精霊の道①
来ていただいてありがとうございます!
「ルミリエ嬢!ノエル!ローズ!見てくれ!この国にも精霊の道があるみたいなんだ!」
「精霊の道?」
「精霊の道ですか?」
「へえ、精霊の道かぁ」
ある朝メイリリー学園に登園すると、シモン様が瞳をキラキラさせて何やら古めかしい本を掲げて私達の前に現れた。
「とりあえず、昼食の時に話を聞くよ。また後でね」
ノエル君が周囲の目を気にしながらシモン様を教室へ連れて行った。
「分かったよ、じゃあルミリエ嬢、ローズもまた後でね!」
「朝からシモンは元気ねぇ」
呆れたように私の肩の上で頬杖をつくローズちゃん。
「ローズちゃんは精霊の道って知ってるの?」
「まあね。精霊だし。文字通り精霊の世界への道よ。ちょっと厄介なものだけど」
「そうなんだ」
小声で話していると教室に先生が入って来たので、その話はそこでお終いになった。
今日のランチはノエル君とシモン様と私とローズちゃんの四人だけ。いつもならここにリンジー様が加わるんだけど、今日はいない。というか、今日からはあまり一緒に食事ができないかもしれないんだ。なんとベルナール殿下とリンジー様の婚約が調うことになりそうなんだって!!リンジー様に教えてもらった時は凄く驚いちゃった。リンジー様は将来の王妃様になるのかもしれないんだ!一応まだこの事は内緒なんだって。これからはベルナール殿下と一緒にいる事が多くなるからって仰ってた。ちょっと寂しいけど、とてもおめでたいことだよね!
食堂で注文したのはローズちゃんのリクエストで海鮮のパスタだ。クルクルまいて食べさせてあげた。満足そうなローズちゃん。今更だけど、精霊も食べ物が美味しいんだね。あ、このパスタ美味しい。幸せ。
「ルミリエ、それ美味しいの?」
「ええ、ノエル様」
「そっか」
ノエル君は基本好き嫌いが無くてなんでも食べられるんだ。でも本当はお魚が少し苦手なんだよね。多分誰も知らないと思うけど、食べてるとき眉間にちょっとだけしわが寄るの。でも今日はじっと見てるから、思い切って聞いてみた。
「あの、少し食べてみますか?」
「うん」
なるべく小さめの魚をのせて巻いたパスタをノエル君の口元に持っていった。
「はい、どうぞ」
「!」
「!」
あれ?ノエル君もシモン様も驚いてる?もしかして、かなりはしたなかった?!ローズちゃんには普通にしてたからつい……。
「ご、ごめんなさいっ。ダメでしたよね?」
慌ててフォークを引っ込めようとした手をノエル君が掴んで、パスタを食べた。
「あ」
「うん。ほんとに美味しい。こうやって食べさせてもらうともっとね」
「……良かった、です」
今更ながら恥ずかしくなって、下を向いてしまう。よく考えたらこれってあれだよね?「あーん」っていう……。私ってばシモン様の前で……。
「話、始めてもいいかな?」
シモン様がコホンと咳払いをする。さすがにちょっと不機嫌そう……。申し訳ない。
「どうぞ」
知らん顔で口を拭うノエル君。
「白の王国でも精霊界へ続く道が開かれる。一番寒い時期の新月の晩に。この本にはそう書いてあるんだよ!」
シモン様はランチそっちのけで本を見てる。今朝見せてくれた古い本だ。
「それがなんと明日の夜なんだ!開くには精霊の力が必要なんだ。頼むよ!ローズ!!」
熱っぽい目でローズちゃんに頼み込むシモン様。
「行ってどうするの?精霊界で暮らすの?」
ローズちゃんは冷静に尋ねる。
「そうじゃないけど見てみたいんだよ!それにローズも帰りたくない?」
「別に精霊界へ帰りたいとは思ってないけど。私、はぐれ精霊だし」
「はぐれ精霊って何?ローズちゃん」
「大体の精霊はどこかの精霊王の眷属になって一緒にいるのよねぇ。私はそういうのメンド―だから一人でいたのよ」
「精霊王?眷属?なんかすごい!!」
魔法だけでもすごいのに、精霊とか精霊王とか眷属とか!!
「なんでそんなに嬉しそうなの?ルミリエは……」
呆れるローズちゃん。
「今までになく目がキラキラしてるね、ルミリエ……」
ちょっと不満そうなノエル君。
「ふう、まあいいわ。綺麗な名前ももらったし、美味しいものも食べさせてもらってるし、ルミリエも興味あるみたいだし。開いてあげるわ。精霊の道」
ローズちゃんは腕を組んで真面目な顔をした。
「本当か?!ありがとう!」
シモン様はローズちゃんに抱き着かんばかりの勢いだった。
「ちょっと!喜ぶのは早いわよ?精霊の道は危険な道なのよ!?」
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