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旅の目的は?

「結構凍ってたね」

「すまぬのだ」

「全く、シュバルツは加減しないとだめよ。レティが凍えちゃうわ」


気が付いたら、周りの森や地面まで凍り付きだしたので、休憩ついでにたき火で温まることにした。

氷耐性のせいで気づかなかったよ。

春さきなのに、すっかり雪国みたいな風景になってるよ。

シュバルツは氷系の魔法を得意とするシルバードラゴンだから、興奮すると周りを凍らせちゃうんだよね。

「もう夕方だし、今日はこの辺で野営しようか」

「いいわね! ちょうど疲れてきたころだったのよ」


荷物を降ろして、道のわきによける。

適当な石の上に腰掛けると、アイシャもすとんと腰を下ろした。

山の中の村育ちだから、アイシャもそれなりに山歩きは慣れている。

でも、今日くらい歩いたのは初めてだろうから、きっと疲れたよね。


「アイシャ、お疲れさま。夕食の準備は私がするから、休んでいていいよ」

「ホントに? ありがとう、助かるわ」


足を擦り擦りしてもんでいるから、だいぶ疲れたんだろうなあ。

なんだかんだ、半日は歩きっぱなしだったもんね。

薪にする木の枝集めついでに、湿布になりそうな薬草を探してみよう。


「街道までは、あと一日半くらい……明後日の昼間には合流できるかな」

「うう、まだ結構あるのね」

「今日はあんまり距離が稼げなかったからねえ」

「海までは、まだまだね……」


嫌そうにつぶやくアイシャに、草の上に寝ころんだシュバルツがきょとんと首をかしげる。


「海くらい、我がひとっ飛びで連れて行ってやるぞ」

「シュバルツ! それ、最高だわ!」


シュバルツの言葉に、アイシャが歓声をあげた。

そりゃあ、シュバルツにお願いしたら一日もあれば海までつくだろうけど……


「駄目だよ。旅行はゆっくり行くものでしょう?」

「ええー!」

「む……」

「目的地だけが旅じゃないよ。私は色んな所をのんびり楽しみたい」


そういえば、アイシャの旅の目的は何なんだろう?

急いでいるのかな?

薪に簡単な魔法で火をつけると、私はアイシャに問いかけた。


「アイシャはどこか目的地があるの?」

「目的地?」


私の問いかけに、アイシャはびっくりしたような顔をした。

ぱちぱちとたき火がはぜる。

青白かった頬も、少し赤みが差してきたみたい。


「旅の目的とかさ。私が海に行きたいから、ついてきてくれるんでしょう?」

「えーっと……」


アイシャは照れくさそうに、たき火に枝を刺してぐりぐりした。


「目的っていうか……私も、ただ村から出たかったっていうか」

「うん」

「うむ」

「このまま村の中で一生を終えるのが嫌だったのよ。それなのに、アンタが私を置いていこうとするから」


そういうと、アイシャは頬を赤くして唇をとがらせた。

その仕草が可愛くて、私はへへ、と笑った。

シュバルツも真似してくは、と笑う。


「な、なに笑ってるのよ!」

「別に! じゃあやっぱり、ゆっくり旅しよう。ね、シュバルツ!」

「そうだな。我もレティとゆっくり旅がしたくなってきたぞ」

「そうしよう。あ、あったまったみたい」


草に包んでたき火の周りに転がしておいたお肉が蒸しあがってほかほかと湯気を立てている。

このお肉は、さっきシュバルツが踏みつぶしたグレーウルフの仲間のものだ。

シュバルツに怯えて逃げまどっていたのを、シュバルツが一匹くわえてきてくれたんだよね。


ほかほかの蒸し肉をアイシャに渡すと、恐る恐る包みを開いている。


「グレーウルフの肉なんて、初めて食べるわ」

「村では捕れたことないもんね。ちょっと癖があるけど、香草を入れて蒸してあるから美味しいよ」

「ロゼッ……レティの料理はおおざっぱだがウマイのだ」

「あら、いい匂い……って、アンタは食べたことあるわけ?」


お肉にかぶりつこうとしていた私は、ぎくりと固まった。


「…………春なのに、陽が落ちると寒いね。あったかいお肉は美味しいなあ」

「我には春でも暑いくらいだがな」

「今寒いのは、季節関係ないと思うわ……レティ、そのうちちゃんと話してもらうから、覚悟しなさいよ」

「……」


アイシャの視線から逃げるように、凍り付いて樹氷みたいになった周りの木々をみあげる。

はあっと吐いた息が白い。

勇者の能力を引き継いでいる私は暑さ寒さ無効だけど、薄手のマントを着ているアイシャは寒そうだ。

シュバルツはむしろ快適そう。


「ちょっと寒いね。たき火大きくしようか」

「できるの?」

「うん」


たき火の大きさに範囲を調整して、魔力を流し込む。

そしてたき火に視線を向けて一言呟いた。


「燃えろ」

「ぎゃっ⁉」


途端、爆発したように炎が吹き上げ、暗がりに包まれた周囲を明るく照らしだす。

きっちりたき火の囲むくらいの範囲で、雲の中に突き刺さる火柱がごうごう燃えている。


「……レティは相変わらず魔法が下手なのだ」

「さっきはうまくいったんだけどなあ」

「ちょっと、なんなのよこれ! どうにかしなさいよおお!」

「大丈夫、細長いし森には燃え移らないよ」

「そういう問題じゃないわよ!」


天まで届く炎の柱のようなたき火を見上げながら、私はぽりぽりと頭をかいた。

勇者だったころから、魔法の細かい調整って苦手だったんだよね。

思いっきり爆発させるとか、全力でたたきつけるとかなら得意なんだけど。


「……だって消し方わかんないし」

「我が消そうか?」

「シュバルツがやると、また雪国みたいになるじゃん」

「むう」

「どっちでもいいから、どうにかしなさいよおおおおおおおお!」


夜空に、アイシャの絶叫が響くのだった。



誤字報告ありがとうございます!

なにこれ超便利!!!

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