精霊の道④
来ていただいてありがとうございます!
いろんなノエル君を思い出す。初めて会った時は滅茶苦茶不機嫌そうだった。話も聞いてくれなくて。ノエル君に無理やりついて行って、ノエル君のお部屋の長椅子で眠ったっけ。あの時はまだ私も混乱しててノエル君の気持ちなんて考える余裕無かった。
ノエル君は私を不審に思ってても優しくしてくれた。朝起きた時、一緒のベッドで寝てた時はすっごく驚いたけど。
「ルミリエ嬢?どうしたの?顔が赤いけど、体調が悪いのかい?」
シモン様が心配そうに私を覗き込む。
「い、いえ。大丈夫です。体調は悪くないです」
「そう?でも、もし何かあるなら言ってほしい」
「はい。ありがとうございます。シモン様」
そうだった。私の病弱設定はまだ生きてるんだから、心配をかけないようにしなくちゃだよね。
「こっちにノエルがいるの?」
「……はい。何となくそう感じます」
不安そうなシモン様に、追い打ちをかけるような返事しかできない。でもあの時の感覚が蘇ってくる。この方向でいい。
「あれ?光が!」
私達の横に一緒に進む小さな光が現れた。シモン様が驚いてちょっと大きな声を上げて慌てて口を塞いだ。
「精霊?ついて来たの?」
『テツダウ』
どうやらノエル君を押した精霊みたい。ノエル君の瞳と同じスカイブルーの光の精霊だ。私が持っている糸巻きの先にちょこんと止まった。
「手伝うって何ができるんだよ……」
シモン様が呟く。この精霊は反省して責任を感じてくれてるのかな?
「よろしくね」
私は小さな精霊に笑いかけた。精霊は嬉しそうに瞬いた。
真っ暗な精霊の道を歩いていると、時折遠くに小さな光達が見える。
『アソコニ ナカマ イル』
それから薄いカーテンが掛かった大きなスクリーン(?)を見ることがあった。そこには見たことがあるような風景や何があるのか良く分からないような風景が映っていたりした。
『アレハ ホカノ セカイ ハイッチャ ダメ』
「そっか。あれがローズちゃんが言ってた別の世界なんだね」
「間違ってもあちらに行かないようにしないと……」
言いつつもシモン様は興味深げスクリーンを見ている。シモン様、ちょっと危ないかも……。飛び込んだりはしないよね?
「教えてくれてありがとうね」
お礼を言うと精霊はまた嬉しそうに光を瞬かせた。
「さあ、急ごう」
私達は歩き続けた。
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ノエルは暗闇の中、ひとり立ちすくんでいた。嫉妬した精霊に突き飛ばされて「落ちた」感覚の後、気がついたらこの場所にいた。
(ルミリエは精霊にも人気があるんだな……)
危機的な状況の中、一番に考えたのはそんなことだった。嬉しいやら誇らしいやら、腹が立つやら複雑な感情だった。最近のルミリエは学園の男子生徒達から見られることが増えていた。特に分かりやすいのがシモンなのだが、ルミリエもそして恐らくシモン自身も自覚がないようだった。
実はベルナール王子もルミリエに興味を持っていることをノエルは知っていた。主にルミリエの力の部分にだった。王家に強い力を持つルミリエを取り込みたいと考えていると踏んでいた。しかし最近になってベルナール王子はリンジーに求婚しリンジーもそれを受け入ている。ようやく一安心だがそれでもまだ油断はできないと考えていた。ルミリエの健康状態が改善されていることを隠すのはベルナールからの視線を遮る意図もあったのだ。
(ルミリエがローズと一緒にいるのなら、とりあえずは大丈夫だろう。恐らくローズが何らかの対処法を知っているはずだ。ならば迷子の僕はここから動かないことが最良、かな)
実際にはローズは明確な対処法は持っておらず、ルミリエはノエルを探すために動いてしまっているのだが、ノエルがそれを知る由もない。ノエルは腕を組み、状況確認のため辺りを見回した。同じような暗闇ばかりかと思われたが、薄いカーテンのようなものに映し出されている風景があることに気が付いた。
(随分と高い建物が乱立している……。そして人の数が凄い。服装も随分と自分達とは違っている……。精霊の世界ではなさそうだな……)
ノエルはその世界を静かに観察し続けた。このままルミリエと会えなくなるかもしれないという不安を押し殺すために。
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最初の場所でローズは虹色の糸を握りしめていた。
(あまりにも久しぶりで私も危機感が薄かったわ)
はぐれ精霊として人の世界で百年以上も過ごしてきたローズはすっかり精霊の道や精霊の世界の事が頭から抜けていた。
(あれ?そういえばここってアレがいるんだったわ)
ローズはルミリエに伝え忘れていたことを思い出した。普通に精霊の道を歩いていれば遭遇率は殆どゼロなのだが、極稀に出会ってしまうこともある。そうしたら逃げるしかない悪い精霊がいるのだ。
(でも、ルミリエってそういうの惹きつけてしまうかも……。しまったわ……。どうかルミリエが見つかったりしませんように……)
ローズは手に持った虹色の糸に祈るように願いを込めた。
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