白いアエロを持つ人
船から港へ降りる際、ヨーゼフからもらった木片を見せると、身分証や持ち物の検査はなかった。
詳しくは言えないが俺の連れにはチェックが入らない、とマーシャルが言った。
(ヨーゼフの木片をつけているからじゃないってこと?
マーシャルの連れだからと言う理由でそうなるなんて……やっぱりなにか隠している。
まさか海賊もやっていたとか?)
屋根のない木製の乗り物を引っ張って、大きなトカゲのような魔獣が走ってきた。
ためらうことなく乗り込んだマーシャルに習って、リアナたちもそれに乗り込んだ。
港から島の中央にあるカマラ城と呼ばれる海賊団の城へ、その乗り物で運ばれる。
通り過ぎていく町の景色は、今まで見てきた諸国の街並みとなんら変わりはなく、違うことと言えば多くの獣人が行き来し、見たことのない魔獣が使われていることだった。
それと海賊の服装ばかり。
城に着くとリアナとキーシャは別室に連れて行かれ、キーシャはステッキを没収された。
「あんれぇ、こっちのお姉ちゃんは丸腰だね」
「ア……ハハ……」
(笑ってごまかすしかない。ステッキがなくても魔法が使えるなんて言えない)
◇
ラミの側近の1人アーミルの執務室へ、ラミへの面会を求めて来島している者たちがいると連絡が入った。
「ヨーゼフの船が連れてきたので、条件はクリアしてるってことでしょう」
「へえー。ガタルンドの諜報員2人がラミ様と話がしたいとは。
取引の内容書はまだ向こうがもっているのか?」
「ええ。通常の交易なら荷役のときに確認するものなんで、あえて見せろとは言わなかったんですが。
でも今回はラミ様への面会ですからねえ。どうしたものか」
アーミルは机に肘をつくと手を組み何か思案している。
「まあ人数が少ないから大丈夫だとは思うが。
1人は丸腰ねぇ……それでも戦えるってことか?
本当に諜報員なんだろうな。偽物なら魚の餌だ。
女の方に仕掛けてみてくれ」
「はっ、アーミル様」
◇
キーシャが他の部屋に連れ出され、リアナが1人になった部屋に、突然5人の男が入って来た。
リアナは椅子から立ち上がり窓を背にして身構えると、瞬時に相手を観察した。
(短剣4名、あと1人はステッキ。 魔法攻撃がくる!)
『アエロ来て!』
透明な姿のアエロが現れた
いきなり1人が殴り掛かかってきた。
(な……なぐってきた? 武器を使わないの?)
とっさにテーブルの上のコップの水を凍らせ目にぶつけ、手を大きく振り上げ床に敷かれたカーペットを引き抜いて海賊3人をひっくり返した。
すかさず片手で空を切り、壁にかかっている燭台を立っている2人にぶつけた。
「なっ! な……なんだこいつ! 何しやがった!」
(武器も使わず、魔法攻撃もしてこないってことは私を試している?)
『アエロ!』
部屋の中でいきなり姿を見せた大きなアエロに5人とも驚いてしりもちをついた。
「こ、こいつ……ラミ様と同じ……」
アエロに飛び乗ると壁とドアを壊して城のなかの通路にでた。
外に控えていた海賊は、壁を破って飛び出してきたアエロに驚きながらも、リアナを止めようとよってたかって飛びついてくる。
(やはり私を傷つけようとしているわけではなさそうね)
アエロは向かってくる海賊を鋭い爪で捕まえて、反動をつけて他の海賊にぶつけた。
何ごとがおきたのかと続々と集まってくる海賊たち。
後からでてきた海賊は完全にリアナを敵とみなし、本物の剣を振り回している。
(まずい、本当の戦いになっちゃう。相手を傷つけるわけにもいかないし……)
リアナは手首で空中をはらうような仕草をして、海賊のターバンを魔法でほどくと、相手の手を縛り上げ床にたたきつけた。
それでもあとからあとから押し寄せる海賊をさばききれない。
こんなふうに追い詰められた経験も無く、だんだん頭にきたリアナは感情にまかせ怒鳴った。
「あっちに行って!」
その途端、そこにいた数名の海賊が吹っ飛んだ。
(え……今のなに? 私がやったのよね……こんなことができるようになったの?)
それをみた海賊たちがたじろいでいる。
その隙を見て城の入り口目掛けて降下すると、扉をやぶって外に飛び出しすぐに急上昇した。
(ど……どうしよう、どこに逃げれば。このまま戦い続けちゃだめ。
マーシャルに我慢しろと言われていたのに……。
私のせいでみんなが危険になる)
下へ下りて謝るべきだとわかっていたが、城の一番高い塔の上に落りてそこでへたりこんだ。
(なにやってるの私。完璧に冷静さを失っていた。
ちゃんと任務をこなさなきゃいけないのに……全然成長できていない。
本当に……ダメだ!)
ひざを抱えて泣きそうになっていると、鳥の羽ばたきが聞こえた。
顔をあげると正面から真っ白な鳥が。
「ア……エロ?」
白いアエロに乗った人が真っ直ぐこちらへ向かってくる。
すこしオレンジに染まり始めた海からの光を背中に受けて、長い髪をたなびかせながらその人はリアナのもとに舞い降りた。
「やあ」
敵か味方かわからず距離を取りにらみつけた。
「そんな怖い顔をしないで。 君の水色のアエロ……きれいだね」
ユベールを思い起こさせる深い青色の瞳と銀色の髪、そしてやさしげなその微笑に、リアナの警戒心は解かれていく。
「私はラミだ」
そう言って差し出された手にリアナは恐る恐る手を重ねた。
「リ……リアナと申します」
その瞬間、手をグイと強く引かれ、抱きしめられた。
「ようこそ、リアナ」
「あ……ちょっ……あの、放して……」
「いやだ」
「アエロ!この人を捕まえて!」
焦ってアエロに命令したが、アエロはまったく動かない。
「あれ、知らなかったの? アエロを持つ者同士は互いに攻撃できないんだよ」
そう耳元に唇をつけてささやかれ、力が抜けてしまったリアナは、どうすることもできず泣き出した。
声をあげて子供のように泣きじゃくるリアナに焦ったラミはすぐに手を放した。
「あっ、ごめんね。悪ふざけが過ぎた。 ほんとごめんよ! もう泣かないで」
リアナはその場に座り込み、また膝をかかえると、もう顔をあげることはできなかった。
抱きしめられたことも耳元で何かをささやかれたことも初めてのことで、この感情がなんなのか理解できなかった。
ただものすごく恥ずかしくて、ラミが早くどこかに行ってくれないかとそればかりを願った。
「ラミ様!」
大声で叫びながらアーミルが杖から屋根へ飛び降りた。
「アーミル……。泣かしちゃったよ」
「ぶっ……。 あ、その、申し訳ありません。
この騒動を起こしたのは私なので……その、お許しください」
「じゃあ罰として、この子を慰めてね。私の客人だから」
「はっ、承知しました」
ラミはリアナの頭に手を置くと、白いアエロで去って行った。
「ごめんね。私もこれが仕事なものだから……って、そんな言い訳は通用しないね。
方法が間違っていた。ほんとうにごめんなさい」
アーミルが謝ってきたが、海賊たちとの諍いのことなど気になっていなかった。
それよりも今起きた衝撃的な出来事で頭がいっぱいだった。
「いえ、気にしていませんので」
ひざのなかに顔をうずめたままリアナは答えた。
アーミルの執務室へ連れて行かれるとそこにキーシャがいた。
キーシャはため息混じりにリアナのあたまを小突いた。
「ったく。 大丈夫だったか?」
「はい……」
アーミルが準備した暖かいお茶を飲み、だいぶ心が落ち着いてきたころ、ドアが勢いよく開いてマーシャル兄弟が中に入ってきた。
「大丈夫かリアナ!」
マーシャルはリアナの手を取ると立ち上がらせてあちこち見て回った。
「クスッ……」
思わず笑ったリアナの姿を見て、みんな一様にほっとして、笑顔になった。
「はぁー、聞いてびっくりしたぜ。大立ち回りだったそうだな」
マーシャルがそう言いながらソファーに腰かけた。
「今、ラミ艦長にこっちの考えを説明してきたよ。
仲間の了承を得るためにも、具体的な計画を教えて欲しいってさ」
チャドがそう言いながらリアナの頭をポンポンとたたいた。
「ラミ艦長がこちらの話を聞いてくれたのか。随分あっさりだな。
気になっていたんだが……というかものすごく奇妙なんだが、みんなまるで軍人だ。
とうてい海賊とは思えない。
なにを隠してるの?アーミル、それとマーシャル兄弟」
ギクッっとした3人は顔を見合わせた。
アーミルは1つ咳ばらいをして姿勢を正した。
「いろいろ事情があるのですが、必要に応じてラミ様がお話になると思います」
「へぇー、てことはやっぱり隠し事があるんだ!
まあそれを認めたからラミ艦長からの説明を待つよ」
マーシャル兄弟は苦笑いをしている。
「あの、そちらの計画について……あくまで私見ですが。
ルルクスとサヘルを止めることができるならラミ様だけじゃなく仲間たちみんなも賛成すると思います。
我らの狙いはサヘル艦隊です。
計画を説明するときは、あなたがたの計画が、こちらの意向をくんだものであることを強調するのがいいかと。
そうでないと、自分たちはいいように利用されるのではないかと疑念を抱きます」
「ありがと、アーミル。すごくまともだよね、君。
やっぱり海賊じゃないね。 アハハハ」
キーシャにそう言われたアーミルの顏が真っ赤になった。
計画の説明は明日になるはずだから時間や場所は追って連絡するとアーミルは言った。
「ああ、それと胸にさげているその木片でどこの店も無料になりますので、夜の港町を楽しんでください。 では」
そう言ってアーミルは部屋を出て行った。




