お城でのお茶会
来ていただいてありがとうございます!
「あれ?メイベルさん?メイベルさんも招待されてたの?」
「……はい」
あれ?元気が無いみたい……?
「どうしたの?」
「…………いきなりお城に呼ばれてこんなドレスを着せられたんですっ!」
メイベルさんが泣き出したので驚いてしまった。ええ?ど、どうしよう!
「そのピンク色のドレス、とっても似合ってますよ!」
必死にフォローしたよ。でも本当に似合ってて、私なんかよりずっと貴族のご令嬢みたい。実は私も急に招待されたんだよね。ドレスのデザイン画を持って来てほしいって。
今日はお城でアマーリエ王女殿下のお茶会がある。私は前に何回かお茶会に招待されたことがあるんだけど、私が招待される時はいつもリンジー様と一緒だったから、緊張はしたけど不安なことは無かった。でもメイベルさんは初めてで、しかも私が到着するまでは一人でいたらしくてかなり心細かったみたい。
「良かったです。ルミリエ様がいてくださって……」
待機してるお部屋の隅で背中をさすってあげてると、何とか落ち着いたみたいで泣き止んでもらえた。良かった……。それにしてもどうしてメイベルさんが招待されたんだろう?基本的に王女様のお茶会は高位貴族夫人や令嬢の交流の場になってる。私もリンジー様がいなかったらちょっと肩身が狭いというか居づらい雰囲気なんだ。アマーリエ王女殿下はそれを察してか、割と小規模のお茶会の時に招待してくれるようになったから、少しずつ面識のある人を増やしていけてる。最初は相手にされないどころか、「なんでここにいるの?」みたいな目で見られてほんと怖かった。
メイベルさんは平民だから尚更そんな目で見られてたんだろうなっていうのが良く分かる。さっきから一緒に話してても他のご令嬢様方の視線が怖い……。今日のお茶会も少人数だけど若いご令嬢様方ばかりだ。私達以外に五人。
「皆様、今日は庭園が会場となりますので、ご移動をお願いいたします」
お城のメイドさんに言われたから、私とメイベルさんも一緒に皆さんについて行った。
お城の庭園には色とりどりの花。そして大きな白いガゼボにはお茶やお菓子が用意されたテーブルと椅子。私とメイベルさんは案内されて端の方の席に座った。不安そうなメイベルさんは私の隣で少しだけ安心したみたいだった。
「ようこそ、皆様!」
アマーリエ王女殿下とリンジー様がやってきてお茶会が始まった。二人が現れると場は和やかな雰囲気になって、私達に冷たい視線をおくっていたご令嬢様方はお二人との話に夢中になっていった。私もかなり緊張してたみたい。少し体の力が抜けてきた。「庭園のお花、綺麗ですね」なんてメイベルさんに話しかける余裕も出てきた。
ん?あれ?席が一つ空いてる?誰も座ってない椅子がある……。遅れてくるのかな?そんな事を考えてたら、建物の中から誰かが出てきた。
「遅れて申し訳ない」
そう言いながらにこやかに席に着いたのは何と隣国の王子様、オスカー王子殿下だったのだ。
「皆さんもどうぞ楽にしてください」
笑いかけられたご令嬢様方は真っ赤になってうっとりと王子様を見つめてる。
え?なにこれ。聞いてないよ?
リンジー様もアマーリエ王女殿下も王子様と普通にお話してるし、最初から決まってたことなのかな?私はこっそりメイベルさんの方を見た。メイベルさんも物凄く戸惑って……あれ?メイベルさんも顔が赤い。嬉しそうに王子様を見てる……。そうだよね。相手は美形の王子様だもんね。ノエル君には負けるけど。女の子ならそうなっちゃうよね。
オスカー王子殿下は身分の高い順に話しかけていってた。社交的でお話上手な方みたい。皆さんとおしゃべりがはずんでて楽しそうだった。私には、
「こちらの国で黒髪は珍しいですね」
だけだったけど。特に王子様とお話したかった訳じゃないからそれはいいんだけど、私、どうしてこのお茶会に呼ばれたんだろう?今日はドレスのデザイン画をお見せする予定だったのに……。できれば早く帰りたいな。今日はオスカー王子殿下が中心で、いつもと違ってリンジー様やアマーリエ王女殿下と全然お話しできないから寂しい。それにノエル君が前に警戒してたから、あまり関わりたくないな。
「貴女の治癒魔術は素晴らしかったですね」
「ありがとうございます、殿下」
オスカー王子殿下はメイベルさん達の王都での魔術実習も視察したみたい。メイベルさんとも魔術の話で盛り上がってて、他のご令嬢様達が悔しそうにそれを見てた。
メイベルさんは王子様に気に入られたんだね。なんかいいなぁ。小説の主人公みたい。あ、シンデレラとか?身分違いの恋とか生まれたりして……!あまりにも暇なのでそんな妄想をして楽しんでたら、また誰かがお城からこちらに向ってやって来た。
「あ、ノエル様……?」
とベルナール殿下だった。ベルナール王子殿下はアマーリエ王女殿下の弟君でリンジー様の婚約者だ。ノエル君とはとても仲良しなんだよね。ノエル君も今日はお城に来てるって聞いてたけど、ベルナール殿下と一緒だったんだね。
「失礼します。僕の婚約者の顔色が悪いようなのでこれでお暇させていただきます。よろしいでしょうか王女殿下?」
氷の微笑……。ノエル君の顔が怖い。笑ってるのに。ベルナール王子殿下が困り顔で額を押えてて、アマーリエ王女殿下の顔が青ざめてる。
「ええ!大丈夫よっ」
アマーリエ王女殿下はひきつったように微笑んでる。前から思ってたけど、ノエル君て何でこんなに王女殿下に当たりが強いんだろう?
ご挨拶もそこそこに私は庭園からお城の中へあっという間に連れ出されてた。メイベルさんが気になって一度だけ振り返ったけど、メイベルさんは楽しそうにオスカー王子殿下と会話を続けてるみたいだった。
「良かった……」
「全然良くないよ?」
わあ、壁ドンだ。でもノエル君、かなり怒ってて怖い。
「やっぱりあいつ、僕のルミリエに目を付けてたのか。お茶会にまでのりこんでくるなんて」
「それはないんじゃないかな?私全然話しかけたりされなかったよ?第一私には、その、ノエル君がいるし……」
「……っ!」
ノエル君は何かを堪える様な顔をした後、はあーっと深いため息をついた。
「とにかく、さっさと帰ろう」
「でも今日はアマーリエ王女殿下にデザイン画をお渡しするために来たんだよ?」
「それならもう頼んであるから大丈夫だよ。わざわざルミリエが説明してやらなくてもいい」
何故かノエル君の怒りが再燃したみたい。
それからノエル君と私はサフィーリエ公爵家へ帰って、二人でお茶会の続きをした。そして何故か当然のように泊っていくことになってしまってた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




