第六話 鳥島の静けさ
幽霊だからと言って太陽が沈んでから活動を始めないといけないという決まりはない。現にこうして私が日中も活動しているというのがその証拠になると思うのだが、私以外の幽霊さん達も意外と時間に関係なく活動しているのだ。
夜になった方が人間の神経が研ぎ澄まされるのか幽霊側のアピール力が強まるのかわからないけれど、そこに幽霊がいると認識してもらえる確率も上がっているのだ。もしかすると、夜になると見える世界が狭くなってそこに幽霊がいるという事が認識しやすくなっているだけなのかもしれないですけどね。
「この島に無数にある鳥居なんだけど、一つ一つに何か印が彫ってあるんだよな。他のところの鳥居をじっくり見た事が無いんでコレが普通なのかわからないけど、鳥居ってこういう風に何か印をつけるのって普通なのかな?」
「どうなんでしょうね。僕はこんなに近くで鳥居を見た事が無かったのでわからないですよ。もしかしたら、何か特別な意味とかあるのかもしれないですけど、それが何なのかは僕にはさっぱりわからないですね」
私も鳥意をじっくり見た事が無かったので知らなかったけど、真白先生が見つけたこの小さな違いが重要なのかたまたまなのかわからなかった。どの鳥居も大きさも形も似ているので違いと言えばその印だけなのだけれど、建てる順番や場所の目印くらいにしか意味がないような気もしていたのだ。
「今の話声は聞こえた?」
急に真白先生がそう言って人差し指を唇に当てて静かにするようにという仕草をしてきたのだけれど、私には真白先生が聞こえたという話声は聞こえなかった。それは忍さんも同じだったようで、目を少し見開いて辺りをきょろきょろと見まわしていた。
「今度も機械っぽい声だったんだけど聞こえなかったんだね。この近くから聞こえてきたと思うんだけど、ヒナミにも聞こえてないって事は幽霊とは違う感じなのかな」
『私にも聞こえないって事は幽霊とも少し違う感じなのかもしれないですけど、真白先生にだけ聞こえるってのも不思議な話ですね。もしかしたら、その声の主は真白先生だけに来て欲しいって思ってるんじゃないですかね』
「俺だけに聞こえる声。会話が出来れば理由も確かめられると思うんだけど、今のままではそう言うのも無理そうなんだよな。この辺りから聞こえてくるとは思うんだけどね」
「僕が鵜崎先生から離れたらはっきり聞こえるようになるんですかね。もしそうだったとしたら、鵜崎先生からちょっと離れて行動してみようと思うんですけど」
「そうだね。ちょっと確かめてみようか。何かあっても困るから気を付けるんだよ」
「はい、この島には生き物も生息してないし、安全だと思うけど気を付けますね」
私と真白先生は忍さんが先へ進むのを見守っていたのだけれど、真白先生は私に向かって忍さんの方へと行くようにと手で合図を送ってきた。
「何かあったら困るから忍さんの様子を見守っててくれ。何も無いと思うけど、万が一という事もあるからな」
『わかりました。でも、真白先生も気を付けてくださいね』
それほど大きくない島を一周するのはそれほど時間がかからないと思うのだけれど、道がちゃんと整備されているわけではないので歩いて渡るのは意外と時間がかかるみたいだった。
鳥居の周りは不思議と草木も生えていないのだけれど、ちょっと離れた鳥居に向かうにはちょっとした茂みをかき分けていかないといけない。風の影響なのか草はほぼ海側から中心にむけて斜めに生えているのでそこそこ歩きやすそうに見えるのだが、それなりに足をあげて草を踏み越えなければいけないのは体力を使ってしまいそうだ。
後ろを振り向いても真白先生の姿が見えないので結構な距離を進んできた。緩やかな上り坂を進んできたのだけれど、一時間近くも歩いていたという事もあって海面からの高さもそれなりになっていたのだ。
「この島にくるのは久しぶりだけど、景色はいつも変わらないんだな。反対側だと亀島があるのがわかるのに、こっちにいると海しかなくて何も見えないってのが不思議だな。今日は天気もいいし、いつも以上に綺麗だよね」
『本当に綺麗ですね。こんなにキラキラしている海を見るのは初めてかもしれないです』
私には忍さんの声は聞こえているのだけれど、忍さんには私の声は届いていないはずです。それなのに、思わず私は忍さんに返事をしてしまいました。届いていない返事に忍さんが返してくれるはずもなく、ほんの少しの休憩の後にまた忍さんは前へと進んでいったのです。
真白先生から離れるという目的だけで進んでいるのですが、鳥居がある場所を真っすぐと進んでいった結果は島の中心部にたどり着くのでした。
この島で一番高い場所にあるのは鳥居なんですが、その鳥居は今までくぐってきた鳥居とは違って腰を曲げなければ通れない位小さいものが八基中心を囲むように並んでいました。その中心に何がるのだろうと思って見てみたのですが、そこには普通の地面があるだけで、これと言って何か特別なものが祀られているという事も無かったのです。
「ここからだと亀島も見えるんだよね。他には何もないのがわかるんだけど、もしかしたらこの世界に取り残されちゃったのかな。なんて考えたりもするよね」
この位置からだと海を見渡すことも出来るのですけど、忍さんの言う通りで亀島意外な何も無い綺麗で落ち着いた海が広がっているだけですね。船も飛行機も通ってない静かな空間なんですけど、風の音も鳥の鳴き声も聞こえないってのは違和感しかありませんでした。




