最後の魔術大会
来ていただいてありがとうございます!
文化祭みたいなのやりたいな。
でも魔術を使うものじゃないとダメだよね?
お化け屋敷、メイドカフェ、ノエル君のメイド姿見てみたいな……。おっと脱線しちゃった。あっちではハロウインの季節だなぁ。ってことは仮装大会?あ、ノエル君強いし勇者みたいだからRPGゲームやるのも面白そう。精霊の道みたいな洞窟作ったり?でもさすがにそれは場所がないよね。教室くらいの広さでできることってなんだろう?あとは講堂のステージも予約すれば発表に使えるんだっけ。ステージを使ってファッションショーとかマジックショーとか?後は文化祭だと縁日とか?それは魔術を使わなくても出来ちゃうから駄目かな。ふふ、でもできたら本当のお祭りみたいで楽しそう。
お祭りかぁ……お祭りと言えば花火に浴衣に盆踊り
花火……懐かしいな。また見たいな。空だったら無制限に使えるかも?
「ルミリエ嬢も魔術師部隊に遊びに来ない?隣の大陸から色々な魔術道具を持って来てあるんだよ」
え?隣の大陸の魔術道具?ノエル君とシモン様の会話を聞き流しながら魔術大会の事を考えてたらそんな話題が耳に飛び込んで来た。お昼休みの食堂はたくさんの生徒でごった返してる。実は今リンジー様はベルナール殿下と一緒に外国に行ってて魔術大会は不参加。それに今日はジョゼちゃんもメイベルさんもいない。ジョゼちゃんは回復して仲直りしたお友達と魔術大会の打ち合わせ。メイベルさんはここしばらくは学園には来ていなくて、たぶんオスカー様とお城に行ってる。魔術道具も見たいけど、メイベルさんにも会いたいな。
「シモン、ルミリエをそそのかすのはやめてくれ」
「そそのかしてなんてないよ……。ただ、ベルナール殿下が……」
「殿下とはもう話がついてる。ルミリエは魔術師部隊には極力関わらせないから」
「そんなに睨まないでよ。そ、そうだ!そういえば隣の大陸で大陸縦断魔力列車の計画があるんだよ!」
「へえ……列車ってたくさんの荷物や人を陸路を運べるんだっけ?」
「うん。面白い計画だよね。どうやら機関の人間が赤の王国の王様に提案したらしいよ」
列車ができるんだ。しかも動力は魔力!蒸気でも電気でもないんだ。なんかすごい。やっぱりこの世界って魔術が基本なんだね。でも列車って誰が思い付いたんだろう。隣の大陸と「機関」ってやっぱり気になっちゃう。
放課後、先生に呼び出されて戻って来たノエル君が暗い顔をしていた。
「ルミリエ、ごめん。戦闘大会の方にも出場しなくちゃならなくなった」
「え?そうなの?」
色々な事件の影響を受けて今年から魔術の戦闘大会の規模が大きくなったんだって。参加人数を大幅に増やして、日程も三日間通しで行われる。何と成績アップの他に賞金も出るらしく、一般からも出場者を募るんだって。だから去年の決勝進出者のノエル君も駆り出されることになっちゃった。もちろんシード枠だから最終日の準決勝から出場することになった。
「終わったらすぐに行くから」
ノエル君は申し訳なさそうな顔をしてるけど、実は私はノエル君が戦ってるところを見るのが好きだったりするんだ。もちろん危ないことはしてほしくないけど、試合なら上級者のノエル君なら怪我をすることもさせることも殆ど無いと思うから。
「ううん。ノエル君のかっこいいところまた見られるの嬉しい!」
「!そんな風に言われたら手は抜けないな」
あ、ノエル君手を抜くつもりだったんだ……。
私達の発表に割り当てられたのは最終日の戦闘大会の後。場所はメイリリー学園の庭園。少し薄暗いくらいの方がいいって申請を出したらその日程になったんだ。でも去年と違って当日の準備は特にないんだ。だって今年はノエル君と一緒だから思いっきり魔法が使える。学園の上空いっぱいを使って綺麗な花火をあげようと思ってるんだ。私は主に花火担当でノエル君はそのほかの演出担当。一緒に魔法を使って何かできる機会なんてもうあまりないだろうし、とても楽しみ。一応話し合ってちょっとしたリハーサルもやって魔術大会の三日目を迎えた。精霊達があまり顔を見せないのは気になったけど、きっとどこかで遊んでるんだろうなって思ってた。
魔術大会の最終日
戦闘大会では当然のようにノエル君が優勝してた。ノエル君は戦いの経験が多いし、実は陰でずっと鍛錬を続けてるのを知ってるんだ。だからノエル君が負けるわけない。私の将来の旦那様はカッコいい!
私は急いでグラウンドから庭園へ向かい、魔法を発動させた。優勝おめでとうって花火を上げたかったから。いきなり暗くなった空に最初はどよめきが起こったけど、とりあえずお花をたくさん降らせてみた。歓声が上がったのが聞こえてこれなら大丈夫だなって思った。それから小さな花火を上げた。本当の花火は大きな音がするけど、今回は音は控えめで。ノエル君をイメージした白い光の花が夜空に咲いた。うん、大成功!
未届け人の先生達がやって来て、本格的に私達の発表がスタート。ノエル君も息を切らせて走って来た。
「ごめん!遅れて」
「いいえ。大丈夫です。それよりも優勝おめでとうございます!」
先生方がの他にノエル君の後に続くように生徒達の何人かが発表を見に来てくれた。ジョゼちゃんとお友達たちもいる。
「ありがとう。はい。これ」
ノエル君は胸に刺した花を渡してくれた。
「去年は渡せなかったから」
「ありがとうございます、ノエル様」
優勝者が花を相手に渡すのは生涯貴女を守りますっていう意思表示。ちょっと恥ずかしいけど嬉しいな。
「じゃあ、続きをやろう」
「はい」
ノエル君と一緒にいくつもの花火を空に打ち上げて、光の花を降らせたり、雪の結晶を降らせたり、星をたくさん流れさせたり、我ながら素敵な光のショーになったと思う。ただ、予定にない光がぽつぽつと集まって来てノエル君と顔を見合わせた。お互いに知らないって首を横にふってた。
「あれ?」
「あ、あれは……!」
更に想定外の事が起こったのは発表も終わりかけの頃だった。光の大群が四方八方から飛んできた。
「ルミリエ―!いっぱい呼んできちゃったわよー!」
「みんなも見たいってー」
ローズちゃんと白ちゃんが仲間を引き連れてやって来たらしい。ランちゃんも白ちゃんの隣で楽しそうに花火を見てる。
「仲間に声をかけてやったぞ」
「翡翠ちゃんまで!」
精霊の世界からやって来た無数の精霊達はそれぞれがほのかに光を放ってるから最後は光の洪水みたいになってた。喜んでるような気持ちが伝わって来たから精霊達も私達の発表を楽しんでくれたみたい。
「……ちょっとまずいかもしれないな」
「どうしたの?ノエル君」
ノエル君が周りの人に聞こえないように小声で話しかけてきたから私も声を潜めた。
「この中には精霊の姿が見える人間もいるはずだから……」
「あ……」
そうだった。アッシュベリー様みたいに精霊の姿が見える人とそうでない人だと見え方に違いがあるかもしれない。
「まあ、僕達は知らぬ存ぜぬを通せばいいか……」
「だ、大丈夫かな……」
不安はあったけど発表は先生にも生徒達にも喜んでもらえたみたいで、あちらこちらから歓声が聞こえてた。
色んな人から褒めてもらえて嬉しかったんだけど、不思議なことに先生方をはじめ、ほとんどの人達にあの精霊達の光の乱舞が見えていたみたい。先生方からの評価も高くて私達はなんと最優秀賞を貰う事ができた。そしてシモン様が動かしてみせた魔術巨大ロボが優秀賞だったシモン様は魔術からくりって呼んでたけど、どう見てもアニメとかで見たことあるような巨大ロボだった。やっぱり「機関」には私と同じ世界から来た人がいると思う!
魔術大会の翌日は学園はお休みだから、ノエル君と私とでお疲れ様会を開いた。といっても精霊さん達と一緒のいつものお茶会だけど。あったかいお茶と甘いお菓子が疲れた体に染み渡る。
「はぁ、さすがに空いっぱいに魔法をかけるのは大変だったぁ。それにしてもどうしてみんなに精霊の光が見えたんだろう?」
「あの日あの空間にはルミリエの魔力が満ちていた。精霊達の波動と共鳴して精霊達の姿を映し出したのだろうな」
翡翠ちゃんがそんな風に分析して説明してくれた。
「発表の一環として捉えられていたのなら問題ないだろう」
ノエル君はそう言うけどいいのかな?
「精霊さん達のおかげで賞を貰っちゃって良かったのかな?」
「…………」
「みんな何で黙っちゃうの?」
お菓子を食べる手を止めてみんな私の方を見てる。
「ルミリエが頑張ったからだろう?」
「ルミリエがいたからでしょ?」
「うんうん」
「皆、ルミリエに感謝して会いに来たのだ。花火、美しかったぞ」
みんなに口々に言われて今度は私がなにも言えなくなっちゃった。私?確かに花火の発案は私だけどノエル君との共同作業だし、この前の魔人の件なら私だけじゃなくてそれこそノエル君やメイベルさんやオスカー様やシモン様、ベルナール殿下に魔術師部隊のみんなが頑張ったからなんだけどな。
黒うさぎのランちゃんと白うさぎの白ちゃんが私の両手をそれぞれ握って私を見上げて笑ってる。みんながニコニコしてて楽しそうにしてるからいいかな。こうして私とノエル君の最後の魔術大会は楽しく終わったのだった。
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