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序章

 伝説の剣士。



 そう呼ばれた人物が、かつていた。


 伝説と言うには、少し最近かもしれない。

 が、その功績は、伝説以外の何物でもなかった。


 幼い頃から剣術・魔法に対し、並々ならぬ才能を見せ、15歳にして騎士団に入団。魔族との紛争に単身赴いては、夥しい死体の山を作る。数々の戦線で武功を立て、冠した称号は数知れず。

 味方は云う。彼は英雄だと。

 敵は云う。彼は鬼だと。



 1人殺せば殺人者、100万人殺せば英雄。すべてを殺し尽くせば神であるらしい。


 ならば彼は間違いなく英雄だった。


 数々の奇跡と、それと同じだけの悲劇を生んだ。




 そして、彼は18歳の時、死ぬ。


 魔族最強と謳われた、同じ「伝説」に殺されたのだ。戻ってきたのは左手のみ。国中が絶望に沈んだ。才能は夭折するという。彼もその運命に従ったのかもしれない。彼の葬儀にはありとあらゆる人が並んだ。誰もが彼の死を悼んだ。


 彼が死んで30年が経ったが、未だ彼ほどの英雄は現れていない。


 彼の名は、彼自身の意思によって歴史には残されていない。しかし、彼を皆が忘れたわけでは無い。


 今でも、街の人々に問えば同じ答えが返ってくるだろう。




 この国の英雄は、間違いなく、「ゴーシュ・アリギエーリ」である、と。

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