ありがとう
来ていただいてありがとうございます!
「この前のお茶会の時はごめんなさいね、ルミリエさん」
「そんな!王女殿下に謝っていただくようなことは何も……」
アマーリエ王女殿下はとても申し訳なさそうにしてるけど、私は特に気にしてない。お城のお茶会に呼んでもらえるだけで光栄なことだものね。
「ゆっくりドレスのこと話したかったんだけど、急遽オスカー殿下が参加なさることになったのよ。あのメイベルって子も呼んで欲しいってご所望だったの」
リンジー様は少し憮然としてる。だからメイベルさんはあんなに混乱してたんだね。
今日は三人でやり直しのお茶会なんだって。なんだけど……
「だったらルミリエは参加中止で良かったでしょう?アマーリエ王女殿下」
何故かかなり怒ってるノエル君も一緒にいる……。冷汗が止まらないよ。
「っ、そんなに怒らないで欲しいわ、ノエル。わたくしにも立場ってものがあるのよ。分かって欲しいわ」
アマーリエ王女殿下はしょんぼりしてる。
前回のお茶会は高位貴族のご令嬢様方を集めて、私のドレスのデザイン画をお披露目してくれる予定だったそう。でも急遽オスカー殿下が参加を希望されてお茶会がお見合いみたいな感じになってしまったみたい。これは内密の事なんだけど、オスカー殿下はお嫁さんを探してるらしくて、この白の王国の中でも候補者を選びたいんだって。前回のメンバーは婚約者がいないご令嬢が多かったみたいで、顔合わせにちょうど良かったみたい。そんなこともあるんだね。……確かに私は不参加で良かったね。にぎやかしにはちょうど良かったのかも?でも一つ疑問があったので尋ねてみた。
「メイベルさんもその候補なんでしょうか?」
「うーん、身分的にそれは無いと思うけれど、あれからあの二人は随分親しくなってたわね」
お茶を飲みながらリンジー様が渋い顔をしてる。そうなんだ!治癒魔術が得意な平民の聖女(?)と王子様の恋物語なんて、やっぱり小説とかゲームみたい!
「あまり良い傾向ではないけれど、オスカー王子殿下もその辺はわきまえていらっしゃるはずだから大丈夫でしょう」
アマーリエ王女殿下も難しい顔をなさってる。やっぱり、現実では厳しいのかな……。貴族としての常識では分かってるけどちょっと暗い気持ちになった。
「そんなことより、ドレスの話じゃなかったのですか?」
「そうだったわね、ノエル。ルミリエさん!貴女のデザイン素敵だったわ!」
「そうよ!昨年魔術で着せてくれたドレスも良かったし、才能あるわよ!ルミリエ!」
ノエル君の言葉に反応してアマーリエ王女殿下とリンジー様が一斉に褒めてくれた。私の趣味全開でデザインしたからどうかなって不安だったから、ホッとした。
「良かったです。喜んでいただけて光栄です」
アマーリエ王女殿下はフランシス様と、リンジー様はベルナール殿下と相談して、私のデザイン画をそれぞれ採用してくれることになったんだ!初夏の舞踏会がとっても楽しみになっちゃった。
「良かったね、デザインが採用されて」
お城からの帰りの馬車でノエル君がにこにこしてる。優しい顔で私が一番好きな表情のノエル君。
「うん。それにノエル君のご機嫌も直って良かった」
「まだ王女殿下を許したわけじゃないけど、ルミリエが嬉しそうだから今日はいいよ」
「ノエル君はアマーリエ王女殿下に厳しいね。時々ヒヤヒヤしちゃう」
「彼女は以前ルミリエを傷つけてるからね。今回は何事も無かったからいいけれど、これからもルミリエを危険に近づけるようなら容赦しないよ」
「そんな、危険なんて……。オスカー王子殿下は私には全く興味無いのに。心配しすぎだよ」
「……ルミリエに関しては僕は心配しすぎるってことは無いと思ってる」
ふっとノエル君が真面目な顔で私を見つめた。私の事情が特殊だから、ノエル君には苦労させてしまってる時もあると思う。きっと知らないところでも守ってもらってるんじゃないかなって思ってる。だから。
「いつも守ってくれてありがとう、ノエル君。一緒にいてくれてありがとう」
私はそっとノエル君の腕を抱きしめた。気持ちはなるべくすぐに伝えるように頑張ってる。
「……うん。僕も。ここにいてくれてありがとう、ルミリエ」
ノエル君は私の手に自分の手を重ねてくれた。
しばらく二人で寄り添っていると馬車はネージュ伯爵家へ到着した。
「もうルミリエのドレスも頼んであるから。今度は僕が選んだドレスだから」
「どんなドレスかな、楽しみ!」
「じゃあ、また明日、学園で」
「うん。おやすみなさい」
そっと口づけを交わしてノエル君はサフィーリエ公爵家へ帰っていった。
もうちょっと一緒にいたかったけど、明日も会えるからちょっとの我慢だ。こんな風に思えることもとても幸せで、この世界に転生できたことを改めてありがとうって思ったんだ。
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