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ドラゴンのシュバルツ

「で? なんなのよ、そのドラゴン」

「だから、友達のシュバルツだよ」

「友達、友達……そう、我はロゼットの友達だ」


友達という言葉が嬉しかったのか、シュバルツはにまにまと笑っている。


「……ロゼット? ロゼットって誰?」

「シュバルツ!」

「む……」


失言に気付いたシュバルツは、むぐっと口をつぐんだ。

私の前世のことを、アイシャは知らないのだ。

前世での名前で呼ばれたら、ややこしくてかなわないよ。


「ねえ、ロゼットってだれよ?」

「えーっと、私の親戚の名前だよ。お父さんのお母さんの妹の旦那さんのいとこの妹の友達の娘さん」

「え⁉ ちょ、ちょっとまって! アンタのお父さんのお母さんのいとこの妹の……」


アイシャが指を折りながら考えているのを眺めながら、私は前世でのシュバルツとの出会いを思い出していた。


シュバルツがグレーファングをふみつぶ……倒したお陰か、奴らの群れはどこかへ退散したらしい。

大空の覇者であるドラゴンの存在に、魔物の気配どころか、森の動物たちさえ息をひそめているのだろう。

すっかり静かになった道を、私たちはてくてくと歩みを進めた。

私の胸には、腕の中に納まるほどの大きさになったシュバルツが鎮座している。

先ほどまでの恐ろしい姿はどこへやら、ちょこんと小さな手を私の腕にかけて前を向くシュバルツはとても可愛らしい。

申し訳程度についてるツノとか、飛べるのか心配になる小さな羽とか。

すっごい可愛くて、ついついなでなでしてしまう。


シュバルツは、前世の私……勇者ロゼッタの騎竜だったドラゴンだ。

シュバルツとともに大空を駆け、魔王の城までも飛んでいった。


……ていうか、さっきドラゴンの王とか言ってなかったっけ。

前世の時はそんなこと言ってなかったような気がするんだけど。


シュバルツとは、勇者として各地を転戦してる時に出会ったんだ。

あの時はまだ子供のドラゴンだったんだよね。

当時、ドラゴン族は魔王と敵対していた。

戦争のさなか、魔王の配下に親ドラゴンを殺され、つかまりそうになっていたシュバルツを私が助けたことがきっかけで、一緒に旅するようになったんだ。

まあ、子供って言っても十メートルはあるドラゴンだったけど。

随分大きくなったなあ。今は腕の中に納まるくらいちいちゃいけど。


あの頃は、小さくなれなかった気がするんだけどな……まあ、この大きさのほうが一緒に行動するのには楽だなあ。


前世ではシュバルツの大きさのため、街にも入れなかった。

だから街に立ち寄るときは、いつも外で野宿になっていて、私だけずるい、と文句を言われたものだった。


「ねえ、レティ、ロゼットさんって途中で他人になってない?」

「親戚だってば。お父さんのお母さんのおばあちゃんの旦那さんのいとこの弟のお嫁さんの娘さん」

「待って、さっきと違くない?」

「同じだよー」

「……お父さんの、お母さんの……」


……指をおってるけど、何を数えてるんだろ。

再び考え込みだしたアイシャから視線をずらし、腕の中のシュバルツに話しかけた。


「ねえ、前はこんな風に小さくなれなかったよね、どうしたの?」


そう聞くと、シュバルツは少し悲しそうにつぶやいた。


「あの大きさのままでは、魔王城に入れなかったからな。小さくなる訓練をしたのだ」

「シュバルツ……」

「あのような失態、二度と犯さぬ」


シュバルツのビー玉みたいにキラキラした瞳が悲し気にかげる。

私が命を落としたことを言っているんだろう。

でも、魔王城にシュバルツを連れて行かないと決めたのは私だ。

太古の魔人による結界がはられた魔王城は、聖属性のドラゴンであるシュバルツの力を減衰させるから。

シュバルツを危険にさらしたくなかったのだ。

つまり、魔王城に入れなかったのは大きさのせいではない。

何故シュバルツはそんな勘違いをしているのだろうか。


「すごいわね、ドラゴンって大きくなったり小さくなったりできるのね!」


考え事から復帰したアイシャが、感心した声をあげる


「アイシャ、考え事は終わった?」

「他人事感がすごいわね。もうどうでもよくなったわ。親戚なんでしょ」

「うん。そう」


アイシャって単純で可愛いなあ。


「ドラゴン族でも、こんなに小さくなれるのは我だけだ」


シュバルツは、ふんすと鼻を鳴らして得意そうにした。

ツンと鼻をそらせた姿が可愛らしい。


「そうなの? シュバルツはすごいのね!」

「ふふん! 頑張ったのだ」

「いっぱい修業したの?」

「うむ。ロゼッ……もうレティから離れないのだ」


そう言って私の胸に顔を擦り付けるシュバルツ。

小さくなった手が、ぎゅうぎゅうと私を掴んでいて、ちょっと痛いけど可愛い。

ちょっぴり泣いているみたいで、少し冷たい。


「シュバルツは、レティが大好きなのね……レティ、服がびしょびしょだけど」

「さむくないから大丈夫―」

「そ、そう……」


ホントはちょっぴり寒いけど、シュバルツのためならこんなのへっちゃらだもん。


「レティ、ちょっと凍ってるわよ」

「平気平気。シュバルツは氷のドラゴンだからね。体温低いんだよ」

「へえ。雪みたいな綺麗な銀色だもんね」


シュバルツを抱き締めながら、私たちはまたゆっくりと歩き出したのだった。



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