陰キャな幼馴染が俺好みな”オタクに優しいギャル”になって迫ってきたんだけど…
「い、いえーい……オタクくんみてヴォエッ」
突然の嘔吐。
今日は俺、大道心の家に幼馴染が来るとだけ聞いていた。
けど……明らかに姿が違う。
「どうした……影子」
「ふ、服から溢れる陽キャオーラに拒絶反応が……」
「イメチェンにしては勢い良すぎだろ……一瞬誰かと思ったじゃねえか」
背中をよしよしさすり、落ち着かせる。
彼女は夜宮影子、俺の幼馴染だ。
幼馴染といえば、いつも世話を焼いてくれる明るいクラスの人気者、なイメージがあると思う(偏見)
だが影子は違う。
超が付くほどのド陰キャコミュ症で友達も俺以外いない。
好きなものはアニメとゲーム。
格好もゆったりとしたシャツ一枚とデニムパンツが休日のデフォ。
世話は……どちらかと言えば俺が焼いてる気がする。
なのにどうした。
下に降ろすだけだった黒い髪は、やや派手なヘアゴムでまとめたサイドテールに。
シャツ一枚のラフスタイルから着崩した制服姿な上、スカートも校則違反レベルで短い(今日休日なのに)
メイクも……かなり頑張ってる、かわいい。
と、影子はいわゆる”ギャル”のような格好で俺の前に現れた。
「と、とりあえず休むか? それともいつも通り遊ぶ?」
「遊ぶ……ゲームは陰キャにとっての薬だから」
「医者からぐーで殴られそうな薬学だな。まぁ準備は出来てるからあがれよ」
「うい」
落ち着いた影子と共に家の中へと入る。
……深くは聞かないでおこう。
変に小突くと、色々気にして落ち込むかもしれないし。
昔の自分から変わりたい、なんていうのは良くある話だ。
なら、俺はいつも通り接してあげるのが妥当だろう。
気になるっちゃ気になるけどね。
◇
「だー!! その即死コンボマジキツイって……」
「ふっふっふっ、ロマンこそ至高」
「操作難易度鬼なのによく実戦で出せるよなぁ」
いつも通り、二人で対人格闘ゲームをやる。
あれだ。スマッシュしまくるブラザーズ的なゲームだ。
「あ、ど、どうしたオタクくーん……」
「……」
「?」
その雑ギャル語録は何?
ぎこちないピースはかわいいけど、少し引っかかる。
……仕方ない、触れておくか。
「その、色々とどうしたんだ?」
「どうしたって?」
「ほら、服装とかさっきの言葉とか……いつもと違うからさ」
「あー……これ」
「言いづらいなら言わなくてもいい。ただ、どうしても気になってな……すまん」
「大丈夫……全部言う」
すーはーと呼吸を整え、言葉の準備をしている。
しかし、何があったんだろうな。
影子と昨日ボイチャで話していたけど、特に変わった様子はなかったし。
いや、俺に悟られないよう隠していたのかもしれない。
陰口やいじめ等、人に言えない悩みはある。
影子は周りと馴染むのが苦手で、クラスでもやや浮いた存在だ。
俺に言えない事も、それなりにあってもおかしくない。
なら、俺は彼女の悩みを聞き、真剣に答えるべきだろう。
俺の覚悟が決まったのと同時に、影子の口が開いた。
「心は……ギャルが好きだよね?」
「ん?」
「……好きじゃないの?」
「いや、好きだが……」
「だよね……」
どういうこと?
急に俺の好みについて聞いてきたよ?
まぁギャル系は漫画とかでよく読んでるけどさ……
「心がギャル好きだから、なってみた」
「なるほど?」
「どきどき、する?」
「……する」
「ぽっ」
なんだよこの空気!!
悩み等で重くなるどころか甘々になりやがって!
「心が読んでる漫画でオタクに優しいギャルが出てたから、気に入るかなって」
「あーうん……オタクの理想だからな、色々刺さるんだよ」
「そして目の前にモノホンが現れました。感想は?」
「最高です」
「……えへへ」
にへらぁと崩れた表情。
影子は元がいいから、整えたらかなりの美少女になると思っていた。
それに加え、俺好みの格好をしているので、ね?
後は普段より色んな所が露出してるから俺の本能が刺激されて……
うおおお落ち着け俺、一旦冷静になって聞きたい事を聞こう!
「か、影子は何か悩んでいたわけじゃないのか?」
「悩み? うーん、一応ある」
「あるにはあるか……そうだよな」
「あ、でもいじめとか陰口とかそういうのじゃない」
「ならよかった」
とりあえず悩みはあるらしい。
影子の様子を見る限り、少し気になる程度だろうか。
「えとね……私のせいで心が友達出来ないんじゃないかって……」
「え? どうしてだ?」
「心が私以外と話してる所、見たことない。もしかしたら私に気を使ってるんじゃないかって……」
「ふむ?」
「だから見た目だけでも陽キャになれば、皆から好かれて心も安心するかなって……」
そういう事か。
確かに俺は学校でも影子以外とあまり絡んでいない。
いや、話はするけどね?
ただお昼とか放課後まで一緒にいるのは影子くらいだ。
一応、それにも理由があってだな……
「それは、影子といる時が落ち着くからだよ」
「え?」
「周りもいい奴だけど趣味が合わなかったりしてな……影子は付き合いも長いし気が合うから」
「そう、なの?」
「おう。いたくて一緒にいるだけだ」
「っ!!」
急に顔を赤らめる。
なんだかんだ影子とは十年以上一緒にいる。
それだけ長くいたらお互いの事も理解してるし。
なんなら趣味もたまたま似てしまったし。
結果的に一緒にいて一番落ち着くのが影子だったってだけだ。
だが、俺の言葉は影子にとってかなり深い意味に捉えたようで
「それ……告白?」
「っ!?」
「だって、だって……!!」
そうか、そうだよなぁ。
考えればさっきの発言もそう思ってしまうよな。
うーん、影子をか……
幼馴染とはいえ、今まで異性として見たことはあった。
それなりの美少女だし、気も合うし、出てるとこは出てるし……
うん、覚悟を決めよう。ここで誤魔化すのは影子に申し訳ない。
改めて考え直し、俺の中で結論を出した。
「そうだよ」
「……!!」
「関係が大きく変わるとは思わないけど、影子となら楽しそうだと思った」
「心……!!」
「大好きだ、影子。付き合おう」
「うん♡」
お互いの両手を重ね合う。
温かい……何度も触れたことがあるのに、今はいつも以上に意識してしまう。
「そうだ、心」
「?」
「もっと、見ていいからね?」
「何を?」
「胸と足とか……今日いっぱい見てた」
「あっ」
「怒ってないよ?」
やばい、バレた。
影子の服はいつも以上に胸や足の肌色が多い。
だから意識しなくても……見てしまう。
見るたびに罪悪感は感じていたが……
「いいよ、前から視線は感じてたし、心なら嫌じゃないから」
「……ありがとう」
「後、私がスカートを履いてる時、パンツ見てた事も知ってる」
「ごめんなさい本当にごめんなさい通報だけは勘弁してくださいお願いします」
「ふふっ」
えっとですね、見ようとして見たわけじゃない事は弁明しておきます。
階段を上がるときとか、
膝を曲げて座っているときとか
だらしなく横に寝そべってる時とか
そんな時、たまたまスカートの中が視界に入った時に、少しだけ長く覗いてしまって……
はい、アウトですねすみません。
とりあえず、女性は他人からの視線に鋭いというのは本当みたいだ。
男性特有の本能とはいえ、気を付けないと……うん。
というか影子はなんで嬉しそうなんだ?
やけに笑顔が多いし……と、俺の耳元へ近づくと
「今日のパンツはピンクだよ」
「!?」
衝撃の事実を囁いた。
「どきっとした?」
「した……」
「心も男の子だからね……ふふ」
幼馴染が見せる”女性”に俺は引き込まれていく。
ここまで影子が色っぽく見えてしまうなんて。
嬉しいけど、これが毎日続くとなると……俺の本能が爆発しそうだ。
汚い男性でごめんな……
だが俺は思う。
見た目も、趣味も、性癖に寛容な所も。
今の彼女のムーブは漫画で読んだ”オタクに優しいギャル”に似ていると。
人によって意見は分かれるけどね。
「だいすきだよ、心」
まぁ、幼馴染のこういう一面も大好きだ。
赤らめた顔で愛を伝える影子を愛しく思い、いつもより少し進んだ会話をして今日を過ごした。