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何が回転寿司

作者: しゅーなな

「お、回転寿司屋だ。ちょうど腹が減ったから入ってみるか」

 幹線道路沿いをブラブラと歩いていた男は、一階部分が駐車場になっている構造の大型店舗へ入店した。

「いらっしゃいませー」

「うわ! なんだよ!?」

 入店早々、男は驚きの声を上げる。ぐるぐると回転する従業員に迎えられれば無理もない。しかし戸惑う男の様子など気にする素振りもなく、従業員は回転を続けながら声を掛ける。

「えっと、100名でご予約の鈴木様ですか?」

「そんなわけねえだろ! どう見ても1名様だろ!」

「え? でも何人も居るように見えるんですけど」

「残像だな! 回ってるが故の残像だな! とりあえず回るのやめろよ!」

 呆れながら回転を止めるよう促すと、従業員は素直に回転を止めた。

「あ、確かに1名様ですね。ご案内致します」

「全くどうなってんだ……。あ? ただの寿司屋じゃねえか。あのアレだ、回転するコンベアとかねえの?」

 案内された席につくなり抱いた違和感を男は口にした。

「あ、うちそういうのは無いんですよ」

「はあ!? じゃ何が回転する……お前!? お前か!?」

「あ、はい。私が回転する寿司屋です」

「バカじゃねえの!?」

「すいません。でも味はちゃんとしてるので」

 やっぱり味以外はおかしいんじゃないか。その思いは口にせず、代わりに別の事を口にした。

「はぁ、まあいいわ。なんか喋りすぎて喉乾いたからよ、茶より水貰えねえか? 注文は後ですっからよ」

「はい、かしこまりました」

 水を待つ間、男は店内を軽く見回す。コンベアやレーンが無い以外には、見た目にはごく普通の回転寿司屋に思えた。

(まあ、美味けりゃ何でもいいか)

 男が気を取り直しおすすめのネタでも確認しようと思った正にその時、異変が起きた。

「おまたせしました〜」

「うわ冷てっ!」

 突如背後から冷水が降り注ぎ、肩や袖口がびしゃびしゃに濡れたのだ。

「何で回転して持ってくんだよ! 遠心力舐めんな!」

「あ、あ、申し訳ありません。回転寿司なもので」

「もういいから回転すんなよ!」

 男はおしぼりで服を拭きながら、またしても回転を止めるよう促す。

(ったく、何だこの店。もうさっさと食って帰る!)

 そう心に決めて男は注文をしようとしたが、ある事に気が付いた。

「あれ、ここどうやって注文すんだ? このタブレットか?」

 カウンターにはメニューが無く、代わりのようにタブレットが据付けられていた。

「あ、注文はそちらのタブレットでは無くて―――」

 従業員が質問に応えながら、何故か上着をはだけさせ胸を露出させる。

「こちらのタブレットでお願いします」

「うわ、気色悪っ! なんで体に埋まってんだよ!?」

 露出した胸の中心辺りにタブレットが埋まっていれば、男の反応は仕方ないものであった。

「あ、私はタブレット埋め込み型の案内ロボットですので気にしないで下さい」

「え!? お前機械なの!?」

「はい。最近人工知能とかいうのを搭載した小賢しい機械があるじゃないですか。私もそんな感じのやつです」

「ふわふわした説明だなおい! そんで小賢しいとか自分で言うなよ!」

 面食らう男にむけて、従業員は更に説明を続ける。

「名前はドクターペッパー君と言います」

「アウトだな! がっつり抵触してんな! 訴えられるぞ!」

「あ、うちのハゲアタマCEOは訴訟とかに強いんで大丈夫です」

「すげえ抵触してくるなこいつ!」

 常識外れの受け答えに戸惑っていた男だが、ふとある事に気付いた。

「ん? ちょっと待てよ? じゃあこっちに置いてあるタブレットは何なんだよ?」

「あ、それは私のです。充電切れちゃって」

「お前のかよ! 私物持ち込むなよ!」

 余りにも頓珍漢な問答が続き、男は疲れたように溜息をついた。

「はあ。もういいわ、とりあえず注文な。まずは―――」

「お客様。お言葉ですけど、一言言わせて貰いますよ」

 突如男は言葉を遮られる。そしてとぼけるばかりだった従業員の雰囲気が、剣呑なものに変わる。

「あん? な、何だよ?」

「先程から定食、定食とおっしゃいますけどね。うちは寿司屋だっ!!」

「その定食じゃねえよ!」

 え、そうでしたか、すいませんなどと言いながらまたとぼけた雰囲気に戻った従業員を白い目で見ながら、男は口を開く。

「ああもういいわ! 帰る! お前のせいで落ち着いて食えねえよ!」

「あ、わかりました。じゃあこちらの紙をレジで見せてお会計して下さい」

 そう言いながら従業員が差し出した紙を見て、男は驚愕した。

「はあ、二千円!? 金とんのかよ! 何も食ってないのに!?」

「すいません。うちそういうシステムなんで」

「システムも何も、何も食ってないのに二千円なんておかしいだろ!」

 男は立ち上がりながら強く抗議するが、従業員には一歩も引く気配も感じられなかった。

「どうしても払って頂けませんか?」

「当たり前だろ!」

「これが本当の二千円問題ですね」

「くだらねえんだよ!」


おわり

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