に出席しただけだった。小規模と言っても公爵家の舞踏会だからそれなりに大変だったけど、ノエル君とずっと一緒だったから楽しむことができた。


「ちょっと今日は出かけてくるよ」

時々ノエル君は一人で出かけていくことがあったんだけど、領地での仕事があるみたいだからそんな時はお屋敷の図書室で本を読んだり、学園の課題をやったりして過ごしていた。




サフィーリエ公爵家の領地は王都に近い広大な場所で、遠くには夏でも雪を冠した山々が見える。

「あの山も領地の一部って……。公爵家って凄いんだなぁ」

今日は天気が良くてとても爽やかな風が吹いてる。

「日本の夏は蒸し暑くて辛かったけど、ここの夏は過ごしやすくて助かる……」

今日は一人でお屋敷の近くの丘の上に来ていた。花がたくさん咲いててとても綺麗でお気に入りの場所になった。

「高度が高くて北の方にあるからかな?」

王国とその周囲の地図は学園の歴史の教科書に載ってるけど世界地図は見たことがない。

「冬が長くて夏が短くて、雪がたくさん降って、湿度が低いってそういう事よね?たぶん」

この世界はとっても地球に似てると思う。違うのは魔術があって魔物や精霊がいることかな?うーん、結構大きな違いかも……。


「何を考えてたの?」

ぼんやり景色を見ていたら、ノエル君に後ろから声をかけられた。

「おかえりなさい、ノエル君」

「ただいま、ルミリエ。散歩してたの?この辺りなら大丈夫だけど、あまり遠くへは行かないようにね」

ノエル君は私の隣に立った。

「風が気持ち良くて綺麗なところだなぁって思ってたの」

「この辺りには農地と牧草地しかないけど、景色だけは良いかな」

「空気も澄んでて空も広いから星空も綺麗だよね」


「ルミリエはここが好き?」

「うん。のどかでいい所だよね」

「そうか。じゃあこの辺りの土地を分配してもらえるようにするよ」

「え?!土地?」

「うん。僕は家督を継ぐわけじゃないから公爵にはなれないけど、母方の伯爵位が空いてるからそこを継ぐことになると思う。王都に近いその領地を継ぐ代わりに、この辺りの土地をね」


ノエル君は卒業したらお城で文官として働くことになってて、今ももう補佐として学業の傍ら正規の文官の手伝いをしに行ってる。学園に来ないことがあるのはその為なんだ。その、卒業したらすぐに結婚するからって。…………私は何もできないんだけど。


「でもここは王都から離れているし、ノエル君には不便でしょう?」

「ここに住む訳じゃないよ。夏の間の別荘を建てるだけ。王都には小さな家を借りればいい」

「ありがとう、ノエル君」

「どういたしまして」


ノエル君は優しい。いつも私の事を考えてくれてる。きっと私が思うよりもずっと。私もノエル君の手助けになれる何かができたらいいのに、何にも浮かばない。この国では貴族の女性は結婚して旦那様の家を守るのが当たり前だから私もそうすればいいんだろうけど、ノエル君の負担が大きすぎる。最近までだってずっと疲れてたみたいだし。


私は今までの遅れを取り戻すべく、学園で人並みに生活することを目標に頑張ってきた。だけどこれからは私ができそうなことを探してみようと思った。ノエル君の為に。ノエル君とずっと一緒にいるために。




「そういえばオスカー王子の帰り際にクロフォードと一緒に何か言われた?」

「え?あ、えーと何だったっけ?……そう!メイベルさんに断られたって嘆いてたよ?凄いね、メイベルさん。断っちゃったんだね」

「それだけ?」

「『灰の王国には友人がいないからでしょうか?』って仰ってた」

バイトでもお友達同士で応募って敷居が低くなるもんね。私は一人で面接とかに行ったけど。

「……なんて答えたの?」

あれ?ノエル君ちょっと機嫌悪い?っていうか怒ってる?


「勤務地が遠いのも良くないですよね。遠隔地に通うなら破格の条件を付けて頂いた方がいいかもしれません。お給料をうんと高くするとか、住居を用意するとか、家族と一緒に行けるようにするとかって答えたよ」

家族と一緒とかっていうと、それってもう転勤だよね。

「隣国とはいえ、自分の国や家族と離れるのは大変だと思うからメイベルさんが行きたくない気持ちも分かっちゃうな。もし私だったら絶対嫌だもの」


「ぷっ…………」

「なんで?私、何かおかしかった?」

ノエル君に笑われちゃった。怒ってるよりいいけど。

「ごめん。笑ったりして。ルミリエはおかしくないよ。おかしかったのはオスカー王子の顔を想像したからだよ。さすがルミリエだ」

「?」

良く分からないけど、褒めてもらったみたい?ノエル君が楽しそうに笑ってるからいいかな?


「さあ、屋敷に帰って午後のお茶にしよう、ルミリエ」

ノエル君は優しく微笑んで、私の手を取った。

「今日はルミリエの好きな「雲のケーキ」だって」

「わあ!それは楽しみ!」

「雲のケーキ」は文字通り真っ白なふわふわなケーキで私の最近のお気に入りなんだ。シフォンケーキみたいな白いケーキ。


私はノエル君と手を繋いでお屋敷の方へ向かった。いずれくる楽しい未来の話をしながら。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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