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終わり

ただひたすらに、どこまでも白の広がる空間。その空間に、果てはない。どこまで行っても、気が遠くなるように白だけがひろがっている。


そんな空間に、5人の男女がいた。5人は、大きな水晶のようなものを囲むようにして座っている。

楽しげな表情や、怯えた表情など、それぞれの立場を表すように違った表情を浮かべている。


突然、水晶の中に5つの人影が現れた。人影は、徐々に細部まではっきり映し出されていく。それは、エディにルカ、イアンにイワンにレイだった。


『じゃあ、行こうか』


エディがそう声を発した。その顔には、恍惚とした笑みが浮かんでいる。その笑みは、神の信託を受け実行する熱心な信者のよう。そしてそれは、あながち間違いでもない。エディたちは今から、神であるエリザのために()()()()()を行うのだから。


他の4人が、エディと同じ感情を感じさせる表情で頷いた。



気まぐれで始めたゲームも、ついに終わりをむかえる。

空間の主である男は、自分が始めたゲームながら、たいして興味もなさそうな目で水晶に視線を向けた。

その視線は、すぐに腕に抱いている女性に戻される。男の瞳に、水晶の中の5人と同じ感情が現れる。それは、愛情という感情を煮詰めて煮詰めて、限界以上に濃度を高めさせたどろどろの、言葉で表すことのできない奇怪で異常で、どこまでも純粋な感情。



『がっ!』

『きゃあぁぁ!あなた!』


突然、水晶の中から悲鳴が聞こえた。

水晶には、ルカがとある夫婦を殺していく様子が映し出されている。



「…あ、、あ……」


5人の中で最年少の少年が、ガタガタと震えながら拒絶するように顔を膝にうずめ、両手で耳を押さえつける。


「あれ、どうしたの?まだ始まったばかりだよ?」

少年の横に座っていたもう1人の少年が、震えている少年に気付き声をかける。

「こわい、こわい……」

「えー、どこが?」

「だって『きゃあ!!』


震える少年の声は、水晶の中の悲鳴にかき消された。


『ルカ、なんでこんなことをするんだ!!』

『ルカ、私達はあなたの親なのよ!』


夫婦が叫ぶ。どうやら夫婦は、ルカの親であるようだ。


『なんでって、大切なエリザが、エリザに愛されていないような人間が吐き出した空気を吸うことがないようにだよ。ぼくたちは()()()()()()にこの星をキレイにしてるんだ!……ねぇ、だから、早く死んで?おとーさん、おかーさん』

『っ!』


命が、赤黒い液体に姿をかえて、世にも美しい噴水をつくる。



「死、んだ?…………死んだの?」

体と共に声を震わせながら、少年が呆然と呟く。

「そーだよ。これ、とっても面白いね!」

空間に、少年の無邪気な笑い声が広がる。



『あはははは!楽しいな、これ!』


少年の声に重ねるように、水晶の中から笑い声が響いた。

水晶は、先程とは別の場所を映し出していた。


『イアン、楽しいのは分かるけど、時間をかけすぎちゃダメだよ。さっさと終わらせてエリザに会いに行こう』

『もちろん!ってことで、さっさと死ね』

『ひっ、、や、やめ………』


満面の笑みを浮かべたイアンは、何の躊躇もなく男を殺した。

全身を赤黒く染めた双子の周囲には、よく見なければ人間だと分からないほどにぐちゃぐちゃになった死体たちが転がっている。


『お前らは、この星に生きてちゃいけないんだよ』

『そうだよ。エリザと同じ星に存在してるなんて、おこがましいでしょ?』

『『()()()()()()に、もっともっと汚物を消さないと』』


似ていない双子の顔には、まったく同じ笑みが浮かんでいた。



「また、死んだ………もう、やだ、、こわいっ……帰りたい…家に帰して!」

少年が、大粒の涙を流しながら、滅多に出さない大声をあげた。

「えー、もうちょっと見てようよー。あ!ほら見て!新しいの出てきた」



少年が指差す水晶には、レイが映し出されていた。


『掃除…掃除……めんどくさいなぁ……死ね、死ね、、早く死ね。それがエリザの望み。。()()()()()()に、早く死ね』

『エリザ、、喜ぶかな?…喜ぶよね……褒めてくれるかな?楽しみだなぁ』


そう小さく呟き、腕に大事そうに何かを抱えながら、ただ人の群れの中を歩いていく。

それだけなのに、人間たちは次々と倒れ、もがき苦しみながら、ゆっくりと命の灯火を消していく。

レイは、自らの体の周りに、人間だけに有害な気体を纏っていたのだ。

レイの後ろには、体の変色した人間達の死体が積み重なっている。

レイは、そんな人間達のことなどどうでも良かった。歩いているだけで死ぬのだ。他に4人と違い、認識する必要もない。

レイはただ、“この結果にエリザが喜んでくれる”それが楽しみで仕方なかった。


―虫が嫌いな彼女のために、部屋に殺虫効果のある気体を満たす。知らない内に、部屋の中に入った虫は死んでいく。彼女が喜ぶ―


レイにとってこれは、そんな人間の日常の1つと、全く同じものだった。

姿形は似ていても、人間は魔族のレイにとっては別の動物であり、人間にとっての蚊のようなものだった。

そしてエリザは、そんな蚊達とは違う。自分の神だと。自分の愛する人だと。そうレイは認識していた。

愛する人が望んでいるから殺す。

やっているのは、人間と同じ事。ただ、それをするのが、魔族であるだけ。殺す対象が、人間であるだけ。


けれど、人間から見ればそれは恐ろしいことであり、結局愛する人を殺し解剖が出来る時点で、レイの愛情もまた、歪んでいるのだろう。


レイは、エリザの抱き枕(レイ用)を抱き締めながら、そっと、穏やかな笑みを浮かべた。



「人間じゃないなら、人間を殺しても変じゃないね」


先程まで泣いていた少年が、この映像にはなんの恐怖も嫌悪感も見せず、そう呟いた。

けれどそれ以前の映像の影響により、涙は流れ、体は震えている。

少年の呟きは、異常の中にやっと見つけられた少年にとっての常識を、より強く認識するためのものだった。そうして、少しでも恐怖を和らげようとしているのだ。

しかし、自分と同じ人間が死んでいく様子を見ていれば、殺しているのが例え人間ではなくても恐怖を感じるのが通常だろう。しかし、少年はそれを感じない。

この空間に来ている時点で、少年も既にどこか壊れているのだろう。


「おー!やっと分かってくれた!!ほら、次次、最後だよ!」


少年が、心底嬉しそうな笑みを浮かべ、水晶に視線を向ける。



水晶には、エディが映し出されていた。

エディは、最初浮かべていた笑みのまま、逃げ惑う人々を殺していく。


『エリザはね、外が嫌いなんだよ。でも、本当は嫌いじゃないんだ。人がいる場所が嫌いなだけなんだよ。この星には、どこに行っても人ばかり。だから、()()()()()()に殺さないと。エリザの努力もなにも知らないのに、天才だの、美人だの、好き勝手言ってエリザを傷つける。そんな奴らは、いない方がエリザのためだよ。君たちも、エリザのために死ねるなら嬉しいでしょ?だから、さっさと死んで?』


まるで演説をするように喋りながら、優雅な舞を踊るようにして、一瞬で命を消し去る。



エリザのために、人間を滅ぼす。


これが、彼らが思い付いた()()()()()()()()()()()()


あと数日で、エリザ達以外の人類はこの星から姿を消すだろう。



「さて、コリー。今回のゲームはどうだった?」

男は、目の前で満面の笑みを浮かべている少年、コリーにそう尋ねた。

「今回もすっごく面白かったよ!さすがアーク!」

「それは良かった。それにしても、コリーがつれて来たそれ、ずっと震えてるけど大丈夫?」

男、アークは、コリーの横でずっと震え怯えている少年に一瞬だけ視線を向けた。


「うーん、ルイにはまだこういうの早かったみたい。すっかり怯えちゃった。せっかく新しいお友達になれると思ったのになぁ~」

いまだに震えている少年、ルイをみながら、コリーは不満げな表情を浮かべた。

「そう簡単に、人間はボクたちを受け入れてはくれないよ。でも、何回もためせばいつかは受け入れてくれる」

「その結果が、その女の人?」

コリーが、ルイからずっとアークの腕の中にいる女性に視線を移した。


「そうだよ。ボクの大事な大事なエリカ」

「それで、さっきからずっと水晶ガン見してるのが、アークとその人の娘?」

コリーは次に、5人の中の最後の1人に視線を向けた。

「そう、一応ボクの娘。この前始めて会ったけど」 

アークは、少女の方を一切向かずにそう言った。

「……お父さんにはマジで感謝。お父さんがエディとレイに未来を見せたおかげで、私今こんなに幸せなんだもん。ほんとだったら私もう死んでたもんね」

少女も、アークに視線を向けずに水晶をじっと見つめたままそう言う。

「へー。それは良かったね。ボクはエリカがいればどうでも良いや」

「うわー。お父さん冷た~い。エリザ泣いちゃ~う。しくしく」

「うるさい、黙れ」

「ひどっ」

アークの娘、エリザは顔に手をあて棒読みで泣き真似をした。しかし、すぐにそれは笑い声に変わる。


「ふふ、ふふふ。みんなみんな、私をとっても愛してくれるの。私のために、人もたくさん殺してくれる。しあわせだなぁ」

エリザが、小さな手の向こう側で、壊れた笑みをうかべる。


「エリカ、君が必死で依存させようとした娘は、もうエリカのこと見えてないみたいだよ。ふふ、でもエリカはそんなの気にしないよね。だってエリカにはボクだけだもんね。ボクだけを愛してるんだよね」

「…うん、、そう、アークだけをあいしてる」

「そうだよね。嬉しい、ボクも愛してるよ」


歪な愛情で出来上がった家族は、歪な愛情で最上のしあわせを感じ、それぞれの笑みをその顔に浮かべる。


「……な、なん、なの、この人達……狂ってるよっ」

ルイが、あり得ないものを見る目でそう言う。

「そうかな、ボクたちからしたら、変なルールを守ってやりたいこともやれないのに幸せだとか言ってる人間の方が狂ってると思うけどなー」

「っ!………やりたいこと……」

コリーの言葉に、ルイは大切な少女の顔を思い浮かべる。

「ねぇねぇエリザ、やりたいこと全部出来て、幸せ?」

コリーは、楽しそうな顔でエリザに尋ねた。


「もちろん!最高にしあわせだよ。何も我慢しなくて良いんだもん!私の人生で唯一の失敗は、あの人たちの娘に生まれたことだろうね。そのせいで、私という人間が出来上がって、たくさんの人が死んじゃった……でも、それは最初の成功でもある。そのおかげで、私自身はこんなにしあわせ…」


エリザのその言葉は、自分自身が生まれたこと自体を否定する言葉。

本心から出たその言葉が、偽りになった時、エリザ達は本当の最高なしあわせに出会えるだろう。

これで一応完結です!

ここまで読んでいただきありがとうございました!

まさかこんな終わりになるとは、投稿を始めた時は思いもしませんでした。終わりなんて考えず、完全に勢いで始めたので……。

本編は完結ですが、エリザたちのその後の話、エリザの両親の話などを投稿していきたいと思っています。良かったらそちらも覗いていただけると嬉しいです。


今回出てきた人たちの説明を少しだけします


アーク エリザのお父さん。エリザは『人間?』の最後のとこの夢で始めて会った。ヤンデレ。この世界の神様。詳しいことは番外編で。


エリカ エリザのお母さん。『過去』で虐待してた人。ヤンデレ被害者。詳しいことは番外編で。


コリー アークの友達。


ルイ コリーに連れてこられたかわいそうな男の子。


コリーとルイは、『絡み合う愛情と憎しみ~少女は誰の手を掴むのか~』のキャラ。なんか書いてたら出したくなったのと、ルイがいろいろ知った過去にこれちょうどいいかな、って想ったのと、作者の自己満足で出した。多分2人とももうこれには出てこない。

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