5話 取引
ダンジョンバスターの面々がそれぞれ話し続けるなか静かに聞いていたユンが声をかける。
「そろそろこの人の事聞きたい」
それを聞いた面々はようやく落ち着き静かになる。
「すまなかった、俺を含めてうちのメンバーの悪い癖が出ちまった。悪いが今からでも自己紹介を頼めるか?」
マクが俺に尋ねる。
「大丈夫ですよ。改めまして、俺は時野零二、零二と呼んでください。職業はサラリーマン、いや商人をやってます。」
「商人だって!じゃあダンジョンの中でサナに飲ませたのはもしかして商品だったんじゃないのか。」
マクさんが少し慌てた様子で言う。周りのメンバーを見ても少し暗い表情や慌てた様子をしている。
「ダンジョンの中で飲ませたのは、サナさんがこのままだと危険だと思ったからですよ。」
「でもよ、あのポーションは間違いなく最上級の回復ポーションだったんだぞ、そもそも体力の回復だけじゃなく毒まで回復するのはそうそう出回ることのないもんだ。しかもサナの様子からして体力の回復量も最高レベルだろう。値段にしたら金貨が100枚あっても足りないかもしれない。」
俺は、ようやく理解できた。俺がサナさんに飲ませたのは単なるスポーツ飲料だがこの異世界ではとんでもなく高級な回復アイテムでありそれを払うお金がないから慌てていたのだと。
「お金は結構ですよ。俺としてはダンジョンから連れ出してもらえただけでも本当に助かったんですから。」
「零二がそうはいってもよ、そういう訳にもいかないんだ。商人にアイテムをもらっておいて何も返せないのは冒険者として信頼を失っちまう。かといってそんな金もない。どうしたらいいんだ。」
マクが頭を抱える。
「それなら、今回のダンジョン探索で手に入れたこのスクロールでどうでしょうか?」
横から声を掛けられる。ヒュウさんだ。
「これは等価交換のスクロールです。そこそこではありますが貴重なものでギルドで換金すれば、金貨30枚ほどになると思います。これを先渡しに。残りは出世払いというのはどうでしょうか?」
「ヒュウ、そういう訳にもいかないだろ」
「かまいませんよ。」
マクが驚いた表情で俺を見る。マクは驚いているが俺にしたら店で買ってきたただのスポーツ飲料にすぎない。それに対して貴重な品をくれるというなら断る必要もない。
「ところで、これはどう使うんですか?」
「っああ、ただ読めばいいだけだ、そうすれば等価交換のスキルが手に入る。」
「ありがとうございます。ギルドに着いたら読ませてもらいます。」
そういい俺はカバンにスクロールを入れる。
「それよりギルドはまだですか?」
「もうすぐ見えてくる、あれだ。あのでかい建物さ」
道の先におおきな建物が見える。ようやくギルドに着いた。俺はここで冒険者になる。どうにかしてこの世界から帰るために。帰る方法を見つけるために。
俺は、ダンジョンバスターのメンバーとともにギルドへ入った。