虹色の力
来ていただいてありがとうございます!
戻る途中ふと気をひかれて見た先にあったものはとんでもないものだった。
思わず二度見しちゃったよ?どうしよう、体に戻ってる時間なさそう!ノエル君が危ない!
雪と風。ホワイトリリー学園の入り口。エントランスを破壊して大きな双頭の黒い狼が暴れてる。えっと、前世の知識とはちょっと違うけど、フェンリルって呼ばれてる魔物じゃなかったかな?教科書に載ってた。何であんな魔物がホワイトリリー学園にいるのかな?
ってそんなこと考えてる場合じゃない!お城の兵士さん達が来て応戦してる。まだ生徒達が避難しきれてないみたい。学園の裏口からどんどんみんな逃げてく。慌てて転んじゃってる人がいる。え?ノエル君が魔物の前に立ってる?何で戦ってるの?逃げないの?ベルナール殿下やシモン様、リンジー様や、え?アマーリエ王女殿下まで戦ってる?!苦戦してる!そっか生徒の避難のために時間を稼いでるんだ。
フェンリルの弱点はなんだっけ?確か氷属性だから、炎に弱いんだっけ?うわ、今フィールドは吹雪だから威力上がってるんじゃない?まずい、まずいよ!うわ氷のブレス吹いた!
ん?何だか気になるあの手のひらサイズの壺。梅干しとか入ってそうな壺。花壇のわきに転がってる。紙の封印みたいなのが破れちゃってる。私はそれを拾い上げた。私って今、体無いんだけど触れる。不思議……。アレみたい。モンスターを入れとくアレ……。これ、怪しいんじゃないかな?あの魔物と何か関係ありそう。
咆哮が聞こえた!魔物がノエル君に向かって走ってく。何だかノエル君が狙われてるみたい。あれ?ノエル君の動きが鈍い。怪我してるの?このままじゃあの魔物に追いつかれちゃう!できるかな?できる気がする、今なら。胸元のフローティングロケットが眩しいくらいの虹色に光る。私はノエル君の周りに光の盾を展開させた。魔物の牙はノエル君に届かなかった。
「ノエル君っ!」
「っルミリエ?どうしてここに!それにその姿は……」
「説明は後で!うわっ、ノエル君ボロボロですね……お怪我はありませんか?」
「ルミリエ?!思い出したの?」
「はい。ちょっと色々ありまして。ご心配おかけしました」
抱き締められた。と思ったけど今は魂みたいな状態だからノエル君の腕は空振りになった。
「ああ、やっぱり無理か……」
ノエル君は凄く悔しそうに舌打ちした。え?舌打ちした?
「ノ、ノエル君あの、今はそれどころじゃないですよ?」
「じゃあ、続きは後でゆっくりとね」
「ええ!?」
光の盾の向こうでは黒い狼が盾に体当たりしてる。黒い毛皮に赤い口。怖い。普通の狼の何倍位あるの?体当たりの次は氷のブレス。うん。やっぱり私の魔術、ううん魔法は幻影だけじゃなくなってる。物理攻撃も魔法の攻撃も防いでる。あの夢の魔物を倒した時みたいに力が使える。真綾のおかげだね。それとノエル君の。
シモン様とベルナール殿下が駆け寄って来た。後ろにリンジー様とアマーリエ王女殿下も来てる。
「ルミリエ嬢?その姿は?」
ベルナール殿下が戸惑ったように声をかけてきた。
「え?なんか透けてるし、この雪の中そんな薄着じゃ風邪をひいてしまうわ!」
リンジー様がお母さんみたい。思わず笑っちゃった。
「大丈夫ですよ、リンジー様」
「!ルミリエっ私の事思い出したの?」
「はい。ご心配をおかけしました」
ガツッと大きな音がして光の盾にひびが入った。魔物の後ろではたくさんの兵士さん達や魔術師みたいな人達が攻撃をしてる。けど魔物の攻撃を警戒して近寄ってこれないみたい。
「全然効いてないみたい……。いったいどうしたらいいの……」
アマーリエ王女殿下が顔を真っ青にしてそれを見てる。
「何故かアイツは僕を追いかけてくるんだ」
ノエル君は私を庇うように前に出た。
「えっと、ノエル君の剣は光属性だから、相性は悪くないはずなので、炎の剣にしちゃいましょう。チェンジで!」
刀身に炎をまとわせた。みんな驚いた顔をしてるけど今は色々説明してる時間が無い。
「でも、幻影の魔術じゃ……」
シモン様が顔を曇らせる。
「うーん、たぶん今は大丈夫だと思いますよ。さっきも私の盾で攻撃を弾けていたので。ノエル君、恐らくあの夢の魔物よりは強くなさそうなので、ノエル君ならいける思うんです」
「うん、わかった。僕はルミリエを信じるよ」
ノエル君は青空のように笑った。後ろでアマーリエ王女殿下が「そんな、無責任なこと……」とかなんとか呟いてたけど、ノエル君がちらっと見たら黙っちゃった。
「はい!ありがとうございます!えっとじゃあいきますよ」
狼の魔物の周りに花びらを散らすイメージ。たくさんの炎の花びらで取り囲ませる。魔物の二つの頭がそれぞれの方向の花びらに気を取られて動きを止めた。
「わ、綺麗……」
リンジー様が呟く。ノエル君の周囲に光の盾を展開。私達を守る光の盾に少しだけ隙間を開けて……。上手くいった!
「今ですっ!ノエル君!」
ノエル君が魔物に切りかかる。一つの頭が霧散する。咆哮が轟く。
「いっけぇ!」
ベルナール様に渡しておいた丸い壺を投げつけてもらった。シュンっって音がして、魔物の姿が消えた。急いで走って行って光の糸でぐるぐる巻きにして封印完了!ふう、何とかなった!良かった!真綾には感謝してもしきれない。あの子がくれた力のおかげだね。私は手の中の虹色のロケットを見つめた。
「ルミリエ」
ノエル君が走り寄って来てくれた。
「お疲れ様です!流石、私のマジカルミルキーですね」
「ミルキーって言うな……」
ノエル君の目に涙が浮かんでる。私も少し泣いちゃった。
「じゃあ、私戻ります」
「うん。僕もすぐに屋敷に行くから」
結構長い間体から離れてた気がするけど数時間だったみたい。魂が体を離れた時間が長いと戻れなくなるってどこかで読んだ気がする。良かった、無事に戻れて。目が覚めた時、ベッドサイドでノエル君が私を見つめていた。
「おかえり、ルミリエ」
「はい。ただいま帰りました。ノエル君」
その後はちょっとだけ大変だった。色々説明したり、ノエル君に怒られたり、抱きしめられて中々離してもらえなかったり……。ただ、私の体の重さは消えていて、フローティングロケットの虹色の光はそこに灯ったまま温かく輝いていた。
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