精霊の道➁
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「色々な音がする……」
シャリンッとかリン、チリーンとか微かなガラスや金属が擦れ合うような音。
「風鈴とか鈴とか…………あとは、そう水琴窟とか……?綺麗な音」
「精霊達の声よ。人の言葉をまだ知らない精霊達の声」
ローズちゃんが私の肩に座って説明してくれる。
「凄いっ凄いよ!!」
「うるさいわよっ!シモン!!約束を忘れたの?」
明らかにローズちゃんの声の方が大きかったけど、それには何も言わずシモン様はご自分の口を両手で塞いだ。
「ごめん。ローズ」
小声で謝るシモン様。
「ふう、ちゃんと約束を覚えているの?あなた達」
「大丈夫。精霊の道に入ったら、大きな声を出さないこと」
私が人差し指を立てて小さな声で言った。
「それから、精霊にこちらからちょっかいをかけないこと」
ノエル君が私と繋いでない方の手の指を二本立ててやっぱりささやくように言った。
「絶対にローズから離れない。それからむやみに動かない。ここは精霊界だけじゃなくて他にも様々な世界とつながってる。はぐれたら二度と帰ってこれないかもしれない、だったね」
シモン様が後を続けた。そう、精霊の道はちゃんとルールを守らないと危ない場所だった。
精霊の道。新月の晩に開くという精霊の世界への道。私とノエル君とシモン様はピンク色の鉱石の精霊のローズちゃんに道を開いてもらって今ここにいる。場所はサフィーリエ公爵家の庭園。
最初はただ真っ暗なだけの空間だった。不思議と私達の姿はお互いに見えているみたい。一応シモン様がランタンを準備してくれていたけど必要なかった。
「命が光っているのよ」
ロースちゃんがそう言っていた。つまりここでは私達も発光してるの?不思議。
しばらくその場に立っていると微かな音が聞こえてきて少しずつ周りに音が溢れてきた。
「光が……」
上の方を見ていたノエル君が呟いた。
「あ、本当だ」
蛍みたいな小さな光が飛び交い始めた。蛍と違うのはうっすらと色がついていること。色とりどり。
「足の下にも」
シモン様が下を見て驚いてる。
「あれは全部精霊なの?ローズっ」
シモン様が何かを我慢するみたいに手をワキワキさせて質問してる。
「そうよ。……興味を持たれたみたいね」
ローズちゃんがちょっと困ったような顔になる。小さな光達が近づいて来るのに合わせて私の肩から飛び上がった。
「すごい!あれが全て精霊なのか!」
シモン様、小声でも興奮を隠しきれてない。
「あれ?結構大きな光も出てきた?」
「出てきたというより、遠かったから小さく見えてただけみたいだね」
ノエル君の手に力がこもった。
「ノエル君?」
「離れないでね?」
「うん。大丈夫」
心配そうなノエル君。私はノエル君の手をぎゅっと握り返した。反対にとても興奮してるシモン様。この時の私は少しシモン様よりの気持ちだったと思う。星空の中、宇宙にいるみたいでワクワクしていた。
たくさんの光が私達の周りを乱舞している。
「本当に綺麗……」
「確かに……これは凄いね」
ノエル君も光の乱舞に見惚れてるみたい。あれ?集まってくる……?何故か私の周りに。髪や頬や指先に光達が触れてくる。
「これは……」
ノエル君が困惑した顔をしてる。
「ルミリエが気になるみたい。好かれちゃったみたいね」
ローズは仕方ないわねと言った感じで腰に手を当てた。
「どうして私が?」
戸惑ってローズちゃんに聞いてみた。そうしてる間にも小精霊はどんどん集まって来て、私の髪やドレスを引っ張ったりしてくる。
「うーん。上手く言えないけど、ルミリエは珍しくて良い匂いがするのよね」
「匂い……?」
なにそれ?珍しいってことは私が転生者だからかな?
『オイデヨ』
そんな声が聞こえて体が引かれた。
「あ、こら!やめなさい!」
ちょっと大きめの光が私の手を引っ張って行こうとした。ローズちゃんに叱られてその精霊は動きを止めた。
「何だか雲行きが怪しくなってきたな……。ローズ、そろそろ戻ろう」
ノエル君はそう言って私の肩を抱いた。
「そうね。その方がいいと思うわ」
ローズちゃんも周囲を見回して厳しい顔をした。
「え?もう?」
シモン様だけが残念そうなお顔をしたけど、ローズちゃんに睨まれて黙ってしまった。
『ヒトリジメ、ズルイ』
また声が聞こえる。
ノエル君が声を上げた。
「痛っ」
肩に置かれた手が離れた拍子に私は突き飛ばされた。
「きゃあっ!」
転ばないように手を前に突き出したけど、何もない空間に手が腕が肩が飲み込まれていく。
「ルミリエ!!」
ノエル君が反対の手を掴んで引っ張ってくれて何とか踏みとどまったけど、今度はノエル君がバランスを崩してしまった。
「ノエル君っ!!」
倒れこんだノエル君にタックルするみたいに精霊がぶつかった。
『オマエ、ジャマ』
そのまま後ろに倒れこむようにノエル君の体は背後の空間へ消えていった。
「ノエル君っ!!」
嘘……うそ!
「嫌っ!!ノエル君!」
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