アマーリエ王女殿下のお茶会2
来ていただいてありがとうございます!
「どうなのかしら?教えてくださらない?」
突然の言葉にどう返せば良いか分からなかった。これ、どう説明したら良いんだろう?
「姉上!その言い方はあまりに失礼では?誰がどう見てもノエルの方がルミリエ嬢を溺愛してるのです。取り入るなどと……」
「お黙りなさい、ベルナール。ルミリエさんは病弱で殆ど領地のお屋敷から出ていないと伺ってるわ。どこでノエルと出会ったの?」
もふもふのうさぎのガワ被って一緒に魔物封じしてました。……なんて言えない、よね?言っても信じて貰えないよね?頭がおかしい人だよね?どうしよう。
「そもそも縁談があったのはフランシス様だったそうね」
王女殿下の背後に怪気炎が上がった気がする……。そういえば王女殿下って元々ノエル君のお兄様のフランシス様と両思いだったんだっけ。
「申し訳ありません。その事は私も後でノエル様に伺って初めて知りました」
「どうかしら?その病弱というのも、フランシス様に取り入るための嘘なのでは?」
「そのようなことは決してございません」
確かに、たぶんノエル君のおかげなんだけど今は体調が凄く良いんだよね。物心ついたころから熱を出してばっかりで本当に辛かったんだけどな……。でも病弱だったことは証明できないし、困った。
「待ってください。ルミリエはつい先だっても体調を崩してましたのよ?それにそんなことができる子じゃないですわ!」
リンジー様が庇ってくれて嬉しい。でも大丈夫なのかな。私のせいで王女殿下と侯爵家の関係が悪くなったらどうしよう。
「あの、アマーリエ王女殿下におかれましては、私にどうせよとお考えなのでしょうか?」
「婚約解消を申し出なさい。貴女の方から」
「姉上っ!それはあまりにも横暴です!ノエルが知れば二度と口をきいて貰えなくなりますよ!それどころか最悪この国を出て行ってしまうかもしれません!」
「……………………ちょっと言い過ぎでしたわね」
あ、ノエル君に嫌われるのは嫌なんだ。ノエル君愛されてるなぁ。
「ノエルは将来有望な人材なの。この白の王国になくてはならない人だわ。彼にふさわしい女性だと証明してごらんなさい!学年末の試験までに成績上位者十位までに入りなさい。またはそれに匹敵する実績を見せて頂戴。そうでなければわたくしはあなたをノエルの婚約者として認めないわ」
「承知いたしました」
こう答えるしかなかった。王族の方に睨まれているのは駄目だわ。その位は分かる。頑張って認めて貰うしかない。両親やサフィーリエ公爵家の方々、リンジー様にもご迷惑が掛かるかもしれない。
「ちなみに今日の事は他言無用です。いいですね」
「姉上っ!」
言い終えると王女殿下は部屋を後になさった。ベルナール殿下も後を追う。
前途多難だ……頑張るしかないけど。胸と体に鉛の重りが乗ったみたい。えっと、この前の試験って科目別だと最高順位が三十位くらいだったよね?うわー、学年トップテンなんて前世でもそんな高順位取ったことないや。せいぜい二十位そこそこ。
「大丈夫?ルミリエ。ちょっとアマーリエ様おかしかったわね」
「はい。大丈夫です」
おかしくはないのかも。だって確かに私とノエル君の接点って全然無かったし、正直ノエル君がどうして婚約者に選んでくれたのかも良く分からない。無類のウサギ好きだったとか、実は魔法少女が気に入っていたとか、いやないよねそれは。リンジー様と廊下を歩いていたらベルナール殿下が声をかけてきた。
「ルミリエ嬢!さっきは姉上がすまない」
「そんな。恐れ多いです。殿下」
「姉上の為にも私が姉上を説得するから、君は気にしないで良いよ。どうか無理をしないで」
「ノエル様が優秀な方で私が釣り合ってないということも事実ですし、努力は続けて参ります」
努力は今までもしてきたし、これからもする予定だったしね。ちょっと死ぬ気でやらないとなんだけど。
「そんなこと無いわよ!ルミリエのことを知れば王女殿下も分かってくださるはずだわ!」
「リンジー様ありがとうございます。でも私はノエル様と一緒にいたいのでできるだけ頑張ってみます」
「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。姉上には君達の婚約を邪魔する術は無いから。あ、でも勉強のことなら僕も協力するから何でも言ってよ」
「そうですわね。私も協力するわ」
「お二方ともありがとうございます」
ベルナール殿下とリンジー様の言葉に心からお礼を言って深く頭を下げた。
王家と公爵家の関係が悪くなるようなことはこの国の未来にも良くないし、何よりノエル君は皆に愛されてて必要とされてる人だから、私が一緒に生きるためにはもっともっと努力が必要なんだ。
この時の私は完全に空回ってた、と思うんだ。
アマーリエside
夢だと思ってた。幸せな夢だと。わたくしを置いて留学してしまったフランシス様に会える幸せな夢。臥せっている間に見ていた夢。ずっと夢の中にいたかった。でもそれはただの現実逃避だって気が付いたのよ。遅かったのだけれど。わたくしは囚われてあの世界から逃げられなくなっていたわ。ノエルが助けに来てくれたの。鼻の長い魔物を倒してくれた。夢の中で。
復学して初めて見た魔術大会の戦闘。ノエルの本気の戦闘。それを見て分かったの。あれは夢なんかじゃなかったって!ノエル!貴方だったのね!魔物に取り込まれたわたくしを助けてくれたのよね?
城下で流行った病の話。わたくしは調べさせた。同じような症状で目覚めずに衰弱していった人達がいたこと。同じように幸せな夢を見ていたけれど、ある日真っ白な少女と真っ白な動物が現れてその夢が終わったこと。そんなことが分かったわ。
貴族の中にも同じような症状の方がいて、その方からも話を聞くことが出来たわ。その中の一人に話を聞けた。わたくしと同じような鼻の長い魔物が現れてとても良い気分で夢の中で過ごしていたと。やっぱりわたくしと同じ!わたくしの病気はあの夢の魔物が関係してたのね。そしてノエルが助けてくれたんだわ。きっと!
もちろんフランシス様がいてくださったから、わたくしは目覚めることができたし、回復することができたの。でもでも、フランシス様が仰ったのよ。ノエルに怒られてしまったって。愛しているのにどうしてそばにいかないのかって……!もう!ノエルったら……!本当に昔から優しくて良い子なんだから!
お見舞いに来てくれたノエルにそれとなく聞いてみたんだけど、何も知らない風だった。でも何かを隠してる気がするの。小さい頃からの仲良し。フランシス様の弟。わたくしの弟も同然だわ。だから分かるのよ。
あのルミリエ・ネージュ伯爵令嬢は最初フランシス様狙いだったのよね?病弱アピールしてフランシス様に近づこうとしてたなんて!なんて嫌な子なのかしら。今はとても元気よね?病弱設定なんて嘘で、きっと我儘なだけの令嬢に違いないわ。いくら父親同士が仲が良いからって……!
それだけでも許せないのに、フランシス様が駄目だったからって今度はノエルに標的を変えるなんて!
ノエルにどんな手を使ったのかは知らないけれど、きっとあの病弱設定を使ったに違いないわ。
サフィーリエ公爵家に受け入れられているのはどうしてかしら?変な魔術でも使ったの?城下ではおかしな薬が流行っているというし、あの娘もきっとそういった薬でノエルを陥落したんじゃないかしら。ってさすがにそれは無いわよね。ノエル、いつもと変わらなかったし。
ノエルってけっこうわたくしのことが好きだったと思うのよね。婚約者候補のふりもしてくれてたし。あ、もしかして失恋で自棄になってしまったの?だったら悪いことをしてしまったわ。
とにかくわたくしが見極めてノエルを守らなくちゃ!だってあの子は(たぶん)わたくしを助けてくれた大事な弟だもの。ちょうどいいわ。お茶会の場で問い詰めてあげるわ!
やっぱりあのルミリエって子は人に取り入るのが上手いのかしら。まさかリンジーさんやベルナールまであの子の味方をするなんて。でもいいわ。「約束」はしたもの。王族であるわたくしとの約束は重いわよ?これで自分から身を引くことになるでしょう。ノエルを守れるわ。
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