精霊の話
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「ひょっとするとルミリエは精霊を見たのかもしれないね」
「精霊?この世界には精霊もいるの?ノエル君」
パチリと暖炉の火がはぜる。私は雪灯祭で何度か見た光の球のことをノエル君に話していた。
「うん。見える人は少ないけれどね。ずっとずっと東の方に精霊が棲む広大な森の国があるんだよ」
「え、行ってみたいな……」
窓の外ではまた雪が激しく降ってきていた。
「でも、今までは精霊なんて見たことなかったのに」
「もともとこの国にはいないと言われてる。ただ、雪灯祭は有名なお祭りだから、外国からも見物客がたくさん来るんだ。その中に精霊に好かれてる人がいたんだろうね」
「人についてくるの?あ、そういえばぼわーっと光ってる人もいたと思う」
「それはきっと精霊と契約してる精霊魔法使いだね。すごいな、ルミリエは」
「精霊の森……。ワクワクする響き!いつか行ってみたい。ノエル君と一緒に」
「そうだね。少し遠いけど、行ってみようか」
「うん。嬉しい」
今日は学園の休みの日。二人だけでサフィーリエ公爵家の居間にいる。もうすぐ冬の試験があるので一緒に試験勉強をしてる。んだけど、何故かとっても距離が近い。勉強してるのに肩を抱かれてる。これってノエル君は勉強しづらいんじゃないかな?
「あの、ノエル君、勉強がしづらくない?」
「ううん、全く。それに今はルミリエの勉強を見てるから」
「そっか。ノエル君は優秀だもんね。必死に勉強しなくても大丈夫なんだ!やっぱりノエル君は凄いね!」
「…………そんなことは無いよ。僕にもできないことはたくさんあるから」
学園の勉強に、サフィーリエ公爵家のお手伝い、孤児院のことや、前は魔物との闘い。私に関するゴタゴタ。色々なことをこなしていて、私にはとても真似できないのに、ノエル君はこんなに謙虚で……。
「……ノエル君はいっぱい頑張ってるんだね。やっぱり私はノエル君は凄いと思う。私、ノエル君と一緒いられて嬉しい。ノエル君の婚約者にしてもらえて良かった。お手伝いできるように私も勉強、頑張るね」
至近距離にいるのをいいことにノエル君の肩に頭を預けてみた。甘えすぎかなって思ったけど、ノエル君の手の力が強まった。
「…………だから、あまり煽らないで……。ルミリエからのパワーチャージが強烈すぎて最近力が余って困るよ……」
見上げるとノエル君のアイスブルーの瞳が潤んでる。綺麗な瞳……。肌も白いしノエル君はやっぱり綺麗だなぁ。ぼんやり見つめていると、ノエル君の顔が切なそうになって、あ、近づいてくる。キスは嫌じゃない。嬉しい、けど、最近はとってもその、長くなるんだよね。一度そういう雰囲気になると……。あと、その、色々と激しいんだ……。力が抜けちゃうの。煽ってるつもりは全然ないんだけど。それに本当に嫌じゃないから困る……。
コンコンコンッ
唇が触れ合いそうになる瞬間、ドアがノックされた。
「何?」
ノエル君と私は慌てて距離を取った。ノエル君の声は少し不機嫌そう。私は熱くなった頬をおさえてた。
「失礼いたします、ノエル様。マルクール侯爵家から、使いが来ております」
執事さんがそう言ってトレーに乗せた手紙をノエル君に渡してくれた。私は広げた本を手に取っていかにも真面目に勉強してましたよってしてた。
「……またか」
ノエル君は一読して空いた片手で額を押さえた。
「仕方ないな、歓迎すると伝えてくれ」
「かしこまりました」
ノエル君の言葉に執事さんは深く礼をして、部屋から出て行った。
「はぁ…………」
ノエル君は深くため息をついた。
「どうかしたの?ノエル君」
「午後からシモンが来るよ」
「そうなんですか。最近は良くいらっしゃいますね」
そうなのだ。メイリリー学園は五日間の授業の後、二日間のお休みがある。前世と一緒。お休みの時は私はサフィーリエ公爵家にいることが多い。最近はシモン様がよくお屋敷にいらっしゃるようになった。二日のお休みのうちのどちらか一日は。リンジー様がご一緒の事もあるけど、大抵はお一人で。
シモン様の目的は私だ。そう言っちゃうと変に聞こえてしまう。だけど本当に私の話を聞きに来るんだ。魔法の話を。シモン様は魔術に関する研究を熱心にしていて、私の変わった魔法に興味津々みたいだ。だけど、学園では婚約者のいる私に気軽に話を聞けないし、ましてやネージュ伯爵家に来るわけにもいかない。そんな訳でサフィーリエ公爵家に私がいる時にやって来るのだった。
「まあ、いいか。シモンに聞きたいこともあったし、ちょうどいいな」
ノエル君とシモン様は幼馴染でとても仲が良い。小さい頃はよくお互いのお屋敷でのお母様達のお茶会について行って遊んでいたそうだ。リンジー様も時々一緒に。だから私が二人の間に割り込んだような形になってしまって、申し訳ない気持ちもあった。だから、シモン様がいらっしゃるのは全然構わないんだけど、ちょっとだけ困ることもあるんだよね。
「今日はどんな魔術道具を持ってくるんだろう?」
そう、色々な魔術道具を持ってきて実験されるのだ。
「ごめん、あまり無茶なことはさせないから」
ノエル君も困ったような顔をしてる。
「この前は魔力量測定装置、その前は魔法石に魔力を通す実験(特に何も起こらなかった)、何かが封印された開かない魔法書とかいろいろあったね」
魔法書はちょっと期待したけど結局私の魔力とは相性が悪かったみたい。開かなかった。なにか呪文とかあるんじゃないかな?魔法少女の導き本もそうだったし。
「ううん、けっこう面白いから大丈夫だよ。シモン様のお話も楽しいし」
「……そう」
「でも、ノエル君と二人だけの時間が減っちゃうのはちょっと寂しいかも……」
「……また、そういう事を……」
ノエル君はそう言うと近づいて軽く一度だけ口付けた。
「今日はこれで我慢しとくよ」
「うん。私も我慢するね」
背伸びして自分からも口付けを返した。
「…………っ」
あ、ノエル君顔真っ赤。私も負けてないと思うけど。
「だから……ああ!本当にもう……!」
そう言ってノエル君は机に突っ伏してしまった。
午後になってシモン様の来訪が告げられた。
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