石油王の娘なので現実世界で逆ハーレムを作ろうとしたはずだったのですが
「……私、ありとあらゆるタイプのイケメンに囲まれた、逆ハーレムを作ってみたいと言わなかったかしら?」
「確かにイザベラお嬢様はそう仰いましたね」
「じゃあなんで多種多様なモブ顔男子が勢揃いしているのよ!! 誰がどう見ても、ひとり残らず中の中! 平均ど真ん中どストライクじゃない!!」
イザベラは平然と受け答えする執事のアランに向かって、先程手渡された逆ハーレム候補者達の顔写真リスト一覧を突き付けました。
「どストライクならよろしいではありませんか」
「タイプだって意味じゃないわよ! 明後日の方向に全力投球してるって言ってるの! どういうつもりなの、アラン? 私みたいなお金を持っているだけの地味顔女には、同じように平凡な男がお似合いってこと!?」
リストをぶんぶん振り回しながらカンカンに怒るイザベラ。
「いいえ、お嬢様は十分お綺麗ですよ。少なくとも平均よりは上かと」
「これほど絶妙に喜べないお世辞を言われたのは初めてだわ!」
「しょうがないですね、ご説明しましょう。お嬢様が求めていらっしゃる逆ハーレムとは、複数の男性から熱烈な好意を寄せられチヤホヤされる状況の事ですよね?」
冷静に自分の私欲100%の願望を整理されて、イザベラは若干気まずそうにしています。
「……ええ、そうよ! 何だか具体的に言葉にされると、とても恥ずかしくてむずがゆいけれど」
「この逆ハーレムを実現しようとする際に、もし容姿端麗な男性を集めてしまった場合、一つの由々しき課題が予想されます」
「何よ?」
「誠に残念ながら、お嬢様は驚くほどチョロいので、まるで赤子の手をひねるように誰か一人に容易く篭絡され夢中になってしまい、逆ハーレムが成立しなくなってしまうということです」
「誰がイケ免疫ゼロのお手軽フワフワ女よ! そんな訳ないでしょう!」
イザベラは地団太を踏んで抗議します。
「……先月、色男の詐欺師に幸せを呼ぶ壺を買わされたことを、もうお忘れですか?」
「……あ……あれは……別に彼の見た目じゃなくて、巧みなセールストークにすっかり騙されてしまっただけよ!」
「それでは、先週誘われるがままに美青年が運転するバンにホイホイ乗り込み誘拐されそうになってしまったことは?」
「……そ……それは……ほら……オトリ捜査みたいなものよ!」
どう考えても苦しすぎる言い訳をしつつも、客観的に自分のチョロさを指摘されて委縮してしまうイザベラ。
「……お嬢様。耽美な小説の世界に憧れる気持ちは分かりますが、とりあえず身の丈にあった幸せを手に入れる努力から始められたほうがよろしいのでは?」
「……たとえば?」
「まずは、普通の男性と会話することに慣れることから始められたらどうですか? いきなり泳げるようになる人間は、どこにもいません。まずは水に顔をつけることから始めなければ」
「アランはすぐそうやって私を馬鹿にして! 別に話すことくらいできるわよ! 現に今もあなたとこうして会話しているじゃな……はっ?」
イザベラが最後まで話し終えるのを待たずに、アランは彼女の両手を掴み、顔をぐいと近づけ耳元で囁きました。
「……本気であなた様を狙う男性なら、これぐらいのことは普通にしてきますよ」
みるみるうちに首元から額まで見事に真っ赤に染めあげていくイザベラ。普段の気安い態度と長い付き合いのせいで、目の前の執事が普通などという言葉とは程遠い伊達男であることを、彼女は完全に失念していたのでした。
密着した体……すぐ目の前に眉目秀麗な黒髪執事……吐息が掛かり更に熱を帯びる耳……あっという間にイザベラの感情の目盛りは振りきれました。
「……アランの変態馬鹿執事!!!」
乱暴に手を振りほどいて勢いよく部屋から飛び出していくイザベラ。
「……少々からかい過ぎたでしょうか……まあ、これで少しは大人しくなって下さると良いのですが……」
困ったように、アランはひとり溜息をつきます。
「これ以上他の男に嫉妬させられたら、いくら僕だって我慢できなくなってしまうでしょうから……」