久しぶりの
来ていただいてありがとうございます!
「ああ、困ったー……。どうしよう、ドレスのデザインが決まらないよ」
「ちょっと何よその紙の山は!」
散歩(?)から帰って来たローズちゃんにとても驚かれた。今日は学園のお休みの日。私は朝から自室の机で紙を広げて奮闘していた。何枚も何枚も悩みながら描き続けてた。
「なあに?まだ悩んでるの?そんなにアイデアが出ないなら……」
「違うのっ!アイデアなら出すぎるくらいでそれで困ってるの!!」
「…………」
「だって、リンジー様もアマーリエ様もタイプの違う美人だし!可愛いドレスがたくさん頭に浮かんできて、どれにしようか迷っちゃうんだ!」
私は考えたドレスを魔法で作り出してみた。部屋の中に所狭しと実体を伴ったドレスが並ぶ(トルソー付き)。
「うわあ……これは凄いわね」
前世で妹にコスプレ衣装を作ってた時には、妹の趣味に合わせてややハードでセクシー系の衣装が多かった。でも、私の趣味は可愛い系、ファンタジーのお姫様や妖精さんのような服装(自分では着ないけど)。服を作るのは好きだったけど、正直満たされたのは半分くらい。それが今回はモロ好みのデザインをさせてもらえるとあって、気合が入りすぎてしまうのだった。
「ルミリエ?入ってもいい?」
私が頭を悩ませているとノックの音がしてノエル君がひょいっとドアから顔を覗かせた。
「ああ!またこんなにおおっぴらに魔法を使って!ダメじゃないか!」
「わわ、ごめんなさいっ」
私は慌ててドレス達を消した。
「まったく!僕だから良かったものの、誰かに見られたらどうするの?」
つい嬉しくて興奮してしまってノエル君との約束を忘れてた。
私の魔法はちょっと特殊らしくて、色々なことができる。例えば、他の人が一つの属性の魔術、火とか水とか、しか使えないのに対して、私は思ったことが具現化できるみたい。私が変わってるのは転生者だからかな。あまり目立つとそれを利用しようとする人達が出てくるから、私の力の事は極力秘密にしておこうってノエル君と約束したんだ。
「ごめんなさい……。自分の部屋だからつい油断しちゃって……」
ノエル君に心配をかけてしまって、落ち込んだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫でしょ?ここへは家族くらいしか入って来ないんだし、顔パスなのはノエルくらいなんだから」
ローズちゃんがフォローを入れてくれた。
「悪意の無い人間にでも、見られてしまえば秘密が漏れることになるんだ。もしそうなったら……」
「大体、ノックより先にドアを開ける勢いで入って来られたら、プライバシーも何もあったもんじゃないわよ。家族や使用人だって許可を待つでしょう?」
「う……、そ、それは……その、早くルミリエに会いたくて……」
腕を組んで宙に浮いたままノエル君を見下ろすローズちゃんに口ごもるノエル君。
ノエル君はネージュ家の屋敷へは普通に出入りできるんだ。私もサフィーリエ公爵家へは割と自由に出入りさせてもらってる。本当なら何日も前から訪問の約束が必要だけど、その日の朝とかに連絡を入れてお昼ご飯を一緒に食べましょうとかでも大丈夫なくらい。家族みたいに迎えてもらえて本当にありがたい。元々お父様同士も仲が良くて交流が多かったみたいなんだ。
「ローズちゃんありがとう。でも私が不用意だったんだ。つい楽しくて……。ノエル君、ごめんなさい。これからは気を付けるね」
ノエル君が叱ってくれるのは私の為だもんね。反省しなきゃ。
「……ごめん。僕もちょっと言い過ぎたよ。でも本当に心配なんだ。誰かに知られたら、どこかへ連れて行かれて君をまた失ってしまいそうで……」
ノエル君の細い指が私の頬に触れた。不安に揺れる空色の瞳はとても綺麗。
「大丈夫!私は何処にも行かないから。ノエル君とずっと一緒だよ」
「……ルミリエ……」
いつの間にか繋がれていた手が離れて私の腰を抱き寄せた。唇が触れそうになったその瞬間に……。
「コホンッ!」
咳払いが聞こえた。
「お父様?」
「これはネージュ伯爵。ごきげんよう。お邪魔しております」
開けられたドアから入って来たのは私の今世のお父さんだった。
「昼食の準備ができたそうだ。よろしければノエル様も御一緒に」
「わざわざお父様が呼びに来てくださったのですか?ありがとうございます」
「…………」
あれ?お父様、少し寂しそう?変な顔してる。どうしたのかな?
「では食堂で待っているよ」
「ありがとうございます。ネージュ伯爵」
ノエル君が綺麗にお辞儀をしてみせた。その顔にはちょっと困ったような笑いが浮かんでる。
「お父様、最近どうなさったのかしら?」
私とノエル君が一緒にいると、ちょくちょく遭遇するんだよね。もしかして見張ってる?でもなんで?
「やきもちね」
「え?」
ローズちゃんの言葉に驚いてしまう私。
「娘を取られたような気持ちなんだろうね」
ノエル君が私の肩を抱いた。
「まあ、そもそもルミリエは僕のなんだけど」
「ええ?……私、前世ではお父さん、小さい頃に亡くなっちゃってて、今世ではずっと病気がちであまり交流が無くて……。そういうものなの?お父さんって」
「父親にとって娘はとても可愛いものだと思うよ」
ノエル君は優しく笑った。
「そっか、じゃあ、ノエル君も娘が生まれたらそんな風に思うのかな?」
何気なく思ったことを口に出しただけなんだけど、ノエル君は何故か真っ赤になってしまった。
「……っ、そ、そうかもね……」
「??」
「……ほら、さっさと食堂に下りないと、伯爵がしびれを切らすわよ。お昼ご飯、私の分は後で持って来てよね」
「了解!ローズちゃん」
その日はネージュ家でお昼ご飯を食べた後、ノエル君とローズちゃんと一緒に街へ出かけることになった。主にドレスショップを見て回ってもらったから、今の王都のドレスの流行りも取り入れたデザイン画を描くことができると思う。新しくできたカフェにも連れて行ってもらえてとても楽しかった!ローズちゃんも新作ケーキを食べてご満悦だったみたい。食べた後は食後の運動って言ってどこかへ飛んで行っちゃった。
夕暮れをむかえた王都の庭園をノエル君と二人でのんびり歩いた。
「そういえば、二人だけでゆっくり散歩するのは久しぶりな気がする」
「ノエル君、忙しかったから。今日はありがとう!おかげでいいデザイン画が描けそう!」
「ルミリエが楽しそうで良かった。でもあまり無理はしないでね」
ノエル君が心配そうに私の目を覗き込んだ。そしてゆっくりと唇が重なった。
「ん……」
今日はずっと長いこと離してもらえなかった。嫌じゃない、嬉しい、けどそろそろ力が抜けそう……。
「……ごめん。ちょっと抑えが効かなかった。あんな事言うから……」
あんな事って、どのことだろう?ノエル君の腕の中でぼんやりと考えたけど良く分からない。
ノエル君、また背が伸びたみたい……
すっかり日の落ちた庭園で、ノエル君に抱き締められながらそんなことを思った。
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