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精霊の道⑤

来ていただいてありがとうございます!



何かが付いてくるような気がする?


そんな気がしたんだけど、それよりもノエル君の気配を強く感じてそちらの方に気を取られた。


「見つけた!ノエル君だ!!」

駆け出す私を慌てて追いかけてくるシモン様と精霊。

「待って!ルミリエ嬢!!」

闇の先に立っているノエル君を見つけた。白銀の髪が綺麗。私はノエル君に駆け寄って抱きついた。

「ノエル君っ!良かった!」

「ルミリエ?君が来たのか?」

ノエル君は私を抱きとめてくれたけど、その声にはちょっと非難する色があった。

「ノエル、無事で良かった」

シモン様も後から走ってきてホッとしたようにしてる。

「シモン?君まで!ローズはどうしたんだ?何故ルミリエがここに?」

ノエル君は今度は明確にシモン様を非難していた。


「ノエル君、待って。シモン様は悪くない。私がノエル君を探すって飛び出してきたの」

「どうしてそんな危険なことを!何かあったらどうするつもりだったんだ!」

珍しく大きな声を出されて私はカァっと頭に血が上った。


「だって、私ならノエル君を見つけられるもの!私はノエル君を見つけるためにここへ来て、ノエル君と会うためにここへ戻って来たんだから!ノエル君がいない場所なんて私がいる意味なんてない!」

涙がぼろぼろと零れた。

「ルミ……」

「怖かった。ノエル君が消えちゃって。こんなのは嫌!!私の前からいなくならないで!ノエル君がいなくなったら私、私は」

「ごめん……ルミリエ……」

ノエル君に強く抱きしめられて言葉が出なくなった。涙はまだ止まらない。自分で思ってたよりずっと不安だったみたい。


ノエル君はいつか私に離れて行かないでって言ってくれたけど、私も同じだった。ノエル君は私がここにいる一番の理由だから。


「……驚いたな。いつもおとなしいルミリエ嬢がこんなに取り乱すなんて。彼女は君の事をとても心配してたんだ、ノエル」

眼鏡を直しながらシモン様は少し私達から目を逸らした。

「ああ、分かってる。すまないシモン。来てくれてありがとう、二人とも」

ふうっと息をついたノエル君。こんなノエル君初めて見た。もしかしてノエル君も不安だった?


「ごめんなさい。ノエル君」

私は大騒ぎしてしまったことが恥ずかしくて顔が上げられなかった。そしてちらりと横目で周りを見た時に凄く驚いた。ここにもカーテンのかかったスクリーンに映し出された世界があった。とても懐かしい風景がある。

「あれは……東京?」

ニュースとかで見るような高層ビルの群れと、横断歩道を渡るたくさんの人達。


「もしかしてあれはルミリエ、いや、ましろの住んでいた所なの?」

ノエル君のかすれたような声が耳に届いた。

「あんなに都会じゃなかったけど……。そうだと思う。私がいた世界だ……」

こんな偶然があるなんて……。もう見ることも無いと思ってた世界。思わずじっと見入ってしまっていた。


「帰りたい?」

ハッとノエル君を振り返った。悲しそうな、寂しそうなノエル君の顔が目に入った。私は首を横に振った。あの向こう側へ飛び込めば帰れるのかもしれない。けどそんなことをしたらもう二度とノエル君に会えない。そんなのは嫌だから。

「あそこにはノエル君がいないもの」

「ルミリエ……」

「帰ろう。ノエル君」

「…………そうだね」


「ルミリエ嬢は、僕達の世界とは違う世界から来た人なんだね」

あ、そうだった。シモン様がいたのに……私ってば前世の話を普通にしちゃった。

「なるほど。それで僕達の魔術とはなにか系統が違う感じがしたんだ!納得だ」

シモン様はなにやら考え込んでうんうんと頷いていた。

「シモン……そのことは誰にも」

「他言無用だろ?分かってる。っていうか、誰かに話しても多分信じてくれないと思うよ」

「ありがとう。シモン」

「でも、後でゆっくり話を聞かせてもらうからね」

あ、シモン様の瞳がキラキラしてる。ちょっとまずいかな?



『クル ヨクナイモノ』


突然精霊が慌てたように飛び回り始めた。


ズルズルとなにかが這いずるような音がして。私達の横から黒い光が近づいてくる。

「あれって何?」

『ワルイセイレイ セイレイタベル』

「え?食べる?食べられちゃうの?」

「ルミリエ!話してる場合じゃない!逃げよう!この糸がローズと繋がってるんだね?」

「うん」

ノエル君凄い。私は何も説明してないのに、ちゃんと分かってくれてる。

「みんな急ごう!走れ!!」

近づいてくるものをよく見ようとしてたシモン様の腕を掴んだノエル君と私は走り出した。


虹色の糸を辿ってローズちゃんの元へ走る私達。時を戻すみたいに糸は自然に糸巻きに巻き付いていく。

「さっきより近づいてるみたい」

「今は走って!」

振り返ろうとした私をノエル君が止めた。頑張って走ってるんだけど、そのうちに息が切れてきた。体力づくり頑張ってるんだけど、やっぱりまだまだだなぁ。それに外出用とはいえドレスは重いし、足にまとわりついて走りづらい。だんだん私のペースが落ちていってしまう。


ついに追いつかれてしまった。


それは大きな蛇の形をしていた。素早い動きで前に回り込まれた。


「黒い蛇」

「長い……闇」

『タベラレチャウ』

精霊は怯えているのか震えるように瞬いてる。

「魔術で攻撃しても大丈夫なのか……?」

ノエル君の顔に汗が浮かぶ。不安定な世界みたいだから強い魔術で攻撃したらどうなってしまうのか。でも中途半端に攻撃して、効かなかった時に逆上されたらまずいよね。


「僕に任せてくれ」

シモン様が魔術を発動させた。シモン様の魔術は氷の魔術だ。大きく口を開けた黒蛇が一瞬凍り付いた。けどすぐにひびが入り氷が崩れ落ちた。

「そんな……」

シモン様が絶望的な顔になった。


『イッショ!イッショダ!』

精霊が嬉しそうにシモン様の周りを飛び回り始めた。

「どうしたの?」

小さな精霊に話しかけると、私の手に下りてきた精霊はなんだかひんやりとしてる。

「これって氷?」

『シモン チカラカス』

精霊は再び飛び上がり、シモン様の頭に舞い降りた。


そうか、この精霊()はもしかすると……。

「シモン様!もう一度魔術、いえ、魔法を!!」

「え?」

シモン様は戸惑ってたけど、黒蛇の精霊に再び氷の魔術を放つ。頭の上の精霊が青白い小鳥の姿に変化して一声鳴いた。

「凄い……!力がさっきと段違いだ!」

ノエル君の感嘆の声が聞こえた。


冷たく収束する力。カキンッと音がして、大きな闇の蛇が凍り付いた。今度は氷が割れる様子は無かった。

「…………これって、もしかして精霊魔法?!」

シモン様は頭の上の小鳥の精霊を見上げた。精霊はシモン様を覗き込んでる。なんだか二人が可愛い。

「今のうちに急ごう!」

「そうだね、ノエル君」


私達は凍った蛇を残し、糸を辿ってやっとローズちゃんの元へ戻れたのだった。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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