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酒と女性と冒険活劇  作者: 豆川 小豆
2/2

お酒と悪口はほどほどに

 一般会社員24歳のカズヤは、クリスマスの一週間前に彼女から別れを告げられるという悲劇の清算をしようと飲み屋街「分町」のニアソムというバーに足を運んでいた。カウンターに立つのはレインボーのビキニを着たニアソムのマスター、ヨシコ。カウンターの椅子に座るひとりは中肉中背中年の男性、シンゴ。太い体にぴちぴちのYシャツで下半身は丸出しで、常に、はあはあ、と生温かい吐息を放っている。もうひとりはピンク色の破れた布を纏い、ナースキャップを頭に乗せる若い男性、カズヤ。布の下からは紫色のトランクスがはみ出ている。


「正気を保つには、人前でパンツになっておネエと一緒にバブみを感じなきゃ。とてもじゃないが落ち着いていられないよ…」


 ヨシコの「服は着ていられるだろう」という正論を無視したカズヤは、神妙な趣で話し始める。「実はですね」。とても真剣な表情だ。


「クリスマスの一週間前に彼女に振られまして。もっと詳細に話すと、一方的に別れを切り出されて、その理由がさ。地元に就職するからだって。遠距離恋愛無理だって。カズ君も遠距離恋愛無理だよね。だって」

 目頭を少し熱くさせながら失恋話を話すカズヤ。そっと小刻みに震える肩を抱き、頭をよしよしする中年男性のシンゴ。カズヤがシンゴに抱かれる光景を目の前に、全く話が入ってこない様子のヨシコは白い眼を2人に向ける。


あまりに気色の悪い光景に「わ、私が慰めてあげようか?」とカズヤの頭に手を伸ばす。

手が頭に触れようとした瞬間、カズヤの口から「お母さん…」との言葉。潤んだ瞳に同情の念を浮かべると同時にヨシコの口からは「ママさんと呼べ」と冷徹な言葉が。1回、2回と頭をポンポンする。


よーしよし。


「何で勝手に決めて、何で勝手に決め付けて、何で勝手にSNSだけで終わらそうとするんだよ! なあ、ヨシコ。女性代表として答えてくれよ。俺が納得するような理由を!」


 またもやカウンターに身を乗り出すカズヤを横目に、シンゴは足元に置かれたカバンからフリップボードを2枚出し、1枚をヨシコに渡す。


「制限時間5分。第1問。クリスマスの一週間前に彼氏を振った理由。それではお考えください」

 カズヤは自身が抱える問題の解答を2人に投げ掛ける。

「大喜利なの⁈」というヨシコのツッコミはさておき、シンゴはすらすらと書き始める。


「カズ君は大喜利で振られた理由を知りたいの? 本当にそれでいいの⁈」


「ママさん。いいんです。大喜利なんかで決めてしまっていいんです。笑い飛ばさせてください。一本取っちゃってください」


 カズヤの思いに応えるべくヨシコとシンゴは真剣な眼差しでフリップボードに書き殴る。

 この5分間の末に導き出される答えを待つ。どんな答えが待っていようと、どんな結末になっても受け入れる。


 カズヤはカウンターにあるチャイサーの水を一気に飲み上げた。


 「はい!」と先に手を挙げたヨシコはフリップボードを見せる。


「カズ君との将来に不安を感じて話し合いをしようと思ったけど、その不安がカズ君を傷付けてしまうと判断して、相談もせずに別れを告げた」


 あぁ。なるほど。

 カズヤは思い返す。


「確かに別れる直前は全くと言っていいほど会話もなければコミュニケーションもなかったし、SNSの返信もなかった。将来の不安も理解できる。今の仕事なんて別にやりたかったわけじゃないし、やりたいこともなかったから、適当に就活してちゃんとしてそうだなと思ったから入社しただけ。2人の将来に不安を覚えてもしょうがない」


「落ち度があるのは俺の方だ」と言うと目線を下に移す。

するとシンゴの陰部が視界の端に映る。


最悪だ。


「落ち込まないでカズ君。これには続きがあってね」と言いながらヨシコは肩を叩く。

「そして、私が一切将来に不安を感じない稼ぎの良い男性を見付けたから」


「え…。さっきまでの俺のブルーな気持ちはどうなるのさ⁈」

 食って掛かるカズヤにヨシコは言い放つ。


「うるさい! 将来性皆無の低所得者が!」


「はい、コンプラ! 言ってはいけないことを言いました。ダメダメ。燃えちゃうから笑えないよ」


 カウンターに伏せるカズヤにヨシコは新しいチェイサーを渡すと、次はシンゴが手を挙げる。


「カズちゃんとのSEXに不安を感じてEDについて話し合いをしようと思ったけど、その不安がカズちゃんを傷付けてしまうと判断して、相談もせずに別れを告げた」


 あぁ。なるほど。

 カズヤは思い返す。


「確かに…とは、ならいよ!」と、シンゴのフリップボードを弾き飛ばす。


「お酒を飲んで息子が起立しなかった苦い経験はあるし、そこから何も学ばず、大量にアルコールを摂取している。今も現在進行形でお酒を飲んでいる」


 「落ち度があるのは俺の息子だ」と言うと目線を下に移す。するとシンゴの陰部が視界の端に映る。


 俺の息子はだんまりかよ。


「落ち込まないでカズちゃん。これには続きがあってね」と言いながらシンゴは肩を叩く。

「そして、私が一切EDに不安を感じない立ちの良い男性器を見付けたから」


「下ネタじゃねえか!」と、シンゴにカズヤはツッコミを入れるとすぐさまシンゴは口を開く。


「うるさい! ED〇ンポ!」


「はい、セクハラ! 男に一番言ってはいけないことを言いました。ダメダメ。トラウマになっちゃうから本気で笑えないよ」


 クリスマスの一週間前に彼氏を振った理由をヨシコとシンゴは考え、答えを出した。


 どう受け取るかはカズヤ次第。


 低所得でEDなカズヤはこの後、号泣するのであった。


「誰だ、最低なまとめ方をしたやつは!」


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