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秋桜月夜

来ていただいてありがとうございます!


「さあ、もういいでしょ。そろそろルミリエを僕に返してよね」


魔術大会が終わった日の夜。私はサフィーリエ公爵家の居間で皆さんとお話ししてた。ノエル君が立ち上がったから、私も続いた。


「ええ!?お兄様はいつもお話しできるじゃない!」


「そうよ!ずるいわ。もう少し良いじゃない!」


ノエル君に抗議するのは二人の妹様達。彼女達は十歳の双子でノエル君と同じ白い髪、空色の瞳。サラサラストレートのエルシーちゃんとふわふわウエーブのルイーザちゃん。


「まあまあ、ルミちゃんは魔術大会頑張ってたから、今夜は休ませてあげましょうね。また明日お話しましょう。あなた達ももう休まなくては。お肌に悪いわよ?」


こう言ってくださったのはサフィーリエ公爵夫人だ。私に一番良くしてくれて、まだ婚約してるだけなのにお母様と呼ばせて頂いてる。自分で言うのも変だけど、私のどこを気に入って貰えたんだろう?


サフィーリエ公爵様と長男のアルフレッド様は晩餐の後お仕事があるとかで書斎へ。夜もお仕事なんて大変だね。貴族って優雅なイメージあったけど意外とブラックかも。次男で治癒魔術師のフランシス様は留学を切り上げて今はご病気の王女様に付き添っていらっしゃる。



「じゃあ、おやすみ。僕はルミリエを部屋まで送っていくから」


「お休みなさいませ。お母様、エルシー様、ルイーザ様」


「「お休みなさい!ルミリエお姉様!」」


元気な双子ちゃん達かわいいな。仲良くしてくれて嬉しい。私は前世の妹を思い出して懐かしくなった。


「ふう」


廊下に出て歩き始めて少し経った頃、ため息が出てしまった。大きなお屋敷。うちの伯爵家も大きいと思ってたけど、やっぱり公爵家は凄いなあ……。前世のアパートは双子の妹と一緒の部屋だった。特に狭さや不自由を感じた事が無かったけど、ここまで違うと時々くらくらしちゃう。あれ?本当に頭がくらくらするような……?うーん。何だか少し体が重い気がする?魔術大会が楽しくてはしゃぎすぎちゃったかな。体力まだまだ足りないな。筋トレのメニュー増やした方がいいかも。


「ルミリエ、大丈夫?」


気遣うような声。ノエル君には分かっちゃうんだね。


「少し疲れた?あいつの言ったことは気にしなくていいから」


「ノエル君……」


実は考えないようにしてた。…………マウティさんの事、怖かった。知らない人にずっと見られてるって怖いんだね。ストーカーされる程美人じゃないと思うんだけどなあ。


「ああ、やっぱり気にしてた!」


ノエル君は俯いて考え込んでしまった私の手を取った。


「ちょっと庭にでよう」




近くの扉から二人で外に出た。もう冬も近いけど今夜は温かい夜だった。咲き終わりのコスモスが月明かりにぼんやりと光ってる。そういえば、この世界の花と前世のは同じのがあったりするんだ。何か関係あったりするのかな?


「綺麗」


ノエル君は歩きだそうとした私を後から抱き締めた。


「ノ、ノエル君?」


「離れて行かないで」


「え?」


「あんな奴の言ったことは忘れていいから。これからは付きまとわせたりしない。僕が守るから!」

 

不安……?ノエル君はいつも自信があって、強いイメージだから珍しいな。大丈夫かな?私を抱き締めるノエル君の腕を握った。私には不思議だった。ノエル君はどうして私をこんなに大事に思ってくれるんだろう?前世(ましろ)今世(ルミリエ)のはざまでほんの少し一緒にいただけの私を。


ノエル君にお礼を言いたかっただけで、こんな風にそばにいられると思ってなかった私は、記憶を取り戻して以来少し揺れてる感じがする。毎日が忙しくてでも今までにないくらい楽しくて。それなのにふっと思い出すもの。前世も今世も私なのにゆらゆらと記憶が揺れる。それを繋ぐのはうさぎ(導き手)だった私。本当ならとうに消えてしまっていたはずの「わたし」は。


風に揺れるコスモスを見て月を見上げた。何だか頭がぼんやりする?


「私、ここにいてもいいのかな……」


「ましろ?……っルミリエっ!僕を見て!」


ノエル君が前に回ってきた。とても焦ったような顔をしてる。そして悲しそうな顔。


「どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?」


「ルミリエっ?」


ノエル君の手が私の頬を包む。


「もしかして、熱があるんじゃ……」


ノエル君の声が遠退く。私は久しぶりに熱を出して寝込んでしまった。





結局私はお休みの三日間をベッドで過ごすことになってしまった。


「せっかくのお休みなのにごめんなさい。ご迷惑をお掛けしてしまって……」


サイドテーブルには山盛りのカットフルーツのガラスのボウル。フォークを握ってるのは何故かノエル君で。赤いフルーツにフォークを刺すと甘酸っぱい香りが漂ってきた。果物をそのまま私の口元へ。何度も一人で食べられるって言ったんだけど、諦めてくれなくて私が諦めた。小さく口を開いた。美味しい。苺みたい。


「何言ってるの。僕はルミリエを一人占めできて大満足だよ」


ノエル君がおどけて笑った。その笑顔にほっとする。でもリンジー様やシモン様との祝勝会は延期になっちゃった。


「リンジー様には申し訳ないことをしてしまいました」


「大丈夫だよ。楽しみが延びただけだから。二人も心配してるし早く元気にならないとね」


そう言ってフォークに差した果物をまた口もとへ持ってくるノエル君。


「そ、そうですね」


でもねノエル君、私もうそんなに食べられないよ?







深夜


ノエルside


僕が願ったから。そばにいて欲しいと。ここにいて欲しいと。この世界にいて欲しいと。

でもそれは本当に望んでいいことだった?

ましろは帰りたかったんじゃないのか?

ルミリエの命は終わって、元の世界へ帰る。それが正しい道だったのかもしれないのに。


再び体調を崩したルミリエ。学園に馴染もうと、そして身分違いの差別に立ち向かおうと必死に努力していたルミリエ。僕達の世界を守ろうとしてくれた。自分の世界を守って戦ってきたましろ。そういう子だって分かっていたはずなのに。無理をさせてしまった。


しかもコレド・マウティなんて男を近づけさせてしまった。あいつの見る目は正しいよ。でもそれだけだ。ルミリエは渡せない。ルミリエの価値を知ってるのは僕だけでいいんだ。このまま引くならルミリエへの侮辱は見過ごそうかと思ってたけれど、調べていくうちにあの商会自体にきな臭い噂があることが分かってきた。ノックの音が響く。


「ノエル、報告が来たよ。凄いね。どうして分かったんだい?」


アルフレッド兄さんの声が掛かった。タイムリーだった。







ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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