ノエルの想い
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ノエル視点
「渡してきたわよ。あのブレスレット。シモンが調べてくれるって」
「ああ、ありがとう、ローズ。助かるよ。はい、これ」
僕はローズにリクエストされていた有名菓子店のケーキを渡した。
人払いをしたサフィーリエ公爵家の僕の書斎で僕は精霊のローズと話をしていた。
「あら、すごい。良く手に入ったわね。毎日行列ができてて入るのも大変な店なのに」
皿に乗せた綺麗なケーキを、ローズ用に特注した小さなフォークで器用に食べている。
「それはまあ、公爵家の力を使わせてもらったよ。そんなことよりルミリエより情報通なのはどうなの?」
「だって、あのオスカーとやらがいるうちは学園に行くなって言ったのはノエルでしょう?暇だから街に遊びに行ってるんじゃない」
「まあ、そうなんだけど……」
「ブレスレットのことも、気にしすぎじゃない?確かにおかしな魔術道具だけど」
「…………気になるんだ。いや、気に入らないって言った方が近いかな」
急に出回り始めた魔力を上げる魔術道具も。それにかけられた気配を消すような魔術も。だからローズに頼んで、手に入れたブレスレットをシモンの所へ送ってもらったんだ。
精霊のローズには時々海を渡った隣国にいるシモンと連絡を取り合ってもらっている。精霊たちには独自の道「精霊の道」があって、人間が動くよりもずっと早く土地と土地の間を移動できるから。
今回は王都の超有名菓子店の新作ケーキが食べたいと言われたから、なんとか人を使って手に入れた。もちろんルミリエの分もね。今日はこれからルミリエをサフィーリエ公爵家に招待してる。
「今日もでしょ?」
ローズには呆れられたけど、僕はルミリエが好きだ。毎日一緒にいたい。なんなら今すぐにでも結婚したいと思ってる。でも……。ルミリエは小さなころから病弱で、最近ようやく普通の女の子としての暮らしができるようになったばかりだ。特殊な事情があり前世でも夭逝しているので、できるだけその時間を伸ばしてあげたいと思ってる。
「メイリリー学園にいる間は穏やかに生活して欲しいんだ。そのためにルミリエの周りの危険はどんな小さなことでも排除する」
「愛ねぇ」
「愛か……」
そうだとしてもかなり独りよがりの愛だと自分でも思う。だってルミリエにあげられる自由な時間はあと一年半程しかない。後は僕だけのルミリエになってもらうから。結婚という形で彼女の両親からも離して。
ネージュ伯爵家は一人娘のルミリエが病弱だということで、早くから親戚の中から養子を貰って跡継ぎにすることを決めている。医者や治癒魔術師からも子どもは望めないと宣言されていたから、無理に縁談を進めることもしなかった。僕は伯爵家に入ることもないし、公爵家を継ぐこともない。だから僕は自力で文官となり屋敷を構えてルミリエを迎え入れることにしてる。その為の準備も着々と進めてる。後は卒業を待つだけなんだ。
「誰にも邪魔はさせない」
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「うん。とても似合ってるよ、ルミリエ。今日もルミリエが一番だ」
今夜は王家主催の初夏の舞踏会だ。ノエル君から贈られたドレスはミルキーブルーをベースにした青を基調とした可愛いドレスだった。私の青い髪飾りとノエル君の琥珀色の胸飾りは同じ形のお花でちょっと照れちゃう。
「一番は言い過ぎです。でもありがとうございます、ノエル様」
ネージュ家の屋敷に迎えに来てくれたノエル君は今日もカッコよかった。一応みんなの目があるから今日は敬語。
お父様がじっと見てて何だか怖い。ほんと、最近どうしちゃったんだろう?お母様も困り顔でお父様と私を見比べてる。
「では、行って参ります。お父様、お母様」
「また後でお城でね、ルミリエ。サフィーリエ様、よろしくお願いします」
「はい。お嬢様をお預かりいたします」
お父様はお母さまの言葉に合わせて無言で頭を下げてた。ノエル君が来た時、きちんとご挨拶はしてくれたからいいんだけど、なんだかなぁ……。やきもちなのかな?
夜の風が心地いい。どこからか花の良い香りが流れてくる。
「リンジー様もアマーリエ王女殿下も素敵でした!!」
舞踏会での挨拶回りを終えて、一曲ノエル君と踊った私は物凄く上機嫌だった。
「みんな彼女達のドレスを見て驚いてたね」
ノエル君が私のいるバルコニーに飲み物を持って来てくれた。リンジー様の濃紺のドレスもアマーリエ王女殿下のパステルピンクのドレスもよくお似合いだった。美人で可愛い方々が私のデザインしたドレスを着てくれるのはとても嬉しい。
「クセになっちゃいそうです!」
前世で服の作り方を自分で調べたりして作ってた記憶がよみがえってきて、なんだかうずうずしてきちゃった。またああいうの作れたらいいなぁ……。
「一年前は、いっぱいいっぱいで大変そうだったけど、今回はルミリエが楽しそうで嬉しいよ」
ノエル君がふっと微笑んだ。わあ、近くにいたご婦人方が見惚れてる。そうだよね、ノエル君綺麗だもんね。笑うと更に天使や神様ってくらい神々しいから……。思わず拝んでいるとノエル君にほっぺを引っ張られた。
「こらこら、また変なことしないの。目立つでしょ?」
「いひゃいれす……」
「ぷっ……くっくっ……」
ああ、ノエル君に笑われたぁ。
「そんなに変な顔だったですか?」
涙目で頬を押えてると、ノエル君は笑うのをやめて真面目な顔になった。
「ううん。なんだか嬉しくて」
「嬉しい?」
「うん。一年経って、ルミリエがこの世界に馴染んでる気がして安心してた」
耳元で囁くように言われた言葉。うん、そうだね。ノエル君と一緒にいるこの世界が私の世界。
「おや、珍しいですね。白の王国の「氷の貴公子」と呼ばれる貴方のそんな笑顔が見られるとは」
突然、私達がいるバルコニーに現れたのは……
「オスカー王子殿下……」
隣国、灰の国の第二王子、オスカー様だった。
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