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雪灯祭⑤ 翌朝

来ていただいてありがとうございます!



「ルミリエっ!大丈夫?」


ノエル君が慌てて走って来て仰向けに倒れた私のそばに膝をついた。


「あ、大丈夫ですよ!一度やってみたかったんです!これ」


私はたくさん積もった雪の上で起き上がった。お出かけ用のコートとドレスが雪まみれになっちゃったけど後悔はしてない。たぶんもうしないけど。ノエル君が私の手を引っ張って起き上がらせてくれた。まっさらな雪の野原の上に私の形の跡が残った。これだけたくさん積もると後が大変なんだけど今は考えないことにする。まだ誰も歩いてない雪の野原をズボッズボッと歩き続けた。スノーブーツとかあるといいな。今履いてるブーツも結構丈夫なんだけど、もう水がしみてきちゃってる。冷たい。



「まったく……。君は小さな子どもみたいだ」


私の頭についた雪を払いながら、苦笑いをするノエル君。やっと外にでられるようになって、前世からの夢を叶えて私は嬉しかった。昨日まで降り続いた雪がたくさん積もってたので、早朝に野原へ連れて来てもらった。





昨夜は舞踏会の後サフィーリエ公爵家に二人で戻って泊めてもらった。平気だと思ってたんだけど、やっぱり疲れてたみたいで帰りの馬車の中でうとうとしちゃってた。お風呂に入らせてもらって温かいお茶を飲んだら、すぐに眠くなってしまった。ノエル君とお話したかったんだけどダメだった。体力つけたいな。ぐっすり眠ったおかげで疲れはとれたんだけど、朝ものすごく早く目が覚めて眠れなくなっちゃったんだ。サフィーリエ公爵家の敷地は広くて、森や野原のような場所もある。どうしても雪遊びがしてみたかった私は一人で散歩に行こうと思い立った。でも、そっとドアを開けたら廊下にノエル君が立ってた。


「ノエル君?どうして……」


「ん……何となく……ね。外に行くの?」


コートに帽子にマフラーに手袋にブーツといった重装備の私を見て苦笑いするノエル君。


「はい。ちょっとだけ散歩に」


「僕も行くよ。待ってて。上着取ってくる」


そうしてノエル君と私は早朝の散歩に出かけたのだった。




今朝は快晴。この白の王国では冬の快晴は珍しいんだ。朝日に雪がキラキラ光ってとっても幻想的。蛍よりも大きな光の玉がいくつかふわふわと飛び交ってる。あの雪のランタンの灯りが抜け出してきたみたい。綺麗すぎて見惚れてしまう……。


「雪って綺麗……。ノエル君みたい」


「僕?」


「私、雪って大好きなんだ。白って大好きな色なの。私の前世の名前も真白だし」


「そうなんだ」


ノエル君が優しく笑ってくれる。嬉しそう?私はあることに気が付いた。


「ごめんなさいっ。私っ言葉遣いが……」


そう、つい敬語を忘れてしまってた。それに前世のことも言わないようしようって決めたのに。ノエル君は慌てて頭を下げようとした私の頬を両手で包んだ。


「いいんだ!そうやって話して欲しい。嬉しいよ。どんどん近づけてる気がする。そのままでいて」


「で、でも……」


「ずっと、遠い世界の人だと思ってた。そばにいられないって思ってたから。君があの時に会いに来てくれてなかったら、僕はずっと君の幻影を追い続けてるところだった。もっともっと本当の君を見たい」


「本当の私……」


私が戸惑っていると、私の腕を掴んで少し腰をかがめて私を見上げた。


「せめて二人きりの時だけは遠慮せずに話して欲しい。ルミリエの事もましろの事ももっともっと聞きたいんだ」


「真白のこと?」


「そう。全部知りたい。君のことを。だから、願いを叶えて欲しい」


「お願い?」


「そう、魔術大会、優勝したら願いを叶えてくれるって言ったよね?」


「そんなことなら、聞いてもらえたらいくらでも話しま、話すよ?お願いは別の事でもいいよ?それと、前のお願いの事……。ノエル君は私が健康になれるようにしてくれたんだよね?そんなので良かったの?もっと……」


「それ以外要らないから。ルミリエの事は僕の力じゃどうしようもなかった。だから、この願いが叶って本当に感謝してる」


「ノエル君……」


「ルミリエとしてこの世界に来てくれた。それだけでも僕にとっては奇跡だった」


「うん。私もまさかここへ転生できるとは思ってなかった。ノエル君と少しだけお話してお礼が言えたらいいなって思ってただけだったから。自分の敵討ちが出来てもう本当に「私」は消えてしまうと思ってた」


私は空を見上げた。なんとなくのイメージなんだけど命が終わった後は空へ溶けてくんじゃないかなって考えたことがある。


「今日の空はノエル君の目と同じだね。雪と空でノエル君色……」


「僕はここにいるよ」


ノエル君はおでこを合わせて私の目を見つめた。ノエル君が私を抱きしめてくれてるけど二人とも厚手のコートを着てるから少しだけ遠くてもどかしい。だから私もギュッと抱き締め返した。


「ルミリエ?」


「私ももっとノエル君に近づきたい」


私からもノエル君の頬に自分のほっぺを猫みたいにこすり付けた。


「私のままでノエル君のそばにいられて嬉しい……。私の事元気にしてくれてありがとう。私を婚約者にしてくれてありがとう。私ね、ノエル君のこと大好き!これからもずっと一緒にいさせてね」


「……まずいな……」


ええ?何かダメだった?


「本格的に我慢できなくなりそうだ……」


んん?我慢って何?


「大体、夕べからルミリエは煽るようなことばっかり言うから……」


煽るって?私なにか変なこと言っちゃってた?


「あと二年も我慢できないかもしれない。そうなったらごめん。許してね」


ノエル君は私の耳元でささやきながら笑って、なんと私の耳たぶを噛んだ!


「……っ」


痛くはないけど、くすぐったいような、もっと違うような感じが体を駆け抜けて、でも嫌じゃなくて、恥ずかしいのもあって言葉が出ない。


「ごめん。なるべく抑えるように努力はするよ」


ノエル君はそう言って今朝の青空のように笑った。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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