入学
来ていただいてありがとうございます。
あ、桜に似てる、このお花。
メイリリー学園の園庭でたくさん花の咲いた木を見上げてた。
「ソメイヨシノよりちょっと色が薄いですね。でも懐かしいです。綺麗……」
私はルミリエ・ネージュ。白の王国のネージュ伯爵家の一人娘だ。実は前世の記憶があって、ここへ転生する前は日本で女子高生だった。とは言っても、命が終わってすぐに転生してきたわけではなくて、ちょっとした冒険を経て今やっと落ち着いた生活ができ始めてる。
今世の私はずっと病弱で、空気の良い領地でずっと療養をしていた。昨年の冬の初めに高熱で一週間ほど寝込んだ後、前世の記憶を思い出してからは、それまでが嘘みたいに健康になった。その理由についてはちょっと思い当たることがあるけれど、今はまだ確認できてない。
今日はメイリリー学園の入学式。メイリリー学園の女子の制服はハイウエストのミモレ丈のワンピースドレスにボレロ。ミッション系の女子高の制服みたいで可愛い。初等部は黒、中等部は灰色、高等部は白。男子の制服はブレザーに、ズボンで色は女子と一緒。私は今日からこの学園の高等部に入学するんだ。
「ルミリエっ!僕から離れるなって言ってあっただろう?倒れたらどうするんだ」
声をかけてくれたのは、ノエル・サフィーリエ様。公爵家の方で、私の、その、婚約者だ。白銀色の髪にアイスブルーの瞳のとても綺麗な人。出会った頃は今より背が低くて女の子みたいで可愛かった。今は成長期なのか急に背が伸びて少し大人っぽい男の人になってしまった。え?いえ、決して残念なわけではないんだけどね。
「大丈夫ですよ、ノエル君。体調はとっても良いですから」
私は笑顔で答えた。
「本当に?」
ノエル君の手が私の頬にかかり、私の琥珀色の目を覗き込む。心配そうに私の黒髪に触れた。ノエル君の胸には私が贈ったポーラータイが揺れてる。私もノエル君がくれたブルーダイヤモンドのネックレスを大切に身に付けてる。
「もうすぐ入学式なのに、何してたの?ルミリエ」
私とノエル君は馬車で一緒に登校してきたんだけど、ノエル君は到着するなりあっという間に女の子達に囲まれてしまった。この世界では初めての学園だったけど、入学式なら何度も体験してきた。だから私は受付の場所で手続きを済ませた。日本と同じで名前の確認とか式場の場所の説明とかだったから楽勝だった!あ、あと新入生はお花を胸ポケットにさすんだって!なんか日本と似てる。私も渡されたお花を胸ポケットにさしたよ。それから、ノエル君の方を見たら、まだ女子に囲まれていたので園庭の桜に似た木を見ていたのだ。
「お花を見てました。似てるお花が向こうにもあったので、懐かしくて……」
ノエル君は私の事情を大体知ってくれてる。だから、気軽に話ができてとても嬉しい。
「……そう、じゃあ僕達の新居にはこの木を植えよう」
「……はい、ありがとうございます。嬉しいです」
ノエル君は自然に私達が二人でいる未来の話をしてくれる。私にはそれがとても心強かった。私はノエル君のそばにいてもいいんだなって思えるから。
「ああ、本当だ!ノエルが女の子連れてる……。その子がノエルの婚約者なの?」
私の後ろから声が掛かった。
「ベルナール殿下」
ノエル君が礼を取ったので私も身をかがめた。
「いいよ。楽にして。ここは学園内だから、身分のことは気にしないで」
ベルナール殿下は明るい金色の髪をかき上げて微笑んだ。気さくな方みたい。この方は白の王国の第二王子様。私達と同じメイリリー学園の高等部の一年生だ。ただ私とは違って、ノエル君とベルナール殿下は中等部からこの学園に在籍してる。
「……婚約おめでとう。ノエル」
殿下の後ろから少し小柄なシルバーブロンドの少年が声をかけてきた。彼は眉根を寄せてかけている眼鏡を直すと、私を一瞥してすぐに視線を逸らした。あ、何だか良く思われてないみたい?
「彼女はルミリエ・ネージュ。ネージュ伯爵家のご令嬢です」
「ルミリエ・ネージュでごさいます。今年からメイリリー学園高等部に入学いたしました。よろしくお願いします」
ノエル君が紹介してくれたので私も二人にご挨拶できた。
「はい、ベルナールです、よろしくね!堅苦しいのは嫌いだからさ、学園内では気軽に話しかけてよ」
ベルナール殿下は片目を閉じて笑われた。
「はぁ……、ベルナール殿下、少し砕けすぎでは?……僕はシモン。シモン・マルクール。よろしく」
シモン様はマルク―ル侯爵家の方なんだね。全く私と目を合わせようとしない……。私、何かしちゃったのかな?心配になってくる。
「へえ、黒髪なんて珍しいね。かわいい子じゃないか……。どう?ノエルから私に乗り換えない?」
「ベルナール様!」
いきなり王子様から、爆弾発言が飛び出した。私もびっくりしたけど、シモン様が一番驚いていた。隣のノエル君の表情をそっと伺うけれど、表情は変わらないみたい……?
「お褒めいただいてありがとうございます。でも、私はノエルく、いえ、ノエル様にお会いするためにこの世界に生まれてきたので、謹んでお断りさせていただきます」
私は深く頭を下げた。
「…………」
「…………」
少しの間の後、ベルナール様は片手で頭を押え、シモン様は顔をしかめたまま、そっぽを向いた。
「うーんそう来たかぁ……。振られちゃったよ。連勝記録がストップだ。おーいノエル、なに当然みたいな顔してるかな?」
「事実ですから」
ベルナール様の言葉に淡々と答えるノエル君。
「くー、妬けるね。よーし、私は二人を認めよう!うん」
え?これって何かの試験だった?それに連勝記録って……。この王子様ってこんなこと何度もやってるの?なんか要注意人物?
「ルミリエ、そろそろ時間だ。入学式が始まるよ。行こう。では二人ともまた後程」
ノエル君に促されて私もお二人にご挨拶してその場を辞した。
メイリリー学園は初等部、中等部、高等部があって入学式は合同で行われる。ほとんどの子どもが初等部からの入学になるけれど、中には私みたいに高等部からとか、ノエル君みたいに中等部からって生徒もいる。だから入学式はたくさんの子ども達にお兄さんお姉さんの生徒が混ざる感じになる。在籍しているのは殆んどが貴族の子女で、その他に大商人の子ども達、そして一般の優秀な子ども達が入学を許される。
ここでいう優秀さは主に魔術の才能の事だ。そう、この世界には魔術があるのだ。どういう訳か魔法ではなくて、魔術って呼ばれてる。魔術の授業もあるから今から授業を受けるのが楽しみ!私にとっては久しぶりの学校生活になる。お友達が出来るといいな……。
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