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踏み出したリアナとそれぞれの想い


 ラミはリアナを探し回ったが結局見つけることが出来ず、仕方なくザッカス島に戻って治療を受けた。

 戦いから戻った艦隊は島に停泊して、ある程度修復を行ったのちに海賊島とマルテ国へ戻る。

 サヘルとの戦いに決着が付いた今、ラミは本国マルテへ戻らなければならなかった。


「ラミ様、海賊島はどうなさいますか?」

「あそこはあのまま、島の巡回などを行う軍の拠点にするつもりだ。

 ずっと海賊ごっこをやっていたかったけど、父上がそれを許さない」

「あ、あたりまえです! ラミレス様はマルテ王国の第1王子なんですから!

 こんな危険な任務だって他のものにやらせればよかったのに……」

「フフ、久しぶりにその名前で呼ばれた」


「もうじきご結婚も控えておいでですから、とにかく身の安全を第一にと王妃様から強く申し付かっておりました。

 それにしてもイレイア様が海賊島にいらしたときは本当にびっくりしました。

 私船でいらしたんですよね。よほど心配だったんでしょう」


「そうだね。とても心配していたよ。

 あーあ、このまま海賊になってしまおうか。

 アーミルはついて来てくれるかい?」

「はっ? 何の冗談ですか? 甘い新婚生活より海賊を選ぶんですか?

 やめて下さい、私が王妃様に殺されてしまいます!」

「アハハ、冗談だよ。 アーミル、君には本当に感謝している。

 城に帰ってもよろしく頼むよ」

「はい! 心得ております!」


(さて、逃げ出す方法はなにかないものか。リアナ、君に会いたい。どこでどうしている……)

 ラミは先のことはともかく、リアナの無事をこの目で確かめたかったのと、安全に暮らせる場所を確保してやりたかった。


 ◇


 2日後の船でカシャハ村の港を出航し、ベハシャ大陸へ向かった。

 アエロで行くことはできたかもしれないが、シンシアと一緒に乗るはずだった船に揺られてみたかった。

 商用の貨物船は乗船の際の検査が甘く、どこかの商人の一行に紛れてしまえば乗れてしまう。

 だが下船する際は身分証や持ち物など詳しく調べられる。

 港から船が離れていくほど、気持ちが少し楽になる気がした。

 ターマニス大陸を脱出してしまえば、さまざまなしがらみや未練から解放される気がした。

 そこに寂しさがなかったわけではないが。


 船が到着する国は、ベハシャ大陸のスバルクス国。

 バンデルクの任務用に持っていた、商人の身分証と商業ギルドの組合員証商用を見せて下船した。

 シンシアと一緒だったら、島が見えたら杖で飛んで、どこかからか侵入するつもりだった。

 そこは国の中で一番小さなサンガス領内にある港町、ボールバンス村。

 たくさんの商船が並ぶその港に降り立つと、あまりの監視塔の多さに驚いた。

(港にこんなに多くの監視塔が……。海賊のみはりかしら?)


 不思議と追われることの不安がなくなり、全ての足かせがとれたような気がした。

 大勢の荷役が動き回る港の一画に、クッパスという食事処がある。

 開いた窓から見える店内は客がいっぱいで、外の席でもたくさんの人が食事をしていた。

(人気があるってことは、おいしいのよね?きっと)


 店に入ってキョロキョロと辺りを見回していると、給仕の獣人族の女の子が声をかけてきた。

「お客様、ここはじめてでしょう?

 ここね、前払いなんですよ。

 食い逃げが多いからこの辺の店はみんな前払いですよ!

 あっちのカウンターの端っこでメニュー決めて、支払いを済ませたら適当に座ってくださいね!」


 その会話を聞いていた風体のよくない男たちが目配せをし合っている。

 知らない人との相席を避けたかったため、支払いを済ませるとカウンター席に座った。

 隣にはフードをかぶったまま食事をしている女性がいて、リアナは声をかけた。

「あの……。少し聞きたいことがあるんだけど。いいかな?」

「はい、どうぞ」

 その女の子はフードの隅からチラッとこちらを見ただけで食事を続けながらそう言った。


「港にやたら監視塔が多いんだけど、海賊でもくるの?」

「ああ、ここへ来たのは初めてですかね。

 この国は海に面している場所が多いので海賊、海獣、他国からの攻め込みなど海から来るものに対しての警戒が強いのです。

 でもここいらは、陸にいるものには甘いです。

 港付近にいるゴロツキは、始めてここに来る人を狙ってますから気をつけた方がいいです。

 逆に繁華街は、びっくりするほど警備が厳重です。言い換えれば安全」

「なるほど……。ありがとう」

 その女の子は、そのあとすぐに食事を終えて店を出ていった。

(食事を終えたら宿を探さなくちゃ……。あと地図がほしい)


 さっきまで女の子が座っていた隣の席に、大柄な男が座った。

 人相、風体はあまりよくない。

「この町は始めてかい? 案内してやろうか?」

「結構です」

 その男をさけて反対側から席を立とうとすると、後ろにいた男が片腕を伸ばしカウンターに手をついて行く手を阻んだ。

 リアナはとっさにその男の腹に手のひらをあてると軽く念波を押し出した。

 腹からくの字に折れ曲がった男は、背中からすべっていって、店の通路の端で頭をぶつけて止まった。

「お……おめぇ、何しやがった」

 大柄な男はそう言ったまま動けず、ころがった仲間の様子をただ眺めている。

 そのすきにリアナは足早に店を出た。

 はっと我にかえった大柄な男はリアナを追いかけた。

 ここで騒ぎを起こしてもまずいと思いすぐに飛び立とうとした。

 来て早々アエロを出すわけにも行かずステッキを探したが見当たらない。

 仕方なく走って逃げ出した。


 店から出てきた男が大声で叫んだ。

「まてこのやろう!誰かそいつをつかまえろ!」

(ど……どうして!私がなにかの犯人みたいじゃない!)

 男の仲間らしい魔法士が、杖に乗って追いかけてきた。

 手のひらを向け念導で念波を相手にぶつけると、杖ごと吹き飛び近くの家の壁に叩きつけられて落ちた。


(繁華街は警備が厳重って言ってたけど、どこが繁華街かわからない!)

 とにかく港を背にまっすぐ高台へ向けて走っていった。

 だんだんと商店の数が増えて、その先に大きくてド派手なアーケードの看板が見えた。

 そこには『繁華街』と書いてある。

(そ、そのままだ!)

 そこに入っても愚連隊は追いかけてきたが、警備兵を警戒しているのか、走ったり止まったりを繰り返している。

(うわぁ、面倒くさい! 仕方ないどこかで倒すしかないわね)

 近くの路地に入りそこを抜けると、町の中を通る河川の船着き場に出た。

 人が歩く道からはかなり低い位置にあり、荷揚げ用の広く平らな場所もある。しかも誰もいない。

(ここなら少々騒いでも大丈夫そうね)


「このやろう変な魔法使いやがって。 役人につきだしてやる!」

(なんで私が役人に!)

 リアナは足を止めてくるりと振り返った。

(6人。ステッキ1、ダガー2、大刀3。少しこらしめてやる!)


 両手を広げ川の水を持ち上げると大量の氷のつぶてにして全員にぶつけた。

「あいて! いてぇな!」

 氷のつぶてをよけるために手足を動かしてそれでも防ぎきれない愚連隊の姿をみていたらリアナは少し楽しくなってきた。

 荷物のそばのロープでお尻をたたいたり、積み荷から見えていた果物をぶつけた。

 仕上げに念導で全員吹き飛ばし、愚連隊は酒樽にぶつかって倒れた。


「あー! わかったよ! もういいよ悪かったよ、降参だ降参」

 大男がそう言うと、他のメンバーもしぶしぶ引き上げていった。

 その時パンパンと大きな拍手の音が聞こえた。

 見上げると上の歩道から誰かがこちらを見ている。

 よく見るとさっきクッパス食堂で会った女の子だった。


「いいですねぇ、あなた。友達になりましょう!」

(ええ?なんか一方的なんだけど)

 リアナがなんと答えようか迷っていたそのとき、女の子が振り回すステッキが目に入った。

「あれ?!それってもしかして私のステッキじゃないの?」

「フフフ……」

(しまった、すられたの!まったく気づかなかった。気が緩みすぎ!)


「やっすいステッキ持ってるなーって、思ったけど。

 あなたにはこんなもの、必要ないってわけですね」

「ちょっと!返しなさい!」

 歩道の手すりに片手をついてふわりと飛び降り軽く着地した彼女は、すっと手を差し出してきた。

「シーラです、どうぞよろしく!」

 これがエルフ族シーラとの出会いだった。


 ◇


「ユベール!」

 金髪のくせ毛をツインテールにしたメリッサが走って来た。

 立ち上がったユベールの胸に飛び込むと息を切らせながらユベールの腰に手をまわす。


「そんなに走らなくても……」

「はあ、息が切れましたわ!早くユベールに会いたくて走ってきたのです!」

「あ、ありがたいけど、でもちょっと……手は放してくれるかな?」

「もう、本当なら逆がいいのに!」

 そう言ってメリッサは仕方なく手を放した。


 メリッサは子供のころからユベールと結婚すると言ってきかなかった。

 家は侯爵家で父親は貿易や事業も精力的に行っていて他国の有力者との太い人脈をもっている。


(リアナとは数回しか会っていないのに互いの心が通じ合えた気がしていた。

 私の心にはリアナしかいない。

 他の人が割り込む隙はどこにもないが、でも誰かを選ばなければならない。

 メリッサはずっと私のことだけを見つめて想ってくれている。

 もしも……リアナが私のことを想っていてくれたとしても、メリッサの気持ちにはかなわないだろう。

 結婚をして戴冠式を終え王となるためには、本当の気持ちはしまい込まなければならないんだろうか)

 

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