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初対面の隣国王子にナンパ紛いのことを言ってしまってめっちゃ恥ずかしい公爵令嬢の末路

作者: 橘みかん

今まで、「昔会ったことある気がする。なんか懐かしい」人に数人であったことがあります。みんな同性でしたが。ナンパもあながち嘘じゃないかも笑

学園の朝やすみ。


「どこかで会ったことありますか。」


あ、しまった。やってしまった!

私の考えなしーーー!!

これは完全にくだらないナンパの口説き文句だ...!

考えるよりも先に出てしまった言葉に蒼白になる。


「す、すいません...!」


私はその場から戦略的撤退をした。


逃げではない。戦略的な撤退である。






「えーであるからして...すなわち〜kの変域...におけるyの最小値は...。」


あー恥ずかしい!

死ねる。

いや、さっきのはマジで恥ずいわ。


授業中に羞恥で居た堪れなくなっている不届者こと私の名前はラビオリ・セルロース。セルロース公爵家の一人娘。美貌、性格、頭脳全て完璧な麗しのご令嬢である!!


自分で言うなって?

いいの。真実だから。真実だったから。


はぁ人生終わった。


私が朝休みにうっかりナンパもどきをした人は今日転入してきた隣国の王子。


いやぁ人生終わりましたね。

自主謹慎のあと退学コースしか見えない。


バカなの、私バカなの?

ねえ、朝の私何やったのよ。

お願いだから時間を戻してほしいわ。


あーあ。

家に帰って父に説教くらって、その後、ゴシップ新聞にデカデカと書かれるんだ。

「公爵令嬢、隣国の王子をナンパか!?」ってね。


もう最悪。

死にたくないけど殺してほしい。


「今日の授業はここまでとする。」


ガヤガヤと集団が去っていく。私は次のコマは移動なしだ。


ぼーっとする。


どうせ休み時間に喋ったり一緒にトイレ行ったり移動したりする友人などいない。

私は特殊だから仕方ない。

だから私は次の授業で使う教科書を開こうとした。


「ラビオリ・ディ・セルロース公爵令嬢。」


はい、フルネームありがとう。ディは何と言ったらいいか...貴族の象徴みたいなもんである。


顔を上げれば目の前に御尊顔。やばいイケメンかっこいい好き。なんか優しくて甘えたくなるわこの顔。


自分の思考回路がすでにヤバイ。

人間としても公爵令嬢としても不適格。


ちなみに現在現実逃避中。

そう、私に声をかけてきたのは私がナンパ未遂(?)をした隣国の王子様である。

もう泣きたい。


「はい。」


これ以上余計な失態はおこすまい。

私は気合いを入れた。実は逃げ出して穴掘って埋まりたいほど恥ずかしい。


「僕も君とどこかで会ったような気がしていた。部下に記録をあたらせたが、僕たちは全くの初対面だ...なあ、ラビオリ嬢。」


「ひゃい。」


私は何事もなかったように微笑んだ。

公爵令嬢たるもの緊張して返事を噛んだりしないのである。


「...、僕と婚約してくれないか。きっと僕らは運命だ!」


!?!?


「ごめんなさい、返事は父を通してお伝えしますわ。」


どれだけ驚こうとも公爵令嬢として培った教養が私の口を動かす。

そう、返事などできないのだ。


当然である。結婚は人生を決めるのだ。普通に家族に相談する。しかもうちは結構な権力を持つ。さらに私は特殊。変なところに私が嫁いで事件や厄介ごとに巻き込まれたら大変だ。


この王子、バカかもしれんぞ。

運命とかいうやつは大抵バカなんだ。

私は家に帰るまで彼を警戒した、が拍子抜けするほど呆気なく、何事もなく家に着いた......。









「ラビオリ様、旦那様がお呼びですが。」


「今行くわ。父上にはすぐ伺うとお伝えして。」


私は私室でくつろぐのを諦めて、父の元へ行った。


はぁー行きたくない。回れ右したい。のに私はノックして入室する。


「父上、お呼びと伺いました。」


うちの父は口髭があり、優しい顔をする王国宰相だ。その容貌と地位から腹黒とか、狐などと揶揄されることがおおいが、家に帰ればただの娘を溺愛する父である。何なら腹黒より直情型面すらあるしね。

むろん公爵令嬢たるためのしつけはそこそこ厳しかったが、私が優秀なこともあって猫可愛がりし、ご褒美という大義名分をを抱えて溢れるほどのプレゼントを贈る。

ーー女子は嫁げば家に帰ってこないから、財産を渡したり幸せにしてあげられるのは子供の時だけという側面もあるのだ。持参金と共に自分の財産とするために与えられる。


「ああ、ラビオリ。長い話になる。座っておくれ。」


私は父の前の椅子に座る。

お茶を一口。


「今学園に留学に来た隣国の第二王子ーーギルシュ殿下から求婚の手紙が届いている。」


父が重そうに口火を切った。


「ここからは父の独り言だ。国家機密故にな。この部屋には誰もおらん...。」


私は黙って頷いた。

父も私の目を見て頷く。


「ギルシュ殿下は花嫁探しの旅に出ており、我が国が2カ国目。本命とも言える。我が国ではギルシュ殿下の二つ年下であるメルフィオーネ王女殿下を見合わせる方針であった...がメルフィオーネ王女殿下はワガママまで手が付けられない。その噂は隣国でも流れていたようで、ギルシュ殿下は王女との見合いを厭い、学園で上級貴族で自分の伴侶となりうる人間を探した...それがラビオリだ。」


メルフィオーネ殿下は本当にわがままで、貴族ならみんな彼女の煮湯を飲まされたことがある。ーー隣国へ嫁いでくれればよかったのに。


「ギルシュ殿下は第二王子でありながら王位を狙う野心家だ。事実、第一王子より優れていることを見せつけており、今回の花嫁選びも、男爵令嬢を選んだ第一王子を蹴落とす側面が強いだろう。」


父が深くため息をついて私を見つめた。


「向こうへ行けばお前は、ドロドロの王位継承争いに否応なく巻き込まれ、苦しい思いもするだろう。この婚約、どうする。」


求婚の手紙を見れば隣国王家のみならず我が国の王家の紋章まで入っている。

この婚約を断ればーー


「私は構わない。お前のためなら地位も名誉もいらない。非国民の誹りを受けようとも亡命し、お前くらいなら養って生きていける。」


そういうことだ。

弟を産んですぐ母は死に、弟も生まれてまもなく死んだ。セルロース公爵家はもう私と父の2人だけ。


「父上...私の失態なのです。朝休みに、」


「知っている。それがなくともやつはお前に求婚しただろうよ。王女を除けばお前が1番貴いのだから。」


「.........。」


だいぶ悩んだ。

正直怖い。が、かまわない。


「婚約します。」


「そうか。」


父は口髭を触った。


「よく言った、ラビオリ。父も一緒に行くからな。」


「!?!?」


いやあ、と父は頭を掻く。


「実はな、好条件の引き抜きの話があって。お前が嫁ぐなら私も一緒に行こうと思ってなあ。」


「父上!シリアスな雰囲気と娘の決断を今、全力で棒に振りましたね!?」



はっはっはと父は笑う。

うちの父はこういう人なのだ。


ちょっと待て。

...........父親付きで嫁ぐってどうなの?









うちの国の皆さんにはだいぶ引き留められたが、父の決心は固かった。

仕事モードの父は優しく胡散臭い微笑みで人々をいなし、余計なちょっかいや追いかけてこないように爆弾発言をしてさっさと辞職。


私はその日のうちに退学して、3日後には父と共に隣国行きの馬車に乗っていた。


肝心のギルシュ殿下はというと。父に部屋から出てすぐにうちに押しかけてきて、


「ラビオリ嬢、どうか僕と結婚してください。」


美しい顔、美しい声、美しい動作で私に求婚するのだからつい頷いてしまった。


その瞬間、


「ラビオリ嬢!」


「!?」


抱きついてきたのである。


私付きの侍女が、


「お嬢さまがお嫁に...!」


と涙を流したのは余談である。


「ラビオリ嬢、あなたが頷いてくれて本当に良かった。ああ夢みたいだ!僕の腕の中にラビオリ嬢がいるなんて!」


あぁ...これが政略的溺愛パフォーマンスかー。と思っていたら、キスをくらった。む、私のファーストなるぞ。


「君のことはどんな手を使っても守るからね。」


その言葉はヒヤリと私に落ちてきた。

固まった私に気づいたのだろう、落ち着かせるように彼は私を抱きしめた。


「君はこれから狙われる。事故を装って植木鉢が落ちてくるような軽いものから、お茶に毒が入ること、誘拐されて人質にされること。ありとあらゆる危険が起こるはずだ。けど、これは全て僕のせい。万全の警備体制と安全策を講じるし、僕が絶対に守る。いくら罵ってくれても構わないが、守らせてほしい。」


植木鉢が落ちてくるのって軽いんだ。

実は毒には慣れているので気づくと思う。

誘拐は怖い。


まあなんせよかった。この王子、どうやら婚約者...ひいては妻を守るくらいの人間らしさはあるらしい。


.........そういえばずっと抱きしめられている。

暖かくて優しい気持ちになる。何といえばいいんだろう、安心する、というか、懐かしい、というか。

ホッと一息つくような。

この人になら人生を委ねられる、というような。


まあそんな感じで恙なく婚約は整ったのである。









みなさんごきげんよう。

私は今どこにいるでしょうか。

ここです。ここ、ここ。

正解はですね、隣国ーーアレンバートの王都、王城へ続くメインストリートを走る馬車の中でございました。


ひねりもへったくれもありませんでしたね。

反省します。


ちょっとテンションが上がりすぎてしまった。


なぜそんなにテンションが上がっているか。それは現在進行形で襲撃を受けているからである。

今まで我々を護衛していた白馬の騎士がいきなり我々に剣を向けてきたのだが...


「控えよ。我が娘に剣を向けるつもりか。」


父が怒りのオーラで剣を抜いた。

多分騎士たちは一目散に逃げたほうがいい。なぜならうちの父は世界有数の剣と魔法の使い手なのである。


無詠唱で剣に風を纏わす父。


その横では王子が彼の身長くらいある杖...人類最高レベルの魔術師でないと使えないと言われる...を掲げた。


「死にたくなくば失せよ。」


今死ぬか雇い主に殺されるか。それか命令を放棄して逃げるか。選択肢はその3つ。


最強の布陣である...が自分だけ除け者で寂しいので、歌を歌うことにした。


「光を〜讃えよ〜大地に〜感謝を〜我らが〜母なる〜世界に〜感謝を〜。」


ここまでは聖句であり、お祈りする時の文句なのだが。問題はそれが歌になって私に歌われていること。そしてその続きだ。


「罪に〜浄化を〜邪悪に〜滅びを〜闇にー光をーぉー!」


短調にして後半を歌い切った瞬間、光が差して騎士たちは膝をついた。


私は「歌い手」であるのだ。


魔法が五大元素...風地火水空の魔素を変換・操ることができ、魔術が五大元素以外も使って世界の情報を塗り替えることができることに対して、私は秘術使い。魔法と魔術以外のすごいやつが秘術というわけだ。


あくまでも可能なのは戦意を削いだり悪意を小さくするだけなのだが、これが便利なのである。特にこういう街のど真ん中では。ドヤァ。


「ラビオリ嬢は歌い手なのか!?」


「知らずに求婚したんですか!?」


歌い手が便利だからだと思ったんですけど!?


「いや一目惚れ!」


と潔く言い切った王子が頬を赤くして撃沈してしまった。

そして撃沈することしばし。


杖を私に向けた。

ん?殺される?

父は最愛の娘が殺されるかもしれないのにのほほんと騎士を縛っている。そんな暇あるんかい。


「ラビオリ嬢、歌い手ならあなたはもっと危険に晒される。」


歌い手はこの世界に2人いるかどうかである。

どうやらこの馬車ーー父・王子・私でこの世界で希少価値の高い人間の集まりだったらしい。

レアメタルならぬレアヒューマンであろうか。


「ええ。国でもそうでした。」


うち王族がボンクラで私を守る制度の一つも作ってくれなかったのですごく大変でした。


「我が魂をもって彼女、ラビオリ・ディ・セルロースに守護を!!」


与えてくれたのは最強の守護、魂の魔術。


ここまでされるともう紛うことなき溺愛である。だって、彼の魂...命を使って私を守ってくれるんだぞ。


申し訳ないとか思う前に言葉より熱烈な求愛に照れた。


この魔術、いちゃらぶゲロ甘*1000くらいのレベルのカップルが使うんよ!?


「ねー、いちゃつくのはいいけど父の存在思い出してくれない?」


騎士を縛って麻袋に詰め込んだ父が声をかける。


ごめんなさい、父上。

ありがとう。





そして我々は王城に着いた。


そこで、


「兄上!もう許せません!」


ギルシュ殿下は王太子につかみかかるという狼藉。


「なっ!?」


「僕のみならず最愛のラビオリにも手を出すなんて!」


言ってて恥ずかしくないのか。

ねぇ、私は言われてて恥ずかしい。

穴掘って埋まりたい。


これ、あれ?私のために争わないでぇ〜!とかぶりっ子するやつ?いや違う。落ち着け私。


「兄上、今日という今日は許せません!その罪、命で贖っていただきます!!」


!?!?


え!?


私は父を見た。

さもそれが当然と頷いている父を。

父は私の耳に口を寄せて、


「お前を害する人間は身分に関係なく殺してきたよ。」


と囁いてきた。


泣いていい?

身分に関係なくっていうのがすごく闇を感じるの、父上。


そうだよ!

ここの国の国王様が、王太子を殺すなんて許さないよね。


「ギルシュ、やっと王太子になる覚悟ができたか。兄は不出来なのでな。好きにするといい。だがしかし、城を血で汚すなよ。」


のぉぉぉぉおおおおお!


というかね、断片的に推測するにね、父のギルシュ殿下は情報は...王位継承争いでドロドロの件は...


「ごめんよ、嘘だ。殿下に頑張って欲しくて。父親である私が殿下の恋を応援するわけがない!」


おい。


おいおい。

それでいいのか公爵家。


と言ってる間に元王太子が凍っていた。


ギルシュ殿下の仕業である。


そんな中私は一歩前に進み出た。


「アレンバート国王陛下に拝謁賜りましたこと恐悦至極にございます。」


「楽にせよ。」


「ありがたき幸せ。」


といった拝謁からの自己紹介を済ませたのである。


私は公爵令嬢。いついかなる時も貴族の模範となるべく、動じず、礼儀を粛々とこなすのだ...。


「気に入った!ラビオリ嬢!まさに我が国の王妃となるべき逸材!戦闘中に泣き崩れるでも怯えるでもなく挨拶をするとはな!そなたになら国を任せられるぞ!!」


流石に他人が凍ったくらいでは泣かない。自分が凍ったら生理的な涙が出るかもしれないが。

泣いても仕方ないし。泣いたら誰かが助かるのならいくらでも涙を流すが、そうでないなら泣かない。


「光栄です。」


「ギルシュ!余は隠居するぞ!国政は其方らに任せた!」


おいーーーー!!!!!

それでいいのか国王ー!


もう心の中で叫ぶのも疲れた。

ねぇわかる?唯一の常識人である私の気持ちが。ねえわかる?わかんないでしょ?


もうお淑やかな公爵令嬢がゲシュタルト崩壊しそう。






そ し て


元王太子は夏だったので溶けた。体はピンピンしてるけどトラウマだったらしく、おとなしーく子爵位を賜っておとなしーく領地に籠っている。素敵な奥様に出会ったようで何よりである。最近の手紙は99%惚気である。


国王は隠居した。隣国ーー私の故郷近くの王領で、睨みを利かせている。最近きな臭いそう。

そのために早く引退したかったとか。


私は祖国と戦うかもというのに一切の感慨が湧かない。もちろん戦争は人材と資金と資源の無駄遣いなので外交で回避したいのだが、戦争することになっても構わない。

私が1発歌って父とギルシュ殿下で制圧すればいい。


で、だ。

本日私とギルシュ殿下の結婚式並びに戴冠式である。


殿下はドレスにめちゃくちゃこだわったのでなかなか完成しなかったのである。


「急ぎだし、普通のドレスでいいですよ?」


「いやいや、それは絶対にいけない。結婚式というのはこれからの人生を誓う日。僕にできる最高のものを君に捧げて、少しでも君が感じる幸福が増えるようにするんだ。結婚すれば辛いこともお互い出てくる。だからこそ結婚式は妥協はしない!」


長々と語ってくださった。




私は歴代最高、王族の財力と権威をこれでもかと見せつけるようなドレスを身に纏っている。着付けでもうクタクタだ。


ぐったりと椅子に座ってされるがままに化粧されている私の部屋に、甘すぎてさらにぐったりさせられそうな笑顔の殿下が入ってきた。


「美しい。」


美の結晶のような容貌の殿下に言われてもなあ。


「美しいよ。この世界の何よりも君が美しくて、愛おしくて、尊い。」


流石に真顔で言われると恥ずかしい。

背筋がむず痒い。


「僕は世界で1番君のことを愛している。そして、この世界で1番君を幸せにするための努力を怠らないことを誓うよ。」


なるほど。それでこのドレス。


国王というのは何があるかわからない地位だ。

毒殺か?謀反か?戦争に負けて処刑か?ありとあらゆる不吉なワードが付きまとう。そんな中、努力を誓ってくれる彼に私は惚れ直した...と言ったらみなさん呆れるだろうか?


「私もあなたを愛してるわ。」


「動かないでください。」


化粧担当者に叱られた。


「話さないで、動かないでくださいね。」


まじ声である。返事しそうになって、それを押し留めた。



そして式。

殿下と共に入場すると父がボロ泣きしていた。

殿下と私の治世のために辣腕をふるう敏腕政治家の公爵が台無しである。部下に励まされている始末だ。


父に駆け寄ってあげたいが、今は式に集中だ。


軽い掠め取るようなキスとは違う誓いの口付けは、幸福の味がした。


その後は馬車で王都を引きまわされて戴冠式に出席して晩餐会。初夜は緊張するというけど、緊張より疲労の方がまさった。もうクタクタ。殿下...いや陛下を待たずに眠りたい。


「起きてるかい、愛しい妃よ。」


「ええ...。」


「...だいぶしんどそうだね。」


だがしかし。これは大事なことである。しんどいから延期とかそういうのはないのである。


「陛下じゃなくてギルシュって呼んで。」


「しかし...。」


「そうじゃないともう、僕の名前を呼ぶ人がいなくなってしまう。」


兄上は遠くの領地へ。父上と母上は隠居。そんな陛下からすればそうだろう、寂しいだろう。


「ギルシュ様。」


何でこんなに恥ずかしいの、というレベルで恥ずかしかった。照れくさい。


「可愛い。僕の名前を呼んでくれた。」


「永遠の愛をギルシュ様に。」


深い口付けが言葉よりも雄弁に愛を語る。







「ラビオリ、ラビオリ?」


「どうしたの、ギルシュ。」


「いやぁ、さ。昔を思い出していたんだよ。今じゃすっかりじいさんとばあさんだが、昔は若かったなあ、って。」


「そうねぇ。昔はあなたのことをギルシュ様って呼んでて...、敬語を使ってたわ。」


「あの時だっけ?あの夫婦喧嘩の時から呼び捨て敬語なしになって...喧嘩は堪えたけど、それは嬉しかったなぁ。」


「あの喧嘩はあなたが悪いのよ?」


「ごめんよ、ラビオリ......。」


「ふふふ。いいのよ、もう。あぁ...父上が迎えに来てくれたわ...先にいくわね。」







第23代アレンバート国王ギルシュ・セレス・ディ・カトー・アレンバート、王妃ラビオリ・ディ・カトー・アレンバートここに眠る


2人の墓に手向けられる花が絶えることはない。それは彼らも、彼らの子孫も良い治世を築いていたことの証に他ならない。





ありがとうございます。橘みかんです。

拙いものですが楽しんでいただければ幸いです。

誤字報告をしてくださる皆様、いつもありがとうございます。心から感謝しています。

ブクマ、ポイントありがとうございます。面白かったと思っていただけた...!と喜んでいます。

感想ありがとうございます。心優しい感想にいつも感謝しています。本当にありがとうございます。励まされます。

疑問なども是非是非。新たな気づきとさせていただきたいです。

長々とすいません、最後にもう一度。この短編を読んでいただき、ありがとうございます。

2023/10/13 誤字を訂正しました。誤字報告ありがとうございます。

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