初夏の舞踏会
来ていただいてありがとうございます。
今夕は白の王国の王家主催の舞踏会が開かれる。ノエル君はあまりそういうのに私が参加するのを好まない。私もちょっと苦手かな。前世ではもちろんそんなの無かったし、今世のルミリエはずっと病弱だったから舞踏会なんて出たことない。ダンスもドレスもあまり経験が無かったから。でも今回は王家からノエル君と私に名指しで招待状が来てしまったので、参加することになった。
「参加するからにはね!」
事実上、私の社交界デビューになるからって、ノエル君他サフィーリエ公爵家の人達(主にお母様)が盛り上がってた。ドレスデザイン、生地選び、採寸、仮縫い、アクセサリー選びまで……。一応私の希望も聞かれたんだけど、良く分からなかったので「お任せします」って言った。
出来上がって送られてきたのは綺麗な薄い空色のドレス。身支度をしてノエル君に迎えに来てもらった。
「わあ、ノエル君カッコいいです!」
いつもとは違う髪型で漆黒の正装。スラッとしたスタイルのノエル君はまたさらに大人っぽく見えた。
「…………うん。このまま屋敷に帰ろうか」
「え?」
「いや、君の姿を他の男に見せたくないんだよ……」
ノエル君は心底嫌そうに言うので、ちょっと心配になった。
「えっと、似合ってませんか?」
「違う!」
即答……。びっくりした。
「綺麗だよ。すっごくね。このままどこかに閉じ込めておきたいよ」
そう言うとノエル君は私の指先にそっと口づけた。
白の王国は大陸でも北の方にあるから夏はとても短い。夜でも外にいて気持ちのいい季節はとても貴重なのだ。私はお城のバルコニーで爽やかな夜風に吹かれてた。日本の夏は蒸し暑かったけど、花火とかお祭りとか楽しいこともたくさんあったなぁ。なんて思い出しながら。サフィーリエ公爵夫妻とノエル君と一緒に一通りの挨拶回りを済ませた私は、ノエル君とファーストダンスを踊った。うーん私にしては頑張ったと思う。恥ずかしくない程度には踊れたんじゃないかな、たぶん。猛特訓したから……。今はノエル君が飲み物を取りに行ってくれてる。
「いい?ここから絶対に動かないでね?誰かに話しかけられてもついて行かないこと!」
なんだか私、小さい子みたい。思わす笑っちゃった。
「ルミリエ?ちゃんと聞いてる?」
「ノエル君、いひゃいです」
久々にほっぺを引っ張られた……。
「ちゃんと聞いています。ここでじっとしてますね」
「まったく……」
「あーっ!もう腹立つわっ!」
悔しそうな顔をした女の子がバルコニーへ出て来た。目には涙が浮かんでる。
「あら?先客がいたのね。ごめんなさい。ちょっとお邪魔するわ!」
「あ、あのどうしたのですか?大丈夫ですか?」
あ、この子誰かに似てる気がする……。誰だっけ?思い出せないけど……。
「このドレス、いつもと変わらないし、あんまり似合わないって言われたの!」
「え?そうなんですか?とっても可愛いと思いますけど」
薄いピンク色のフリルとレースのドレス。
「でも、実は私も好きじゃないの。こういうの。もっと大人っぽい色の方が好きなの」
「そうなんですか……。ならそういうの作ってもらえば……」
「お父様も、お兄様も私にそういうのは似合わないって言うの!いつもこんな淡い色のドレスばっかり……!」
「……じゃあ、ちょっと着てみますか?」
「え?」
「ちょっと動かないでくださいね」
私はイメージした。この子は色が白いからボルドーとかも似合いそう。私の手が光を放つ。
「わぁっ!何これ?どうして?」
ボルドー色の大人っぽすぎないゴスロリドレスにしてみた!うーん趣味全開!!魔法少女みたいにツインテールとミニスカートにしてみたかったけど流石にそれはやめておいた。
「そう!こういうの!こういうのを着てみたかったの!素敵!」
喜んでもらえて良かった。
「これ、あなたの魔術なの?すごいわね」
「はい。光の魔術なんです。気に入ってもらえて良かったです」
「私はリンジー。リンジー・マルク―ルよ」
「まあ、侯爵家の方だったのですね。失礼いたしました」
しかもマルク―ルって……。
「私はシモンの双子の妹なの」
あ、どおりで見たことがあるような気がしたんだ!
「私は……」
「知ってるわ!ノエル様の婚約者のルミリエ・ネージュ様よね?」
「は、はい」
「やっぱり、ノエル様が選ばれるだけあるわ……。とっても綺麗」
リンジー様が私をまじまじと見つめた。
「え?」
「リンジー、こんなところにいたのか!……そのドレスは!」
「お兄様……これはルミリエ様の魔術なの、どう?」
「……ああ、いや見違えたよ。いつものドレスより美しく見える……。リンジーの美しさが倍増してる……。素晴らしい」
「お兄様、ちょっと褒めすぎですわ……」
良かった、勝手なことしたって怒られちゃうかもって思った……。ただでさえ良く思われてないものね。
「これは本当に君の魔術なのか?」
「はい。でも幻影の魔術なので元のドレスは変わっていません。時間が経つと消えて元のドレスに戻ります」
「……すごいな……。系統的に光の魔術なんだろうけれど……、こんな現象は聞いたことが無い……いや、しかし……昔の文献に……」
「お兄様っ、ぶつぶつ言いながら考え事する癖やめて下さらない?」
「あ、ああ、すまない……つい……」
「ねえ!今度家へ遊びにいらっしゃらない?ドレスのデザインを考えて欲しいの!あなたの魔術なら私に似合うドレスが簡単に作れそう」
「僕も君の魔術には興味がある。是非話をゆっくり聞かせて欲しい」
「え?あの……」
シモン&リンジー兄妹に言われて私はちょっと困ってしまった。ノエル君との約束で人前であまり魔術は使えない。一度倒れた後は魔術の先生に見てもらってあまり多用しないこと、広範囲の魔術を使わないこと、これを守れば魔術を使えることになったのだ。授業もあるから全然人前で使わないって言うのは無理だから。
「そういう事は婚約者の僕に話を通して欲しいな……」
靜かな怒りの声が割って入った。ノエル君は持ってたグラスを近くのサイドテーブルに置くと私の前に立って腕を組んだ。
「ノ、ノエル……」
「シモン、君は以前にルミリエに言った暴言を忘れたのかい?僕はまだ許してないよ」
「う、あの時はその……」
「君はまだ、ルミリエに謝罪すらしていない。それなのに何を勝手に話しかけてる?」
ノエル君お顔が怖い。ガチギレってやつでは?
「ノエル君、私は気にしていません。マルク―ル様はノエル君のことを大切に思ってらっしゃるから……」
「シモン!これ以上ルミリエに庇わせるつもり?」
「お兄様っ!ルミリエ様に何かおっしゃったの?また思い込みで不確かな発言をなさったのね?私のドレスのことのように!」
リンジー様までシモン様を責め始めた?
シモン様はババっと腰を深くまげて頭を下げた。拝礼っていうんだよね?
「あ、あの……」
「申し訳ありませんでしたっ!!ルミリエ・ネージュ伯爵令嬢!」
「ええっ?」
「全て僕の誤解でした。貴女は成績も優秀で、授業にも真剣に取り組んでいらっしゃる。真面目で素直なお人柄であると判断いたしました。そして貴女の魔術は大変すばらしいですっ!思い込みで非難してしまったことをどうかお許しくださいっ」
「そ、そんな!頭を上げてください!そこまでしていただかなくていいですから」
「あれから、ノエルにはずっと無視されていて……。一言も口をきいてもらえなかったんだ。ノエルが本気で怒ってるのを知って、僕は間違えたんだと……」
「間違いも間違い、大間違いだね」
「ノエル君っ。わ、分かりました。謝罪を受け入れますっ。だからお二人とも仲直りをしてください。お願いします!」
「…………はぁ。ルミリエがそう言うなら、水に流してあげてもいいよ」
ノエル君は組んでた腕を解いた。
「ノエル……ありがとう……」
シモン様は半泣きだ。
「お兄様はノエル様が大好きだから、きつかったわね……どれだけ怒らせたのやら……」
リンジー様がひきつったお顔をしてる。
「ただし、一つ貸しだ。いいな?シモン」
「ああ、分かってる」
シモン様は心底ほっとしたように頭を上げた。
その後、私はと言えば、結構強引な二人に今度お屋敷へ遊びに行く約束をさせられてしまった……。もちろんノエル君と一緒に。ちょっと嬉しいかも。
ノエルside
冷たい月の光が降り注ぐ夜。
「やあ」
「夜這いはルミリエ以外は受け付けてないよ」
「ハハハ。本当にあのうさぎちゃんにぞっこんなんだねー」
「何の用だ?僕達の世界の魔物はもう回収済みなんだろう?」
ましろ、いやルミリエとの婚約が正式に決まったその日の夜。あの白い仮面の男が枕元に立った。起き上がった僕はその男が語ったことに怒りをこらえ切れなかった。
「残滓?どういうことだ!ましろ、いやルミリエはもう健康になったはずだ!僕の願いは叶わなかったということか?神とやらは無能なのか?」
「ああ、そんなに怒らないでね……。あの子の魂の傷は深すぎるんだよ」
仮面の男は深くため息をついた。
「あの子の世界に降りた魔物は強大でね。何人もの魔法少女達が戦ってやっと封印できた。それも奇跡的だったけれどね。あの子だけが唯一の犠牲者だった。魔物は最後にあの子に爪痕を残した」
「爪痕?どういうことだ?」
何故、ましろだけがそんな目に合うんだ?!
「魂に残された傷。魔物の毒を完全に消し去るには神の御許で一度魂を浄化する必要があるんだ。でもそうすると記憶もすべて消えてしまう。でもね、うさぎちゃんは記憶を持ったまま君に会いたいと願った。『ノエル君にもう一度会ってお礼を言いたい』があの子の願いだったけれど。……本当はね、君のそばにずっといたかったみたいだよ」
「ましろ……」
こんな話の流れで不謹慎だ。でも、ましろの気持ちが嬉しかった。胸の中が温かくなる。
「神様はその願いを汲んだんだ。できるだけ魂の傷を癒した。でも、魔物の残滓が残ってしまたんだ。呪いのように。だから今世のうさぎちゃんは病弱だったんだ。君の願いが強力に浄化の助けになったから、今はすごく元気だけどね。愛の力だねー」
仮面に隠れて表情は見えないが、からかわれてるようだ。僕は男を睨んだ。けど、すぐにましろのことが心配になった。
「ましろはどうなってしまうんだ?まさか……」
白い仮面の男は首を振った。
「今すぐどうこうということは無いと思う。でもね、あまり無茶をさせないであげてね。それから『何か悪いもの』には注意して。残滓が動き出す可能性がある」
「何か悪いもの?」
「うん。人の悪意とか邪念とか、魔物とか……。そんな感じのもの」
「アバウトなんだな……」
「とにかく、ノエル君が守ってあげてよ。君が側にいれば大体大丈夫だから」
「何故そう言い切れる?」
「君は…………だから」
「?」
気が付くと朝になっていた。夢を見たのかと思ったけれど、しまっておいたはずのましろのフローティングロケットが枕元に置いてあった。
「言われなくても、ましろから離れる気なんてないさ。守ってみせる。一生」
僕はロケットを握り締めた。
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