雪灯祭①
来ていただいてありがとうございます!
冬休み明けの試験は魔物騒ぎの影響で中止になってしまった。私はそれでもまだ勉強は続けてる。だって目標はあった方がいいと思うから。
「もうあの約束はいいのよ!ルミリエさんは試験の順位なんて関係なく凄い方だったのだもの。わたくしたちを助けてくれた恩人に失礼なことを言ってしまって本当に申し訳なかったわ。ねえ今度王宮にも遊びに来てくださらない?ぜひ貴女のお話を聞かせていただきたいわ」
「なにしれっと誘ってるんですか王女殿下。そんなこと僕が許しませんよ」
「ノエルったら、以前のようにアマーリエ姉様って呼んで欲しいわ……」
王女様がぷくっと頬を膨らます。可愛い……!普段はおしとやかで大人っぽい感じだけど、幼い感じのお洋服も似合いそう!
「一体いくつの頃のことだと思ってらっしゃるんですか?」
ノエル君が冷たく突き放す。でも王女様は諦めない。そんなやり取りが続く。このお二人は本当は仲が良いんだね。ちっちゃいノエル君、可愛かっただろうな。私も見たかった。
いつもの放課後のお茶会にベルナール殿下とアマーリエ王女殿下も時々加わるようになった。最初はあの特別室でって誘われたんだけど、ノエル君が許さなかった。ノエル君まだ怒ってるんだよね。それにしても……目立ってる、目立ってるよ、すっごく!王女様に王子様に公爵令息様に侯爵令息様、侯爵令嬢様だもの。前世庶民の私はなんかいたたまれない……。ここは学園のカフェテリアだし他にも生徒がたくさんいるんだよね。みんな見てる。当然だよね。高貴な方々ばっかり。私を除いて。
メイリリー学園の食堂とカフェテリアは生徒と職員なら無料で食べ放題だ。名前は違うんだけど前世で見たような料理があったりしてちょっと不思議。今日のおすすめケーキなんてガトーショコラなんだよね。美味しいし嬉しいんだけど、やっぱり不思議。
この白の王国の料理は隣国の影響を受けてるってノエル君が教えてくれたことがある。隣国、正確に言うとすぐ隣の大陸のとある地域。大きな湖があって魔術の研究が盛んな都市。ノエル君のお兄様のフランシス様(アマーリエ王女殿下の婚約者でもある)が留学なさっていた場所。いつか私も行ってみたいなって思ってる。体も大丈夫になったみたいだし、いつかは行けるかもしれないってワクワクしてる。
「それにしてもルミリエ嬢の力は興味深いな!先生も仰ってたね、非常に珍しい力だって!」
シモン様が目の中に星をキラキラさせてる。ちょっと興奮気味?ノエル君は香茶を飲みながらシモン様をちらっと見た。
「シモン、ルミリエの力のことは……」
「分かってるよ!体に負担をかけるから多用は出来ない。無理させちゃ駄目。なるべく他言無用だろ?」
「声が大きいよ」
ノエル君がため息をつく。
「う、ごめん」
「もう、お兄様ったら。魔術のことになると思慮が明後日の方に飛んでいってしまうわね」
王女様や私と一緒のケーキを注文したリンジー様は小さく切ったケーキを食べながら呆れたように言った。そういえばこのケーキ、できたらホイップクリームを添えて欲しいな、それはちょっと贅沢かな、なんて思いながら私もケーキを一口食べた。うん、美味しい。幸せ。
私の魔法はこの国での魔術とはちょっと違ってるみたいで、お城の研究所からも聞き取り調査が来たりで大変だった。あの魔物騒ぎの時、生徒を安全に逃がすために先生の何人かは近くにいたんだけど、その中に私を指導してくれてる魔術の先生がいたんだ。その先生にもしっかり見られちゃってて、シモン様と一緒に私に話を聞きに来た。
ノエル君とは事前に相談してて、私の病弱さを最大限利用してあまり頻繁に力を使えない設定にすることに決めていた。というかノエル君がそうするって決めた。そうじゃないと際限なく利用しようとする人達が出てくる恐れがあるって、ノエル君が凄く心配してくれてる。私の力は幻影の魔術から、思い描いたものを現実化させる魔法(時間制限あり)になった。つまりはけっこう何でもできるけど時間とか体力とか威力とか制約があるよって設定だ。
本当はどこまでできるのかは自分でも良く分からないから、その辺りはノエル君と一緒に検証していこうってことになってる。なんだかノエル君には迷惑ばかりかけちゃってる気がする……。自分でちゃんとできたらいいのにって思う。
「そういえば、例の魔物の壺はどうもあちらの大陸の技術を使って作られたものらしいよ。原理が良く分からないらしい。今度みんなにも見解を聞きたいって言われてるんだけど……」
ベルナール殿下はフルーツのタルトの上の果物を一つフォークで刺しながらこちらを見た。ベルナール殿下は甘いものがお好きらしい。ノエル君やシモン様はお茶だけのことが多いんだけど、ベルナール殿下は大体いつもお茶と一緒にケーキや焼き菓子を注文なさってる。
「ベルナール殿下……。そうやってなし崩しにルミリエを巻き込もうとするのは止めていただきたいのですが」
ノエル君の声が氷点下になった。ベルナール殿下は慌ててにっこりと微笑んだ。女の子達なら簡単にごまかされてしまうその笑顔はノエル君には効かなかった。
「い、いや、そういうつもりじゃなかったんだけど、ほ、ほらどうなったか聞きたいかなって思ってね」
「ルミリエは体が弱いんですよ?殿下はそんなルミリエを利用しようとなさるおつもりですか?」
「うーん、それでもねぇ、あの時魔物を倒せたのはルミリエ嬢がいたからだし、この先もあんなことがあると対処に困るというか……。情けないことにうちの王国は魔物の襲撃を受けた経験が有史以来ほぼゼロな訳で……」
ベルナール殿下が困ったようにフォークを置いて頬杖をついた。
「ならばなおさら、情報集めと王国の防衛を強化するために隣国である赤の王国や青の王国などへ視察に行くべきでしょう。こんなか弱くて繊細な少女に頼る前に」
ベルナール殿下の話に聞く耳持たないノエル君。大丈夫なのかな?ハラハラしちゃうよ。でもノエル君は私の為に王族の方に強く出てくれてるんだよね。私どうしたらいいんだろう?
「そ、そうだわ!ルミリエ、もうすぐ雪灯祭ね。楽しみねぇ」
リンジー様がポンと手を打って明るく私に話しかけてきた。
雪灯祭
雪の多いモーネ王国(白の王国)で一番寒さの厳しい季節に小さな雪のドームを作って火を灯し冬の神様を讃えるお祭り。お城では夜通しの舞踏会が開かれる。モーネ王国では新年のお祝いは家庭で静かに過ごす。反対にこの雪灯祭は寒さに耐えて冬に流行る病などを除け、無事に春を迎えるための祭りとしてとても賑やかに行われる。
「毎年色々なお店が出て楽しいわよね」
「ごめんなさい。私は毎年家の中から少し外を見るくらいだったので良く知らないんです」
いつも寒い時期は熱を出して寝込んでたから、外へ出るなんてもってのほかだったんだ。でもほんと言うと雪遊びしてみたかったんだ。外で遊んでる子達が羨ましかった。
「あ……そうだったのね……ごめんなさい……」
ああ!リンジー様を俯かせてしまった!せっかく話題を変えてくれたのに、場の雰囲気が更に暗くなってしまった!これは駄目だ。
「あ、でも昨年はサフィーリエ公爵家にお招きいただいたんです。お庭がライトアップされてとても綺麗でした!」
お屋敷の外へは出られなかったけど、雪のような真っ白な料理が出されたり粉雪ボールっていうお菓子や蜜を固めた飴菓子をいただいてとても楽しかった。
「そうなの?じゃあ今年は城下を一緒に見て回りましょうよ!」
「はい、嬉しいです!」
わあっ、お友達とお出かけだ!楽しみ!お店って何があるんだろう?綿あめとか?ってさすがに前世のとは違うよね。
「そういうことは僕にも言ってよね。心配だから僕も一緒に行くよ」
「ノエル様ってそういうの好きじゃなかったわよね?ちょっと過保護過ぎない?まあ、お祭りはみんなで行った方が楽しいですけどね」
リンジー様の言葉にうんうんと頷くシモン様。
「あ!わたくしも一緒に行きたいですわ」
はいっ、とアマーリエ王女殿下が手を挙げた。
「仕方ないなぁ。私も姉上の護衛として行きますよ」
アマーリエ王女殿下とベルナール殿下も参加が決まって今年の雪灯祭は今までで一番賑やかで楽しくなりそう!嬉しいな。
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