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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

混血の女吸血鬼は命を懸けてでも医者として暮らしたい

作者: ドードー

 私の名前は宮下理沙、ある夜間病院の院長をしている。そんな私には、ある一つの秘密があった。

 それは私が吸血鬼と人間のハーフだということだ。この生まれのせいで私は太陽の元に出るだけで数分で大火傷をし、腸が短いため野菜を食べるとお腹を壊してしまう。

 だから私は病院の営業を夜間に絞り、食事も他人とは共にしないようにしている。付き合いが悪いだのなんだの言われるが命に関わることなので知ったことではない。

 しかし、正直なところ医者の仕事は吸血鬼には全く向いていない。

 その代表的な例が赤十字だ。私は長年の努力で赤十字を見ても問題はないが、それでも赤十字を私にかざされるとそれだけで体力が多少奪われてしまう。

 それでも私は医者がやりたいのだ。理由は単純で、昔人間の医者に命を救われたからだ。

 そんな私は今、夜の病院で勤務をしている最中だ。今日の手術は皮膚癌の切除手術で、位置的にかなり難しいがそこは私の腕の見せ所だ。

 「宮下先生、そろそろ手術のお時間です」

 「ああ分かったよ、今行く」

 私のことを従業員の一人である甲斐麻里香が呼び、私は座っていた椅子から立ち上がった。




 

 それから数十分後、私は手術台の横に立って手術を始めていた。患者は初老の男性で、今は麻酔によって眠っている。

 「それではオペを開始する!」

 私はメスを使い、慎重かつ素早く男の腹をできるだけ血が出ないように切り裂く。

 それでも多少血は出てしまうが、それは当然の話だ。大量に出なければ問題はない。

 ただし、それは私以外の話だが。

 ハーフとはいえ私も吸血鬼、当然血は生命維持に欠かせない上、それに対する欲求もある。

 だから私は血を見るとそれだけで舐めたくなる衝動に駆られるのだ。

 耐える為に豚の血を軽く飲むなどの対策はしているが、満腹だろうとおいしそうな物は食べたくなるものだ。  


 私はその欲望をなんとか耐え凌ぎ、男の手術を仲間と協力して一時間半で終わらせた。

 高い体力と精密な動きができるのは間違いなく私の生まれのお陰なので、その点は感謝している。

 しかし、真の本番はここからだった。

 「宮下先生、急患です! 交通事故で女の子が重症を負いました!」

 「分かった、今すぐ向かう!」

 私は件の少女の元へと急ぎ、手術室に入る。少女は応急手当である程度止血をしているものの、傷は当然塞がっていない。

 「まずいな、いくら何でも出血量が多すぎる」

 私は独り言を呟く。正直既存(・・追加)の医学ではこの子を助けることは敵わない。一目見れば分かる、完全に手遅れだ。

 「……縫合する。縫合糸を寄越せ」

 「わ、分かりました」

 周りの人間もそれを察しているのか、暗い雰囲気が漂っていた。

 私は少女の傷を縫合すると同時に、こっそり傷自体を小さくし、少女の血液を操作して強制的な止血をした。

 加えて私自身の力で作り出した血液を少女に投入し、失血死を防いだ。

 こうして私は無事に少女の手術に成功することができた。

 他の従業員達も同時に手術をしていたので、バレずにかつ少女を生かす調整はとても大変だったが、それで少女が生きられるのであれば何も思わない。

 それから私は事務的な業務をし、朝になる前に病院から出ていった。普段から飲み会などは断っているので誘われることもない。


 そうして私が病院の駐車場に出た時のことだった。突然、私の頬を銃弾が掠めたのは。

 「チッ、確かに頭を狙ったつもりだったんだがな」

 私は声のする方を向くと、そこには掃除屋の服を着た男が立っていた。男は手にサイレンサー付きの拳銃を持っていて、こちらを睨んでいる。

 「……ハンターか、嫌なものね。私が何をしたというのかしら」

 私は目の前の男を見てそう呟く。男は恐らく吸血鬼ハンターだ。私には多少なりとも懸賞金が懸かっているらしく、たまにこうして襲われる。

 もっとも、私は何も悪いことはしていない。人の血を無断で飲みはしないし、人殺しもしていない。ただ医者をやっているだけの吸血鬼だ。

 「ふん、俺はお前に恨みなんかねーよ。ただ化け物なぶって遊ぶついでに金が稼げりゃ文句なしさ。おいお前ら、やっちまえ!」

 男の掛け声と共にどこからか人相の悪い男達が出てきて、私に銃を向ける。

 「一人の女性に大勢で銃を向けるなんて最低だと思うけど?」

 「お前は女性じゃない、吸血鬼のメスだ。つまり何も問題はない」

 男達は私を警戒しているのか、緊張した様子で拳銃を構えている。

 私を化け物扱いし、殺そうとするのは人間だ。ただ私を助けたのもまた人間で、母が愛したのも人間だった。

 何でも人間人間人間、つぐつぐ嫌になる。もし私が人間なら命も狙われず、友人にも恵まれたのだろうか。

 知ったことか。私は元より純粋な吸血鬼ですらない。人、吸血鬼問わず来る人は助け、阻む者は全員倒してしまえばいい。

 「そう。なら私は法で裁けないわね」

 私はそう言ってメスで自らの人差し指を切り落とすと、空に血で魔法陣を描いた。


 私は取り込んだ血液を魔力に変え、魔力を更に変換して生命維持に必要な物質にすることで生活をしている。

 ただ私は純粋な吸血鬼とは違い、肉などは食べることができる。

 それ故魔力の余る量が純吸血鬼より多く、その余った魔力は脂肪のように私の体に蓄積される。

 そして今。私はその魔力を出血した血液に注ぎ込んだ。

 「まず――」

 男達が私に向けて発砲するよりも早く、私は魔法を発動させた。  

 次の瞬間、男達は一人残らず地面から生えてきた無数の杭に刺され、持っていた武器を手に落とした。

 「この魔法には殺傷力はない。ただ確実に敵を拘束し血を吸い取る」

 私はそう言って男達の血液を吸収し、ペットボトルに入れた。

 「く……そ……この化け物が!!」

  最初に襲ってきた男が私にそう吐き捨てる。

 私は呆れた顔で男を見つめると、男達全員に私の血を付着させた。

 「あなた達は今から私に対する一切の事を認識できなくなり、すべてを忘れる」

 私は男達に催眠魔法を使用し、男達をそのまま放置して家に帰った。

 魔法の杭はそのうち消え、男達は自分達が何をしていたかも分からず帰宅するだろう。


 私の家は森の地下にあり、できるだけ日光を遮るような場所にある。日陰者の私にとっては丁度良い場所だ。

 私は家の中に入ると、ガラスの棚から一本のボトルを取り出し、ワイングラスに中身を注ぐ。

 ボトルの中身は人間の血だ。それも一人の人間から採った純粋な血。

 値段が高い上に簡単に手に入る物ではないので、私は普段豚の血か血液型が同じなだけの血を混ぜた物を飲んでいる。

 だが私はなんとなく久しぶりにこれが飲みたくなった。

 こういった物を飲めるのも、医者という立場のお陰である。だからその恩恵を私は今一度確かめたかったのかもしれない。

 「やはり若い女性の血はうまい。金で雇って女性から血をもらうのも悪くないかもしれないな」

 私はそう独り言を呟き、適当に他の食事を済ませて寝室に向かった。

 

 寝室は大きなベッドが鎮座していて、その周りにクローゼットや本棚などが置いてある、シンプルな構造だ。

 私は棺桶では寝ない。というか他の吸血鬼でも棺桶派は数が少ない。単純に寝にくいし、棺桶は別に安全でも何でもないからだ。

 現在の時刻は7時。寝るにら丁度良い時間だ。

   ――プルプルプルプル

 「電話か。誰からだ?」

 私は寝るタイミングの電話に不機嫌になりながらも電話に出た。

 「もしもし、宮下ですけど」

 「ああ宮下先生、その、娘を助けて頂き本当にありがとうございました!」

 急患の娘の母親か。一体どこから私の電話番号を手に入れたのか。

 「礼には及びません、それが仕事ですから。私は今から寝るので電話切りますね」

 私は内心礼を言われて嬉しかったが、それより早く寝たい方の気持ちが勝った。

 「あ、申し訳ございません、そうとも知らずにお電話してしまって。今切りますね」

 女性からの電話が切れ、再び部屋は静かになった。

 「あの女性、名前名乗らなかったな。まあとにかく寝るか」

 私はベットの中に入り込み、目を閉じる。

 次に私が目覚めたところで、夜はまだ始まらない。私が日の光を浴びることはない。

 正直、この身体は不便だ。夜でなければ活動できず、十字架などの弱点も多い。

 それでも私は人間を、患者を助けたい。かつて私が人間の医者に助けられたように、父親に育てられたように。そして何より、自分が人と関わり続ける為に。

 だから私は明日も医者として働き続ける。たとえ化け物として人間から迫害されようとも、絶対に。

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