ノエルの苦悩
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ノエル視点です
ルミリエが王女達とお茶会をしている間、僕達も別の部屋でお茶を飲みながら話をしていた。僕としてはさっさと部屋に戻るなり、ルミリエを連れて帰るなりしたかったんだけどね。
「我が国には人材が不足している。是非メイベル嬢に我が国に来ていただきたいんだ。ああ、ルミリエ嬢にも。サフィーリエ殿も一緒でもいいんだよ」
オスカー王子に、にこやかにそんな言葉を吐かれた。作り笑いすら浮かべることはできなかった。フランシス兄上とベルナール殿下が顔を青くして僕の方を見たから、何とか罵声を浴びせることは我慢したよ。偉いな自分。
「彼女達が望むなら私の側妃になってもらってもいい」
続けてオスカーが言った言葉が一瞬理解できなかった。
「…………はあ?」
兄上とベルナール殿下が両側から僕の腕を押えなかったら、ちょっと、いやかなり危なかったよ。オスカーの命。メイベル・クロフォードがどう決断しようが構わないが、ルミリエをおまけのように扱った挙げ句、側妃だと?あの時、魔術攻撃をしなかった自分を誉めてやりたい。
ああ、最近は腹が立つことばかりだ。結局今日はゆっくりルミリエと話ができなかった。話そうとするとメイベル・クロフォードが割って入って来る。勿論オスカーもだ。オスカーはメイベル・クロフォードに話しかけると見せて、しっかりルミリエにも粉をかけてる。だけどルミリエは全く気が付いてない。
ルミリエは自分への好意に対して驚くほど鈍い。僕は、ハラハラしてばかりだ。
その夜、用意された部屋で眠ることも出来ずにイライラしていると、ベランダの方で軽い物音がした。
「誰だ」
不審者だとしたら思いきり魔術を叩き込んでやろうと思ってた。だけど月明かりの中にいたのは天使だった。ああ、女神かもしれない。
翌朝の目覚めは爽快だった。
「ルミリエ……起きたらもういなかった……」
ルミリエの白い就寝用ドレスは、以前、まだ月明かりの中でしか会えなかった時の白いワンピースを思い出させた。懐かしい。
「ああああーっせっかくルミリエが夜這いに来てくれたのにっ!!何故寝てしまったんだ!」
僕は頭を抱えた。
「違うわよ。夜這いじゃ無いわ」
「けどルミリエの膝は気持ち良かった……。頭を撫でられたのはいつぶりだっただろう?」
僕はあの時の感触を思い出していた。
「え?寝てたんじゃないの?起きてたんだ」
「すぐに寝てしまって残念だったけど、久しぶりに良く眠れたな」
「良かったじゃない。ルミリエ、心配してたわよ。ノエルの不調は他の人間は気が付いてもなかったのにね」
「ルミリエ……襲いたかった」
「……素直ね」
「っていうのは冗談として」
「…………」
「それにしてももう少し起きていたかった……。話したい事がたくさんあるのに。本当に何で寝てしまったんだ僕は!」
「疲れてたんでしょ。あんまりあの娘を心配させるんじゃないわよ」
「ああ、おかげでルミリエをたっぷり補給できたからもう少し頑張るさ」
「何だかいやらしい言い方ねぇ」
「それでどうだった?ローズ。あのブレスレットについてシモンはなんて言ってた?」
僕は今まで僕の独り言に相づちを入れていた精霊に、ここで今朝初めて話しかけた。
「いきなり真面目にならないでよ。私が疲れるわ」
呆れた様子のローズは長くため息をついた。
精霊のローズには遠くに留学してるシモンとの連絡役をしてもらってる。今朝はその報告に来てくれていた。
「シモンにもよく分からなかったらしいわ。だから機関の人間に調査を依頼したそうよ」
ローズの言う「機関」とは海を渡った隣国にある魔術の研究機関の事で、シモンはその機関が設立した学園に留学している。
「だから今は調査待ちですって」
「シモンにも分からなかったのか」
シモンは魔術や魔術道具についてとても詳しい。そのシモンにも分からないとは……。
「ただ、おそらく危険な魔術道具らしいから、使わない方がいいって」
「やっぱりか……」
あのブレスレットはもうすでにかなりの数が出回ってしまっている。
「厄介だな」
もっとルミリエを補給しておかないと足りないかもしれない。
僕は至極真面目にそう考えていた。
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