冬休みの騒動
来ていただいてありがとうございます!
「わたぼうし……王都でもたくさん雪が積もるんだね。さすが白の王国」
幼い頃からずっとネージュ伯爵家の領地のお屋敷で過ごしていたけど、ノエル君と婚約した去年は王都にあるお屋敷で新しい年を迎えた。
「雪だるまつくりたいな~。ってそんな場合じゃなかった!」
学園が十日間の冬のお休みに入ったけど、今年も領地には帰らずに王都の屋敷で勉強をしている。両親はいつも通り領地に帰っていった。
「一年生の試験は後二回だけだから、それまでに何とか十位以内に……って無理じゃない?」
早くも投げ出しそうになるけど、そうもいかない。病気の合間に本だけはたくさん読んできたから歴史や地理なんかの暗記系の科目は何とかなると思う。だから前世の学力が役に立つ数学、物理の辺りを強化していく作戦でいこうと思ってる。
後は魔術の知識と技術なんだけど、知識は本をたくさん読んできたから、以下略。技術の方は、何か実績を残せるかって言ったら難しそう。っていうか何をしたら実績になるんだろう?悩んだけど思い付かないから、とりあえず保留。
先生は将来何がしたいか考えながら勉強するようにって仰ってた。将来。一年前までは夢見ることもできなかった。前世でもこれから考えようって思ってた矢先に時間が止まった。治癒の力があったら、そっちの道に進みたい。そう思ったこともある。でも無いものは仕方ない。できることをやるしかない。
「えーと、ベルナール殿下からもらった過去問題を解いてっと。シモン様が想定問題(リンジー様用のを貸してくれた)を作ってくれたから、これも解いて。うーん、数学とか物理とかもっと真面目にやっておけばよかったかな。あ、でも大体基本を押さえておけば解ける感じかな。うん。いけそう」
不思議なことに前世と今生の数学や物理の知識は似てる。その代わり科学の方が魔術と関連づいていて難しい。後は魔物の知識。この白の王国には魔物の出現はほとんど無くて、あまり必要じゃない知識なんだけど科目としてはきっちり残ってる。
これも読んでひたすら覚えるしかないけれど、弱点とか割と法則性があったりする。意外と前世のゲームの知識がちょっと役に立ってる。実際に役に立つ日は来ないと良いな。
それから外国語は二か国語を好きな国から選択。これは一年ごとに変えなくちゃいけなくて、簡単な単語の試験から始まって、学年終わりには会話の試験になる。
「やることがいっぱいで目が回りそう……」
「お嬢様、大丈夫ですか?少しご無理をしすぎでは?せっかくのお休みですのに」
王都のお屋敷の新人のメイドさんが心配してくれる。お茶を淹れて持ってきてくれたのでちょっと一休みすることにした。元々勉強は嫌いじゃないし、計画を立ててテスト勉強をするのはやってたから、苦ではないんだけど、王女様からのあの糾弾するような視線を思い出すと少し心が重くなってしまう。これまでもほかの女の子達にノエル君と釣り合って無いって散々言われてきたし、慣れたつもりだったけどやっぱり辛いかな。
「大丈夫。ありがとう。クレア」
クレアは王都のお屋敷で私の世話をしてくれているメイドさんだ。今年二十歳の女の人で人懐こい笑顔の優しい女の子。ちょっとおっちょこちょいだと言われているけれどとても優しいし、私と年齢が近いから友達とかお姉さんみたいな感覚で一緒にいると楽しい。
「あと、こちらが届いておりました」
銀の盆の上に乗せられていたのは小さな包みで、メッセージカードが添えられていた。
「ノエル様から?」
だよね?たぶん。でもノエル君の字だと思うんだけど、なんだか違和感があるような……。開けてみると綺麗な小瓶が入ってた。香水みたい。なんとなくノエル君っぽくないなってやっぱり違和感を感じた。だから開けるのは今度ノエル君に会えてからにしようと思ってテーブルに置いておいた。最近ノエル君忙しいんだ。ちょくちょくお城に行ってて。私も勉強を頑張らないとだから良いんだけど、少しだけ寂しいな。
「あら!それ今流行りの香水ですね」
クレアが目をキラキラさせて見てる。
「え?これって流行ってるの?」
「そうなんですよ!なんでも好きな人に想いが届く香水なんですって!他にも好きな人と一緒に飲むと両思いになれる薬とか!」
え?それって惚れ薬?そんなのが流行ってて大丈夫なのかな?
「そうなんだ」
なんかちょっと怪し気な香水みたい。そしてますます違和感あるなぁ。だって、い、一応ノエル君と私は婚約してるんだし、必要ないような気がするんだけどな。いいか、ノエル君に会えたら聞けばいいんだものね。私は勉強を再開した。
お昼ご飯の後、また勉強頑張ろうって自分の部屋に戻って教科書を開いた。ドサッって雪が落ちる音がした?
「……!」
「…………っ!!」
あれ?なんだか外が騒がしいみたい?窓の外?庭で何か?
「何でしょう?」
一緒について来てくれたクレアが窓の外を見た。叫ぶように声を上げる。綺麗な雪を踏み荒らして男の人達が追いかけっこしてる。
「まあ!お庭に男の方々がいっぱい!お城の兵士さん達だわ」
「え?あれはマウティさん?」
マウティさんがお城の兵士さん達に追いかけられてる!?あ、殴られて倒れた!
「きゃああっ!」
「大丈夫よ!クレア落ち着いて!」
クレアが悲鳴を上げてテーブルにぶつかった。私は逆に冷静になってしまってクレアを落ち着かせようって思った。その瞬間、パリンと高い音がする。
「あ」
今のはずみで小瓶が落ちてテーブルの足に当たっちゃったんだ。慌てて駆け寄ってつい破片を拾い集めてしまった。お嬢様はこういうのメイドさんに任せるんだろうけど、つい体が動いちゃった。ん?香水にしては香りがしないみたい?何だか頭がくらくらするような?あれ?また熱かな?おかしいな。そんな感じ無かったのに。お父様やお母様、ノエル君に心配かけちゃう…………。
床に手をついてしまった。破片が刺さって痛い。でも立てない。っていうか体が動かない。目も開けていられない。
「っお嬢様っ!ルミリエお嬢様!しっかりなさってください!今人を呼んできますわ!……誰かっ!お嬢様がっ」
クレアが呼んでるけど、返事が出来ない。
「ルミリエっ!!」
ノエル君?どうしてノエル君がここに?ノエル君が私の部屋に駆け込んできた。
「ルミリエ大丈夫か?何でこんなものがここに……!?…………はなれて……」
だんだん声が遠くなる。
………………あれ?ノエルクンって誰?
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