精霊と一緒
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「もふもふ毛玉……?」
「え?ローズちゃん?いきなりどうしたの?」
「ルミリエは精霊だったの?」
「ええっと、たぶんずっと人間だったと思うけど」
ローズって名付けた精霊は手のひらの上に乗って、私の顔をじっと見つめてくる。モフモフ毛玉って言うとノエル君と一緒に魔物と戦った時にそんな感じのうさぎの姿になったけど、その時のことかな?私は開いていた教科書を閉じた。
ローズと名付けた精霊は今ネージュ伯爵家の王都の屋敷にいる。家族と食卓を囲んでる時でもあちこちを飛び回ってるんだけど私以外の人には見えてないみたい。
「精霊が見える見えないには、相性があるのよ。精霊が見える人間はそのほとんどが精霊魔法を使うことが出来るようよ」
ローズちゃんが教えてくれた。つまり霊感みたいなものかな?私は幽霊とか見えなかったけど、前世の妹は良く見えるって言ってたっけ。
「雪、たくさん降るのね。前の前にいた所と同じだわ」
机の前の窓ガラスにくっついて外を見てるローズちゃん。私も窓の外を眺めた。
「前の前?ローズちゃんはあっちこっち旅をしてるの?」
「そんなにあっちこっちじゃないわ。この石は元々はもっと大きな塊だったの。その時の事。私がちょっと眠ってる間に切り出されて目が覚めたら違う所にいたのよね。キカンっていう所」
私は机の上、ハンカチを敷いた上にのってるピンク色の透き通った石を持ち上げた。
「もともと大きな石……切り出すってことは鉱山?山かな?やっぱりローズちゃんはこの鉱石の精霊さんなんだね」
「あら、良く知ってるわね。それにしてもなんで私『ローズ』なの?」
「嫌だったかな?」
「ううん。そうじゃないけどどういう意味なのかなって」
「元々は私が知ってる綺麗なお花の名前なんだよ。それとローズクォーツっていう鉱石の名前からも貰ったの」
「ふうん。聞いたこと無いけど。お花か。見てみたいわね」
「あ、じゃあ見せてあげるね」
「え?ここにあるの?」
「ううん。魔法で」
私は手のひらの上にピンクのバラを映し出した。
「まあ!これは……!」
「幻影の魔法なの。私の記憶の中のお花を映し出してみたの。ローズちゃんはこの花みたいだと思ったんだ」
「綺麗ね……これ私に似てるの?そう」
ローズちゃんは少し嬉しそうに見えた。
「あと、ローズクォーツは……」
「あ、本当だ!似てるわ!私の方が少し透き通ってるけど」
続いて映し出した鉱石を見て、ローズちゃんは私がつけた名前に納得してくれたみたいだった。
私は机の上に飾ってあった瓶入りの小さな空色の飴を小皿に乗せた。
「『きかん』は良く分からないかな。ノエル君なら知ってるかな?」
ローズちゃんはその飴に手をかざした。小さな飴が少しずつ消えていった。
「うーん、甘いわね。ルミリエへの甘い気持ち。ノエルって昨日一緒にいた男よね?白銀の髪、アイスブルーの目の。あの子ってルミリエの恋人?」
「えっ?こ、恋人?」
改めて聞かれると何だか恥ずかしいけど、婚約してるってことはそういう事だよね?
「う、うん。そうかも。婚約……結婚の約束をしてるんだ」
「フーン。恋人の自覚もさせずに婚約に持ってくなんて、ルミリエは大変ね」
「え?どうして?」
「昨日のあの子、物凄い目で私を睨んでたもの。邪魔するなってね。あれはかなりの嫉妬深さと独占欲の強さと見たわ!」
「そ、そんなことは無いと思うけど。そんなに怖い人じゃないよ。ノエル君はとても優しくていい人だよ」
「はあぁ。分かってないわねぇ。ルミリエは子ども……っていうかある意味純粋培養なのね。心配だわぁ」
何だか恋愛相談を物凄く年上の人にしてもらってるみたい。ローズちゃんはこんなに小さくて愛らしい姿をしてるのになんだか不思議な感じ。
「ルミリエ嬢!あれから色々調べたんだ!この後で聞いてもらえるかな?」
冬の試験が終わったある日の午後、シモン様がわざわざ私の教室まで来てくれた。試験は何とか頑張って今まで以上の手応えを感じてた。ノエル君は心配してくれたけどローズちゃんは試験勉強の邪魔をすることなく私の傍で本を読んだり、時々ふらっとどこかへ行って帰って来てたりしてた。最初は心配したんだけど、本体っていうか宿ってる鉱石があるからか一日離れることは無かった。
「分かりました。シモン様」
そう答えると肩と背中に温かい感触。
「そういう事はまず僕に言ってよね。シモン」
「ノエル君」
見上げるとノエル君が立ってた。周囲からすこしざわめくような女子生徒の声が上がる。
「ノエル。勿論ノエルも呼びに行こうと思ってたよ」
「私も除け者にされたくないわ!お兄様」
リンジー様もやって来た。試験期間中はお預けだった放課後のお茶会の復活で私はとても嬉しかった。
「何、何?何が始まるの?」
空いてる方の肩に乗ったローズちゃんが興奮したように聞いて来た。
「ローズちゃん、どこへ行ってたの?」
「学園の中の探検よ!前にいた所に似てて楽しかったわ。こっちの方が少し広いかしら?」
「そうなんだ。良かったね」
「ローズ、ルミリエの勉強の邪魔をしなかっただろうね」
ノエル君が少し怒ってるみたい。私は慌ててノエル君の手を両手で握って答えた。
「ローズちゃんはとてもいい子だよ。大丈夫だから。心配してくれてありがとうノエル君」
「…………ルミリエがそう言うならいいけど」
私はホッとしてノエル君の手を離した。ノエル君がちょっと不満そうな顔してる?どうしたんだろう?
「これは、色々と話してもらうことが多そうね」
リンジー様の目がきらりと光った。
「そうですね。リンジー様にはまだローズちゃんの事お話して無かったですものね。試験勉強でお忙しいだろうし、ローズちゃんの姿はリンジー様には見えてないみたいだったから、後でゆっくりお話ししようと思ってたんです。遅くなってしまってすみません」
「……それもなんだけど、まあ、いいわ」
リンジー様が軽くため息をついた。
「?」
あれ?なんか違ったかな?
「とにかく、僕の話を聞いてもらえるかな?」
シモン様が焦れたようにしてる。少しお顔が辛そうなのはどうしてなんだろう?
私達はシモン様のお話を聞くために学園のカフェテリアに移動した。道すがら、肩の上のローズちゃんがぽそりと呟いた。
「ルミリエって……天然よねぇ」
「え?天然?」
「それに、鈍いわ」
え?あれ?それ前世で妹にも言われたことある気がする……。ローズちゃんにどういう意味か聞こうと思った。けど口を開く前にカフェテリアについてしまったので、結局聞けずじまいになってしまった。
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