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0章0話 「つまるところ転生悪役令嬢で勇者でチートなだけなんです!」

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※本作は多大な百合表現を含みます。主に百合です※

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 私、佐藤美也子!ちょっとお茶目な20代!今日も会社の強制飲み会イベントでしこたま酒を飲まされ千鳥足!うわ!たいへ~ん!前からこれ見よがしに危険なトラックが!私いったいどうなっちゃうのぉ~?!

 次回! 美也子、死す。


「……いやホント、死んでるんですわ」


 ありきたりな死に方だったと、濁流のように()()()()()()()()()。所詮貴様は最弱の一般人、とまでは言わないけれど随分呆気ないふざけた死に方だと悲しくなる。

 それでも思い出せる行為というのは意識がある生きた人間が出来るものであって、そう、確かに死んだ覚えのある私は今生きている。生きているのだけれどそれはもうお茶目な20代の私ではない。

 やけに肌触りの良い服の裾を(ひるがえ)す生足は仕事の浮腫(むく)みやムダ毛なんて知らない玉の肌。同じような手だって小枝かと思うくらい細い、いや心配になるレベル。きっと重い物持ったら潰れちゃうね。自分の手足として動かして、恐る恐る向かう先には身長すっぽり収まる姿見。


「ひぇ…」


 情けない声が美少女から漏れた。

 キューティクルワンダホーみたいな艶々のふわふわの黒髪に、ネコチャンみたいな勝気な瞳、お口もちっちゃないや顔も小さいなほんまかいなワレ…。と語彙力のない感想が駄々洩れになってしまったけれども、あまりにも本人との顔面偏差値の違いに驚いてしまい助けてほしい。そのままぺたぺたと顔を触っていてやっと自覚したけれども、やっと記憶が落ち着いた。

 前世の人格が色濃いけれど、今世の記憶(じんかく)も段々と思い出した。

 今ここで自分の容姿を褒めちぎりながら騒いでいた私は、いわゆる乙女ゲームの住人(キャラクター)。ファンタジー世界を題材としたその世界は聖女としてイケメンに蝶よ花よと愛される主人公が冒険をする話なわけだけど、私は愛され系ヒロインではない。言ってて腹が立つのはご愛敬。

 今世の私は―――ジゼル。ジゼル・ド・オーヴェルニュ。


「―――〝悪魔の子〟ジゼル。処刑の時間だ」


 この世界(ゲーム)では、処刑(ころ)されるはずの悪役令嬢(キャラクター)名前(じんせい)だ。





0章 0話 「つまるところ転生悪役令嬢で勇者でチートなだけなんです!」




 詰んだ!!

 自分の容姿ばかりに気を取られていた所為で気づかなかったけれど、私ことジゼルが居た場所は作りこそ良いものの完全に監禁する用の部屋だった。普段ふかふかベッドで寝る習慣がないからか普通にいい部屋感あったけれども、よくよく見れば窓の鉄格子にこんな勝気なお嬢さんが居るにしては簡素な部屋だった。ジゼルの記憶を思い出せば手足が細いのも頷ける、自分の死を間近にして食事も喉を通らない訳だ。

 ジゼル・ド・オーヴェルニュは公爵家の一人娘。現在は齢17歳の青春真っ盛り。何不自由ない生活は貴族としての彼女を良くも悪くも育ててしまい、ヒロインは庶民から聖なる少女として迎えられ王子に見初められるところに出くわしてしまった。その事に嫉妬と、庶民という下賤な輩といった固定概念に突き動かされヒロインに対する嫌がらせがエスカレート。イケメンが守ろうとなんのその、手練手管で様々な形の悪意をぶつけてくる。最も中盤では、その悪意が行き過ぎてしまい黒魔法によって外部の魔物を王国…キャラクターたちが過ごす王国内に招き入れてしまう。

 魔物は主人公たちにより事なきを得るが、ジゼルはその大罪の為に処刑されてしまう。

 そして!今日は!ジゼルの処刑イベント!!だめだこりゃ。否応なくドアノックもしない非常識な処刑人はテンパる私を無視して手慣れた作業で両手に手錠をかけられ、ごつごつとした鉄が手首を削るような感覚を受けながら強制的に連れられて行く。

 まぁそしてあの部屋は、貴族の令嬢…それも公爵家の令嬢としての最期の気遣いだろうなぁと。罪人としての牢屋にぶち込まれないだけましだったのかもしれない。それでもそれは他人だった私の所感だけれども。

 今はまだ彼女は死んでいない。溶け込めていない人格が何故、と怒りと憎悪、恐怖と後悔の叫びをあげる。胸の内から激しく蹴り飛ばすような誰かの感情に慣れない戸惑いなど誰も知ることは無く、とうとう私は民衆が娯楽を前に囃し立てる処刑場へと辿り着いた。

 前世で呆気なく死んだ癖に今生でも死ぬのか私は。魂が呪われているとしか思えない。寺生まれを連れてきて欲しい。

 しかもゲーム世界の住人等といった所謂転生モノ。悪役令嬢になってバッドエンドを回避しながら実はイケメンとイチャイチャするといったエピソード一つ体験する暇を与えない。と言っても私はこのゲーム、タイトルさえあやふやで友達がしていたのを借りているだけなので攻略相手に思い入れなどは無いのだけれど…強いて言えばヒロインがめっちゃ好みの激かわ女子だったことかな。


「最後に見たかったな…リディアーヌ」

「貴様がその名を口にするなッ」

「ウワッ!?」


 鋭い切っ先が不穏な音をたてながら私の眼前を斬る。もう少しで鼻をそぎ落とされたのではないかと心臓をバクバクさせながら見ればやけに顔立ちの良いイケメン。俺様熱血王子様系の顔立ちの彼は確か見覚えがあって、このゲームの攻略対象。名前は忘れたけれども地位も剣術もすこぶる高いメインキャラクター。ヒロインを守り国を守る聖なる王子からしてみれば、ヒロインを貶め国を危険へと追い込もうとするジゼルは殺すべき、憎むべき人なのかもしれない。

 けれどもだ、16歳の少女に向けるには些か血走り過ぎている眼差しは精神的には20代な私も恐怖を感じずには居られない。ましてや誰も彼女を助ける者は居ない。

 目の前の娯楽を今かと楽しみにする民衆。私へと強い殺意を向けるヒロイン関係者。見ていられないと興味を捨て去って去っていくジゼルの家族。

 ああ、可哀そうだな。悪役だからと一蹴されてしまう小さな命はヒロイン(プレイヤー)には分からない葛藤と恐怖を抱えていた。今はただ絶望だ。あの胸をたたく衝動も生きたいという希望も萎えて消えかかっている。あるのは部外者のような顔で現実を受け止め切れていない転生者(わたし)だけ。


「安心しろ、剣の腕には自信がある」

「…今から死ぬ人間に安心しろだなんて、掛ける言葉がそんなちんけなものだなんて」

「なに、貴様ッ減らず口をッ」

「今生での初めての会話なのだからちょっとは許してくださらないと。浅慮で器の小さな男と呆れられますわよ? 可愛いあの子に」

「ッもう! もう待たない! 今ここで! 悪魔の子ジゼルの処刑を行う! 天におわす我らが主よ! この穢れた魂を清めたまえ!」


 それは好都合だ。清められた方が今度は長生きできるかもしれない。

 無理やり肩を押さえつけられて首を斬首台に乗せられる。私は諍うこともせず歓声を最後のBGMに聞きながら、あの鋭い白金の刃が自分に振り下ろされるだろうと、思っていたのだけれど。


「グアッ!」

「何だ貴様ッ、グゥッ!」

「捕え、ガッ!」


 おや? まさか? 処刑場の様子が?

 チラッと閉じていた目をあけて、見上げるとその人と目が合った。

 綺麗なブロンド髪を翻して黒を基調とした軍服に身を包んでいても分かる女性的な体つき。ちょっと視線を下げたら艶めかしい白い太ももが目の前にあるような近さでその女性は振り返る。


「やはり、私はついているわね」


 思惑が当たったと不敵に笑うその顔は、私に負けず劣らずの超絶美少女。

 深い赤色の釣り目がちな目元、はっきりとした顔立ちは気品漂うもので…。って、見惚れている場合ではないのでは? 要するにこの状況は。


「な、何者だ貴様は!」

「我が名はエルリカ・ヴォルフガング・フォン・クラウゼヴィッツ! 隣国に挨拶がてら有望な若者を頂きに参った! この者は悪魔の子では有らず! 神託によって選ばれし神子(みこ)である!」


 張り上げる声は処刑場に集まった総てを統べる迫力を持ってあれだけ煩わしかった観衆は鳴りを潜めている。それでも、そんなことは許さないとばかりに邪魔をされて怒るのが彼の王子様であるわけで。私を含め彼女の言い分は理解できないとばかりに憤怒の声と一緒に切りかかる怒りん坊だ。

 甲高い音を立てながら白刃を直ぐに抜いた剣で易々と受け止めてしまえる彼女は、単身でこんな舞台に上ってしまえば乱してしまうくらいには強いのだろうなと人ごとの様に見てしまう。

 私そっちのけで戦闘が始まってしまうが、攻めて受けての技巧は素人目には何だか凄い! としか言いようがない。びっくりするほど跳ねたり蹴ったり動くんだもの。人間じゃないよ。


「我が国の決め事に勝手にしゃしゃり出てくるな!」

「成程恋は盲目とはよく言ったものね。この国なんてちっぽけな物事しか捉え切れていない愚か者が、本質を理解しきれていないのは無理もない!」

「何だと貴様ァッ!」

「生憎こちらには時間がないの。貴方が要らない命ならば私が貰い受けるわ」


 と、彼女は流れるような剣裁きで彼の王子をいなすとそのまま私の拘束を斬り壊してしまった。突然の解放感にも逃げる反応すら見せない、つまりは戸惑って動けない私を軽々抱き起こすとスタコラさっさと脱出を図る。というか、私がいくらやせ細っているとしてもこの女の子のどこにこんな力があるものなのか。


「ん? 怖い思いはさせないわよ。そのまま抱かれていなさい」

「やだ…イケメン…ってそうじゃなくてですね、あのですね。めっちゃ追って来てますけどね?!」

「想定内よ。貴女を手に入れる為ならばこれ位の対応は必要範囲内ね」


 さてこの女の子! 何だかとっても強キャラ感する女の子! 私、と言うかジゼルに対して何を望んでいるのか。

 記憶の限りだと悪訳令嬢ことジゼルは主人公のお邪魔敵であるわけだけど、その実神子…なんていう裏設定は無かった筈。更にはこの女の子すらゲーム本編で見かけた覚えはない。いやこんなに好みの顔立ち美少女を私が忘れるはずはないのだけれど、うーん思い出せない。隣国の設定なんてそのままお隣の国みたいな感じだったしなぁ。

 あれー? と首を傾げる私とは緊張感がまるで違う彼女はすかさず逃げ込んだ森の中の手近な遮蔽物に隠れると追ってをやり過ごす。


「このまま私達は王国領を抜けるわよ。途中で馬を用意させているから、と言ってもこの身体じゃまともに乗れないでしょうね。…勿体ないわね、綺麗な子なのに」

「ひゃっ!? び、びっくりする、びっくりしますから急に触れるのはちょっと!」

「あら? 案外可愛らしい反応なのね。もっと罵詈雑言が飛んでくるかと思ったわ」

「人をなんだと……いや、正しい、のかな」

「そうね。想像や噂よりも随分大人しいし、単にお腹がすいているだけかしら?」

「いやそれは…う、うーん」


 人格が前世の私になっちゃったんですうふふ。とか信じてもらえないだろうし。


「だけど、私には此方の方も好ましいわ」

「それは…どうも」

「手籠めにしやすそうで」

「……あの、私帰っていいですかね」

「帰れる場所があると思う?」


 間近で、にっこり。綺麗な圧のある微笑みを浮かべる彼女の向こう、今も私を探す怒号飛び交う追手たちのもとに帰っては処刑続行、それももっとえげつない方法で再びあの世へだろう。だとするなら、幾分かましなのはこの身の危険バシバシ感じる彼女に着いていく方だろうけれど。

 悪訳令嬢ジゼル、可哀そうが過ぎやしないか。


「……手籠めは、勘弁してあげてください」

「残念ね」


 ちっとも残念じゃなさそうに小さな女の子の無邪気な笑みに似た笑い方は不覚にもキュンとしてしまい、一度は実感がわかない死に際の感覚を飲み込んでジゼルとして生きてみてもいいのでは? と私の心が簡単に彼女に傾いた。

 とはいえ。そのまま隠れている訳にはいかず彼女の手に引かれて走り、隠れて、潜んでを繰り返して進んでいくも一向に追手が振り切れることは無く、状況の打開に策を巡らせているものだと思っていた彼女の様子も芳しくはなさそうで。


「機械兵もいるようね…陽動部隊が圧されていて身動きが取れない状態みたい。一向に追手が減らないのはこちらを対処する余裕がないという事よ」

「じゃあずっとこのままでその、王国領を抜けるんですか」

「癪だけれどそれでは捕まるのは目に見えてる。陽動部隊を攻撃している機械兵だけでも、どうにか駆除出来れば後は混乱に乗じることが……ああ、そうね。忘れていたわ」

「きゅ、急にこっちじっと見て何ですか…」

「神子の力、救済の勇者の証。御伽噺の伝説がただの与太話でないことを、証明してあげましょう? 貴女の手で」


 神子、救済の勇者。彼女の言葉一言一句をゆっくり噛み砕いて理解しようと努める私を気に留めることなく、目の前でその両手を包んでいた黒い手袋を外し腰に付けていた短剣を抜きとると。


「ヒッ…!?」


 目の前で腕を切つけた。

 傷口からぷつっと血の玉が滲み浮かんでその量は重力に従って白い肌を滑り落ちる。彼女は別段慌てることなく自分の血を口にして、私を視線だけで見つめたと思ったら顔の両側を抑えられて深く、深くキスされてしまった。

 え、キス。キス? キス!?!?


「ふむッ?!?!?! ん゛ーーーーーーーーーーーーッ!?!?!?!?!?!」


 抗議の声なんて聞き入れてくれない。ただ熱い()()が口から流し込まれて、私が呼吸が出来ないようにされて飲み込むと彼女の瞳は笑っていて、瞬間胸元に熱い火傷の時に似た痛み。刻まれるようで、書き込まれるようで、肌を焼く感覚にくぐもった叫びをあげるけれど声は彼女の口の中に吸い込まれてしまって。

 その痛みと熱が収まるまで、細くとも力強い彼女の腕に抱かれていた。


「…ようやっと、落ち着いたようね。それに何より、綺麗な証」

「っは、っはぁ…何したの!? ねぇめっちゃチッスぇええええうぇええ?!?」

「落ち着きなさいよ。私の高い魔力を血に宿して、貴女の中の眠っている本来の魔力を呼び起こす起爆剤にしたのよ。今までの貴女の魔力は漏れ出ていたもの程度。最もその力は幼い頃に発現しているはずだったらしいけれど、誰かが意図的に隠蔽していた〝勇者の証〟」

「勇者の…証…?」

「絶対的な膨大過ぎる魔力と、あらゆる属性全ての魔法を統べる事の出来る万能の力よ。おめでとう、そしてようこそジゼル・ド・オーヴェルニュ。全てに裏切られ、全てを手に入れた勇者となって貴女にはこの世界を救ってもらう為に我が国の、いえ…私の個人的な部下になってもらうわ」

「……ほ?」


 そんな設定、ありました?

 いやそれよりめっちゃ胸痛いしめっちゃチッス柔らかかった…って反芻してる場合じゃなくて恐らくジゼルのファーストチッスなわけですよのよ!! もっと!! ちゃんとしてあげたかった!!


「勇者って何!? 私聞いたことないんですけど!?」

「それは帝国の古文書にあって、と。悠長に説明している暇は与えられないみたい」

「ぅわッと!? 地震!??」


 急に地面が大きく揺れ始めて驚いている間も段々聞こえてくる重い何かが大地を踏みしめる音。「機械兵よ」と告げる彼女の横顔が焦りにゆがむ。その理由は林の奥から現れた巨体が物語ってくれた。

 全長は優に2,3メートルの木々を上回る巨体。鋼鉄の煤汚れた機体は重量を感じさせる足音を伴わせて私たちを探していた。人型というよりはずんぐりむっくりとしたフォルムなので所謂パフォーマンス的には小回りは利かなそうではあるけれど。

 ともあれ、危険なのは変わりない。人間の一撃なんて物ともしなさそうだもの。


「さて、それじゃあ貴女の力を見せてもらいましょうか」

「…ん?」

「ん?」

「見せてもらうってどういう事です?」

「どうって…だからさっき言ったじゃない。貴女の勇者の力を目覚めさせるって」

「はぁ。目覚めさせる。…で?」

「でって、使えるでしょう? 魔法」

「え」

「え?」


 生まれてこれまで魔法なんて使った覚え無いんですけど。

 と、答えようとしたけれども待てよ? 前世の私にはもちろん覚えはないが、ジゼルの記憶には覚えがある。覚えがあるどころか、彼女は設定上とてつもなく魔法専攻は優秀だったはず。それでも魔法学なんて貴族の人間からしてみれば初歩的な攻撃魔法しかないけれど。

 いや、魔法は魔法だ。一か八か。私の記憶は信じずとも、体の記憶がなんとかしてくれるかもしれない。


「初歩魔法でこう、簡単にできる…うん。大丈夫、ちょっと燃やしてみるだけで」


 木の陰からこっそりと腕を伸ばして、


着火(ファイア)


 ぽっと、火種がついた瞬間それは瞬時に燃え盛って凄まじい勢いで私の手から伸び機体を炎に染め上げる。外のスピーカーから響く中の人間の困惑しきった声が森中に響くのだけれど、実感がわかない。

 実感がわかないどころか私がマッチの火レベルだと思っていたものは火炎放射器だったのだから怖い。たまったもんじゃない。手から火炎放射器ってどこのびっくりどっきり人間なの。除雪作業もお手の物ってやかましいわ。


「凄い攻撃魔法じゃない! 一体どんな高等魔法を、」

「ふぁ、ファイアです」

「…ファイア?」

「うん」

「…あれで?」

「……うん」

「……これは、想像よりも厄介ね」

「自分が目覚めさせたんじゃないですか!」

「いやまぁ頼もしい力だとは勿論思うわよ! 最高ね! どんどん燃やしましょう!」

「人を火炎放射器扱いしないでください!」

「貴様らこんなところにいたのか!」


 スピーカー越しのくぐもった怒号が響くんだけれど、それがあの王子のモノだと気づいた時には遅く反射的にファイアを出してしまっていた。燃える機体から慌てて逃げだす兵士たちとは違って、王子は私の魔法を避けて突撃してくる。すんでのところでえっと、帝国の子、エルリカに助けて貰う。もはや王子は私たち絶対に殺すマンになっているし、おおよそ乙女ゲームの内容とは思えなくなってきた…。


「逃げ切れるなど浅はかすぎるぞ罪人どもめ!」

「浅慮もいい加減にして欲しいわね。ジゼル、この男を殺すのは()()()()()()()()()の。他に退ける魔法はある?」

「えっと、攻撃魔法自体習ったのが少ないのでちょっと…」

「王国の貴族社会も、その学習制度も低レベルみたいね。いいわ、さっきのファイア。威力を抑えることはできる?」

「ど、どうにか!」

「上出来よ」


 あまりに綺麗に不敵に笑うものだから状況も忘れて見惚れてしまって、彼女が駆け出した瞬間にはっと思い出してどうにか、頑張って威力を調節出来るよう魔力を流す蛇口を絞るようにイメージを行う。すらっと彼女が細長い剣を抜いた瞬間力強い声音が「今!」と合図をくれた。私は言われた通りに調整した火炎を一直線に放射し、彼女はその火炎を剣に纏わせるように動かした。


「機械兵頼りの王国に、私達が負ける事はあり得ない!」


 勝利を確信した笑みで機械兵に向かい、人の何倍かの大きな剣の一撃を華麗に軽やかに避け切った彼女は機械兵の足元にたどり着くと回転を加え遠心力と併せ剣を振りぬき、まさかの機械兵の両足を横に真っ二つにしてしまった。

 当然バランスを失った機械兵はそのまま倒れこんでしまって今度はその両腕を一本一本丁寧に切り落とし、一仕事を終えた軽やかな足取りで私のほうへと戻ってくる。


「面倒な相手は終わったわ。あとは貴女の魔法で焼きながら合流地点を目指しましょう。あとちょっと、頑張れるわね?」

「は、はい」

「いい子」


 お、おお? おおっと?? 不覚にも、今の笑顔はずるくないですか。

 優しく言い聞かせるような綺麗な笑みを浮かべた彼女、エルリカに手を引かれて私は再び森の中を走る。時々機械兵を二人で打倒して、合流地点へ。

 どうして私が悪役令嬢に転生して、その悪役令嬢の世界で勇者になることになったのかの大本の理由は分からないけれどつまるところ。

 私はどうやら転生悪役令嬢で勇者でチートな魔力を手に入れてしまったらしい。


「…詰め込みすぎでしょ」


 私の呟きは風に流されて消えた。



0章 0話 「つまるところ転生悪役令嬢で勇者でチートなだけなんです!」 終


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初めまして。OcalCiderです。

読んでもらえたら嬉しいです。

深夜のテンションで書きました。

テンションで書いてるので大目に見てほしいです。

百合しかない予定ですが少年漫画百合目指します。

おかかおにぎりが好きです。タピオカは黒糖ミルクティー派です。

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